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学園の中心で「邪魔しないでよ!」と叫ばれた少女 連載版  作者: 千条 悠里
第1章「学園の中心で『邪魔しないでよ!』と叫ばれた少女」
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第9話「星屑の戦乙女はおとなげない」

「この子が愛ちゃん。よろしくお願いね」

「は、初めまして。九条愛です」


 休日、宮子は真理冶達と約束した喫茶店へ、愛を連れてやって来ていた。

 事前に勇人以外の九条家の人々とは良好な関係であることは説明しており、愛を同席させることは了承済みだ。


「初めまして、新條真理冶ですわ」

「高野由美だよー、よろしくね愛ちゃん!」

「あ、あの……兄の件で皆様にはご迷惑を……」

「愛ちゃんは悪くないよ、だから気にしないで!」

「責を問われるべき者に罰は与えられました。家族だからといって、あなたまで責めるのは筋違いというものです」

「愛ちゃん。気にせず今日は楽しんでよ、ね?」

「は、はい……皆さん、ありがとうございます」


 ぺこり、と愛は再び頭を下げた。

 その頭を宮子が撫でると、由美や真理冶もいっしょになって撫で回し始める。


「わ、わああ。髪の毛くしゃくしゃに……」

「わははー、これで愛ちゃんと私はくしゃ髪仲間だー」

「うふふ。まったく、賑やかですこと」

「それー、真理冶もくしゃ友にしてやるー!」

「こ、こら、ちょっと止めなさいな! もう……」


 きゃあきゃあと賑やかに笑い出した真理冶と由美の様子に、愛もようやく心から安堵した笑顔になっていた。

 その微笑ましい光景に、宮子も笑みが零れた。


「さて、そろそろメニューを決めようか。何がいいかな」


 宮子はテーブルの上にメニューを並べて皆で眺めやすいようにする。

 どのメニューも味が良くて、店内はちょっとリッチ気分に慣れるお洒落な内装。

 それなのに値段は安いと評判の高い喫茶店だ。


「ええとね、私はこれ! ウルトラデラックス生クリームチョコストロベリーマウンテンパフェ!」

「……1杯で2000キロカロリーオーバーって、女の子に喧嘩売ってるよねこれ」

「だけど美味しいと評判だから、一度くらい食べてみたかったんだよね!」

「わたくしは……ダージリン・ティーと苺のショートケーキセットで」

「え、ええっと、私は……フルーツジュースと苺パフェをお願いします」

「マウンテン?」

「ふ、普通のです!」


 宮子はオレンジジュースとチョコケーキを選んで、注文した。

 しばらくして届いたそれぞれの品を味わいながら、楽しく談笑する。


「あら、確かにおいしいですわね」

「とってもうまー! ……だけど全然減る気配がないんですけどこれ」

「ま、正にマウンテンですね」

「そして食べ終えたら由美のお腹がマウンテンに」

「あーあー聞こえなーい! ええい、そこに山があるから食べるのだー!」


 半ばやけくそ気味に食べ進めていく由美。

 何が彼女をそこまで駆り立てるのか。そこにパフェがあるからか。


「食べ終えたら、予定通りポケロボのお店でいいのかな?」

「ええ。もちろんよろしくてよ」

「みやちゃんのお姉さんと弟君がバトルするんだよね、楽しみだよ!」


 今日の昼過ぎから晶子と翔がお店でバトルをする約束をしていたので、皆で午後からの予定を相談して観戦をすることになっている。

 聞けば愛ちゃんや由美、真理冶もポケロボで遊んでいるらしく、晶子が初代日本チャンピオンであることを伝えると、とても関心を持ったのだ。


「皆もポケロボで遊んでるんだね。やってないのは私だけか」

「私は友達に誘われてね! なかなか面白いよ!」

「わたくしは、我が社もポケロボ生産をしていますのでその関係ですわ」

「わ、私はその……翔君と遊びたくて……えへへ」


 皆それぞれ理由は違うけど、今日も愛用のポケロボを持参してきているようだ。

 一応今日のために宮子も購入して組み立てたのだが、バトルは未経験の初心者だ。

 初心者入門用の物を組み立てただけでカスタマイズもしていないため、扱いやすくとも個性はなく性能も低い。

 けど友達とひとまず遊ぶだけならこれで十分だろうと宮子は思っていた。

 遊んでみて面白ければ、その時に色々カスタマイズしてみるのもいいかもしれない。

 ポケロボは基本的に、素体が壊れなければ腕や足のパーツをプラモデルのように着脱して簡単にカスタマイズできるため、パーツさえ買い足せば今日からでも色々と遊べるだろう。


