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学園の中心で「邪魔しないでよ!」と叫ばれた少女 連載版  作者: 千条 悠里
第1章「学園の中心で『邪魔しないでよ!』と叫ばれた少女」
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閑話「(元)俺様君と子猫ちゃん」


 栗原綾が警察に連行されていく頃。

 西園寺伊織は、生徒会室に案内されていた。

 監禁事件による精神的ショックが考えられるため、専門家のカウンセラーが来るまでの間、少しでも安心できるようにと静かな場所で休息するのがいいと判断されたからだ。

 気丈に振舞ってはいても、心の傷は本人も自覚できぬ程深刻な場合もあるため油断はできない。


「あ、あの。わたくし本当に大丈夫ですのよ?」

「まあ、そう言わずに。せっかくなのでリラックスしてくださいな。インスタントですいませんが、紅茶でいいですか?」

「紅茶か。なら茶菓子にはクッキーでも出そう」


 高志と鋼はそれぞれてきぱきと動き、あっという間にティータイムの準備が整ってしまう。

 遠慮する暇もなく準備が整ってしまい、伊織は彼らの好意に甘えるしかない状態になってしまった。


「あ、あの……生徒会室をこのように私用してしまってよいのでしょうか?」

「もちろん、普段ならだめですけど、今は仕事も終えています。生徒のために使うのですから、多少は大目に見てもらいましょう」

「俺達だって人間だ。疲れた時には息抜きくらいする。仕事に支障を来さなければ、問題視はされまい」


 伊織が戸惑っている間にも、紅茶の良い香りが漂い鼻孔をくすぐる。

 緊張で喉が渇いていた伊織は、おそるおそるカップに手を伸ばして「いただきます」と口に含んだ。

 人心地ついて、ほっと息がもれる。

 普段通りに堂々としていようとしても、荒事なんて経験したことがない少女にとって、栗原綾の凶行は心に大きな傷を負わせていた。

 ストレスから解放されて、緊迫感が薄れてくると、今度は恐怖が蘇ってくる。

 扉越しにも感じるほどの悪意。叩きつけられる言葉の刃。

 思い出すだけでも、心臓が掴まれたかのように辛くなる。

 その不安が顔に出ていたのか、鋼が気遣うように声をかけた。


「西園寺。俺に何か、できることはないか」

「……天城様?」


 その声の真剣さに、伊織は戸惑う。

 彼のその様子の理由は、彼自身の口から語られた。


「俺が栗原綾の案内を任せてしまったせいで、お前にあのような辛い思いをさせてしまった。

 本当に、申し訳なく思う。だから……俺にできる償いなら、なんでもする。頼りないかもしれないが、遠慮せず言ってほしい」


 伊織への申し訳なさと心配が入り混じり、鋼の表情は真剣で、それでいて辛そうだ。

 責任感の強い人だから心を痛めているのだろう、と伊織は思う。

 彼が辛い思いをしていることが、伊織は嫌だった。その原因が自分への気遣いだと思うと、さらに申し訳なくなる。

 どうすれば彼を慰められるだろう、と考えながら伊織は言葉を発した。


「天城様は、悪くなんてないですわ。悪いのは栗原綾であって、天城様はただ、生徒の要望になんとか応えようとしただけですもの。

 わたくし、嬉しかったですのよ? 天城様が私を頼ってくださったこと。お役に立てるのだと、喜んでいたのです。

 ……でも、もし天城様が何でもしてくださるというのなら」


 伊織は、恥らうような表情で口元に手をやりながら。


「だ、抱きしめて……くださいませんか?」


 そのように、呟いた。

 自分で口に出していながら、はっとした表情で赤面して慌てた様子で取り繕う。


「わ、わたくしったらなんてはしたないことを……い、今のはどうか忘れてください――」


 そうして慌てふためく伊織の、その小さな身体を。

 鋼は、優しくそっと、そして力強く、抱きしめた。


「不安だっただろう。恐怖しただろう。それを押し殺して気丈に振舞って……よく、頑張ったな」


 鋼の優しく労わる言葉に、伊織の心は解きほぐされていく。

 とくん、とくん。鋼の心臓の音が伊織に伝わり、恐怖と緊張で冷えた伊織の身体と心を暖めていく。

 傍に、いる。大好きな人が傍にいて、抱きしめて、慰めてくれる。

 その幸福感の、なんと甘美なことか。

 伊織の涙からは、すーっと涙が零れ落ち、次第に嗚咽が始まる。

 そんな伊織のことを、鋼はただ黙って抱きしめ続けていた。





 その部屋の隅で高志は、ブラックコーヒーを飲みつつ「苦味が足りませんねえ……」と小声で呟いていた。

 二人だけの世界に入ってしまった彼らを邪魔しないように静かにしながら。

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