閑話「元勇者・勇人の決意」
九条勇人は、異世界で勇者として魔王を討伐した後、元の世界に戻ってきた。
引き止める人々の置いて、それでも元の世界に戻ってきたのは、家族のため、友人のため、色々と理由はある。
だが、勇人が必死で異世界での戦いを乗り越えられたのは、どうしても想いを伝えたい相手がいたからだ。
杉野宮子。幼い頃から好きだった、幼馴染の女の子である。
いつから好きになったのか、自覚なんてなかった。
ただ、死線を何度も潜り抜けなければいけないような戦いの日々で、頭に浮かぶのは幼馴染のことだった。
――ここでは、死ねない。あいつにちゃんと気持ちを伝えるまで、死ねない!
そんな想いを胸に秘めながら、いっしょに異世界へ召喚された前田加奈子と共に、最後まで戦い抜いた。
そして元の世界に戻ってきたものの、いざ告白しようと思うと『断られたらどうしよう』『これまでの関係が壊れたらどうしよう』なんて考えて、踏み出すことができずにいた。
そうこうしているうちに、大事件発生である。
「あ、あの……杉野さんは、勇人さんのこと、結局どう思ってるんですか?」
「はっきりいって恋愛対象外どころか論外です」
その言葉を聞いた時、頭の中がまっしろになった。
自業自得であることは重々承知しているが、告白する前から終わってしまった、としばらく立ち直ることができなかった。
その日はぼんやりしているうちに加奈子に連れ回されてゲームセンターなどに行ったと思うが、正直記憶が定かではない。
気付けばもう夕方になっており、その頃になってようやくやばいと自覚しながら帰宅して、家族に事情を話した。
思いっきり怒られた。当然のことである。
謝罪に行くという家族について行きたかったが、宮子から「会いたくない」と伝言を告げられて、うなだれたまま部屋に篭るしかなかった。
新学期最初となった休日は最悪の気分で始まったが、いつもいっしょにいた女の子達に誘われて遊びに行き、元気をもらった。
彼女達は宮子と連絡を取り合っているという。何か、少しでも彼女達から情報を聞けたら……そんな気持ちも、あった。
それとなく聞いたつもりではあったが、下心は隠せていなかったと我ながら思う。だが彼女達は、応えてくれた。
交流を絶つのは渚達の心を無遠慮に傷つけたことを反省してほしいからであり、反省するなら交流を再開してもいいと考えている、と。
同時に恋愛対象として見られていない、ということも。
皆、良い子達だと思う。
一年の頃にそれぞれ困っている場面に出会い、助けたことで交流が始まった女の子達で……いま思えば、それで好意を持ってくれたのかもしれない。
だけど、俺にはその好意に応えられない理由がある。
例え会うことすら拒絶されてしまっても、恋愛対象として見られていなくても。
九条勇人は、それでも杉野宮子が好きだからだ。
ストーカー一歩手前の考え方だとは思うけど、やっぱり想いを捨てきれない。
今はまだ、なんとか首の皮一枚繋がっているはずだ、と思う。
いずれ交流を再開してもいいと思ってくれている今なら、まだ……完全に交流を断絶される前に、想いを伝えられるかもしれない。
もしかしたら今度こそ完膚なく振られて、諦めなくてはならなくなるかもしれない。
それでも、告白することもできず終わってしまうことだけは、できなかった。
「お、俺! お前に、ずっと言いたかったことがあるんだ!
けど、今のままじゃ、俺にそれを言う資格はないって、思う。
だから、時間がかかっても、ちゃんとケジメをつけるから……その時はどうか、聞いてほしい」
「何を言いたいのか分からないけど……いいよ、その時が来るのを、待ってる。
それから……おはよう」
あの時、振り返って応えてくれたことに、どれだけ救われた想いだったか。
待っていてくれる。その言葉を信じて、ケジメをつけるしかない。
あの朝の宣言から、既にかなりの日数が過ぎている。その間に、たくさん考えた。
好意を抱いてくれている相手を、振ってもいいのか。傷つけることになるのは、分かりきっているのに。
だが、傷つけるからといって彼女達の想いを受け入れられるかというと、それは無理だ。自分には心に決めた人がいるから。
なら彼女達を振らずに、あれだけのことがあったのに気付かない振りをして過ごすのか。それは、さらに彼女達の心を踏みにじるだけだろう。
だから……もう心が決まっているのなら、はっきりと答えを出すしかないんだ。
自分があんなにたくさんの女の子に好意を持たれていると信じられなくて、戸惑って、自分でも有り得ないと思う対応をしてしまったけど。
それでも勇人は、前に進むために。きっちりやるべきことをやると心に決めた。
多数の異性に好まれているという、心地良い状況。
だけど、その好意を放っておいたままでは、先に進めない。
恨まれても、泣かれても、きっちりケジメをつけてから先に進まなければ……また、彼女達の心を踏みにじってしまう。
九条勇人は、覚悟を決める。
全ては、自分の長年の想いを、杉野宮子に伝えるために――。