「宮子は今日が初めてでしたわね? わたくしが手ほどきをしてさしあげますわ」

「お手柔らかにお願いね」

「ふふふ、どうしましょうかしらね?」

「まりにゃんてば大人げなーい、初心者狩りはマナー違反だぞー!」

「ちょ、ちょっとからかっただけでしょうに!」


 ポケロボが話題の中心になり、皆で楽しく話しているうちに時間はどんどん過ぎていった。



  〇



「わあ、すごい人だかり……どうしたんだろう」


 約束の時間になり、待ち合わせ場所の『ポケロボステーション』と看板の掲げられた店に入ると、大勢の人が集まっていた。

 皆で人混みを避けながら店内を歩いていると、中央に設置された一際大きいポケロボ用バトルステージの傍に、晶子と翔の姿があった。

 宮子達に気付くと、二人は手を振ってきた。「おーい、こっちだぜ姉ちゃーん!」と翔の叫び声で周囲の人だかりの視線が宮子達に集まる。

 二人の下に近づくと、周囲から「あれが初代チャンプの家族……」「あの子達もポケロボ強いのかな?」なんてひそひそ話が聞こえてきた。


「翔が『姉ちゃんは初代チャンプなんだぞー!』なんて騒いじゃって、観客がすごい集まっちゃって……あはは」

「いいじゃん、観客多い方がバトルは燃えるぜ!」


 少し照れた様子で頭を掻く晶子に、テンションが上がりっぱなしな様子ではしゃぐ翔。


「もう、翔君! お姉さんに迷惑かけちゃだめでしょ!」

「けちくさいこと言うなよ、愛。これから超燃えるバトルなんだから、なあ姉ちゃん!」

「あはは……まあブランク長いし、お手柔らかにね」

「いよっしゃあ、全開で行くぜえええ!」

「こいつ聞いてねえ……まったく、もう」


 バトルをする前からずっとこの調子だったらしい。

 バトルステージ自体は数多く設置されているが、中央のものは特別人気らしく、その台が空くのを順番待ちしていたようだ。

 やがて、ビッーという機械音と共にバトルの様子を映し出すモニターに、今のバトルの勝敗が映し出されて、試合終了のアナウンスが鳴る。

 次は晶子と翔の出番のようだった。


「姉ちゃん、手加減なんてなしだぜ!」

「言ったなー、後で泣いても知らないんだからね?」

「へっ! 男は涙の数だけ強くなるんだぜ!」

「翔君、それ負けて泣くこと前提になってない?」


 愛の突っ込みも聞こえない様子で、プレイヤーの所定位置へと駆けていく翔。

 溜め息をつきながらも晶子もまた座席へと歩んでいった。


「じゃあ宮子、愛ちゃん。それと新條さんに高野さん。そこの観客席は空けておいてもらってるから、ゆっくり見ていってね」

「ええ。楽しませていただきますわ」

「二人ともファイトだよー!」


 晶子が宮子達にそう一声かけて、プレイヤーの座席に座る。

 プレイヤーの座席の周囲はコックピットのような個室になっていて、プレイヤーが入室して操作すると扉が閉まって周りからは中の様子が見られなくなる。

 バトル開始の気配に、他の観客達のざわつきも大きくなっていく。

 宮子達はバトルステージの傍に設けられた観客用の座席に座り、最前列で見学することができた。

 モニターには二人の使用するポケロボがズームアップされて、使用する兵装なども項目別に表示されている。


「翔君は……竜騎士ドラグーン型をベースにスピードを強化した近距離戦主体のカスタムのようですわね」

「わ、すごい。一目見て分かるんですね」

「ふふ、まあこれくらいは淑女の嗜みですわ」

「そんな淑女の嗜み聞いたことないですばい?」


 宮子に真理冶達の専門的な話を聞いていてもいまいち分からない。

 とりあえず翔が近距離戦で戦おうとしていることは分かった。

 モニターに移る翔のポケロボは、西洋風の赤い軽鎧を身に纏った少年のような姿をしていた。

 言われてみれば兜が竜の形を模しているような気がする。


「対する晶子さんは……んー? あんなポケロボ見たことないよ?」


 それなりに詳しいはずの由美だが、晶子のポケロボの姿に首を傾げていた。

 それは周囲の観客達も同じらしく、何やら先程よりさらにざわついている。


「登録機体名……戦乙女ヴァルキュリア? 聞いたことがありませんわね」


 どうやら誰も知らない機体らしい。

 宮子はそれを聞いて、「もしかして」とひとつの可能性に気付いた。


「姉さん、自分でポケロボを一から作りたいって言ってたし、あれがそうなのかな?」

「……へっ?」


 宮子が呟くと、それを聞いた真理冶が素頓狂な声を漏らした。


「あ、あの、宮子さん? 晶子さんって今はまだ企業に属していませんわよね?」

「? うん。まだ大学生のはずだけど」

「た、ただの大学生が一からポケロボを作り上げたといいますの!?」


 驚愕した様子で叫ぶ真理冶の言葉を聞いて、周囲の観客のざわめきがさらに強くなる。

 宮子にはいまいち分からないが、晶子がポケロボを自作したことはとんでもないことらしい。


「あー、大学のサークルに入ってるらしいから、そこで手伝ってもらったのかもしれないけど」

「そ、それにしたって企業のバックアップ無しに個人が作り上げたポケロボが、あの完成度だなんて――」


 モニターに移る晶子のポケロボ、戦乙女ヴァルキュリアは、宮子の素人目からでも確かに立派なものに見えた。

 綺麗な青と白を基調として塗装された西洋甲冑のような装甲。女性の身体を思わせる流線的で曲線を主体にした全体像。兜や鎧靴には天使の羽根を思わせる装飾が施されて、軽やかに空を舞いそうなイメージが浮かぶ。

 まさに、天空より舞い降りた戦乙女。そのイメージを統一して形作られた、芸術品のような出来栄えだった。

 だけど晶子の先日の言葉を信じるなら、まだ晶子の夢である『子供の頃に思い浮かべた自分のためのポケロボ』はまだ未完成のはずだ。


「将来の夢を今も追いかけているっていってたから、あれは試作品なのかも」

「し、試作? あれがですの……?」

「……きれい!」


 真理冶が最早呆れたような声で呟いて、先程からずっと黙っていた愛が感動したように吐息を零す。

 そうこうしているうちに、バトル開始のカウントダウンを知らせるアナウンスが響いた。


「杉野翔、紅蓮フレイム竜騎士ドラグーン……行くぜぇ!」


 両者のポケロボがカタパルトに接続されて、フィールドへの射出準備に入る。

 気合の入った声で名乗りを上げる翔に対して、晶子もまた応えた。


「杉野晶子、戦乙女ヴァルキュリア……出撃します!」


 3、2、1……秒読みが終わり、両者のポケロボが戦場へと放たれる。

 戦火に晒された市街地を模したフィールドに降り立ち、晶子のカタパルトゲートの方へと一直線に駆け出す翔の紅蓮フレイム竜騎士ドラグーンに対して、晶子の駆る戦乙女ヴァルキュリアは。


「――舞い踊れ、星屑スターダスト戦乙女ヴァルキュリア!」


 大空へと、飛翔した。

 青白い光を背部から噴射させて、戦場の遥か上空へと羽ばたく。

 軽やかに戦場へと降臨した戦乙女ヴァルキュリアから放たれる光は、まるで天使の羽根のような形を為して、夜空に満ちる星屑スターダストのように輝いていた。


「い……いぃっ!? なんだよそれ!?」

「さあ、先手はもらうよ!」


 驚き戸惑う翔に対して、晶子は天空からの射撃で先制攻撃を行う。

 頭上から降り注ぐ光の矢から逃れるために、紅蓮フレイム竜騎士ドラグーンはブースターを起動して建物の影へと滑り込むように退避した。


「あの飛行能力、飛行特化型の天馬騎士ペガサスナイト型を超えていますわ!?」

「――きれい、ほんとに天使みたい!」


 真理冶は星屑スターダスト戦乙女ヴァルキュリアの性能に驚愕し、愛はその機体の生み出す美しい光景に夢中になっている。

 周囲の観客達も、性能に驚愕する者、美麗な姿に感動する者、ちょっとおとなげなくね? と晶子の容赦ない攻めに意見する者など様々だ。

 だが一様に、晶子の作り出した機体を高く評価していた。


「さあ、どうする翔! 私のブーストゲージはまだ半分はあるよ!」

「くっ、ちくしょお! 卑怯だぞ姉ちゃん!」

「本気出せといったのは翔でしょう? 出し惜しみはしないよ!」


 制空権を維持したまま、星屑スターダスト戦乙女ヴァルキュリアは高速飛行で翔の隠れる建物の裏側へ回りこみ、遠距離からの射撃を継続する。

 さすがに高速で移動しながらの遠距離射撃では命中精度は高くないが、連射性能が高い光の矢で紅蓮フレイム竜騎士ドラグーンのシールドゲージがじわじわと削れていく。

 シールドゲージはそのまま残り体力を示しており、これがゼロになると敗北となるため、このままでは翔に勝機はない。


「くっ……さすがにいい加減ブーストゲージが切れるはずだ、そうしたらチャージまでの間に一気に攻めるっきゃねえ!」

「やれるならやってみなさい、返り討ちにしてあげる!」

「ぜってえ、勝つ!」

「その意気よ、受けてたつわ!」


 お互いの会話はコックピットのマイクを通じて観客にも伝わる。

 対戦者同士の会話を望まない場合はマイク機能をオフにできるが、二人は楽しそうに叫びながら対戦していた。


「二人とも、楽しそうだなあ」

「まったくだねー、ポケロボバトラーの血が騒ぐよ!」


 宮子はもう、見ているだけでも楽しめていた。

 それは由美も同じらしく、手に汗を握ってモニターに釘付けになっている。


「……あの機体を自作したことにも驚きですが、さらに驚くのはあの制御を手動で行っていることですわね」

「え、あれ思考操作じゃないのまりにゃん!?」

「モニターに表示されていますわ。色々と驚かされて見落としていましたが。初代日本チャンピオンの時代には思考操作技術は存在していませんでしたから、手動操作の方が慣れ親しんでいるのでしょうが……彼女、いったい何者ですの?」


「――私のお姉ちゃんだよ」


 真理冶の最後の呟きに、宮子はそう応えていた。


「子供の頃の夢を目指してたくさん努力して、本当に叶えようとしている……自慢のお姉ちゃんだよ」


 どれだけすごい物を生み出そうとも、すごい技術を持っていても、それだけは変わらない。

 馬鹿なくらい真面目で、子供みたいにまっすぐで、だけどしっかり者の、大切な家族で、自慢のお姉ちゃんだ。



「ちょ、チャージ速度速すぎるだろ!?」

「うふふふ、捕まえてごらんなさーい!」

「ちくしょおおお、待てこらー!」




「……ちょっと、おとなげないけど」

 

 モニターから響く家族達の声に、ちょっと恥ずかしくなってきた宮子であった。

機体名にノリノリで長いルビ振ろうとしたら11文字超えると自動でルビ解除されるそうで、上手くいかずに長時間格闘することになりました。

※アドバイスのおかげで解決しました、感謝です!

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