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アルジェリアの風

作者: 城田 直

シンクロ

年末に足をいためた。

ひざにカルシウムがたまるという奇病だった。

高熱が出て、ひざが二倍に膨れ上がった。

おかげで仕事にいけない。

ちょうど、大学時代の友人のアイが腸閉塞で入院したのを、メールで励まし、退院の知らせを受け取ったのと引き換えだった。

病棟の公僕が病室の主人になってしまった。

「今度は僕が入院だよ」

と、ことの次第を説明するためにアイに電話すると、アイはけらけら笑った。

「あほ!しばらく休みが取れていいじゃん。ベッドで寝てるのも、いい医者になるために必要な修行かもよ」

薄情なやつだ。お前なんぞ、もう知らん。

ぼくは電話口で、しばらく連絡しないからねとぶすっとした声で

告げ、電話を切った。

大学病院とは恐ろしいところだ。研修医の僕は、整形の先輩医師のおもちゃになり、

「なんでこんなになったのかわかんないから、足開いて、(つまり、ひざを切り開いて)管でも入れて、抗生剤でもぶちこんでみよっか?」

と、脅されている。


それだけはやめてください。と、いいながら、この話をアイにしたら

また思いっきりわらわれるんだろな。と、げんなりした。

で、結局退院してから彼女にそのエピソードを話すと

案の定、大爆笑されてしまった。

「人の不幸を笑う不遜なやつめ」心のなかで呟く。

僕のしばしの沈黙を見破ったかのように

アイはこういった。

「あ。不遜だとか薄情とか思わないでよね。そういう、被害者意識が世の中をくらくするんだからさ」

「別に被害者意識なんてないし。お前ってときどき人の心、読むよなあ。

そんなだから普通の男にもてんのだぞ」

そういうと、アイはまた爆笑した。そして機関銃のように言葉を連打した。

「あのさあ、普通の男なんてカテゴリ、ないから。

普通って、言い換えれば、普遍ってことじゃん。普遍性のある人間なんて

この世に存在しないって。もし最高に凡庸な男がいるとしたら、そりゃ

神様か、仏様の領域だわ」


アイは、見た目がものすごく綺麗で、その見た目を見込まれて

大学在学中に石油プラントを手がけている会社の役員の男性と

なんと、年の差29歳という超年の差婚で玉の輿に乗った娘なのだが、

お金がありすぎる、という現実にいやけがさして?

子供をふたり設けて離婚したという、変り種だ。

しかも、自分が持ちかけた離婚だから、慰謝料はいっさいいらない、といったらしい。

もし、それが事実なら、かっこよすぎるだろ?

かっこいいんだよ、実際。くやしいけど。男として。

ひとのやらない仕事で、かつ人を喜ばせる仕事をすればお金になる、

というのが、彼女の仕事の哲学で、離婚してからどんな仕事してたかっていうと、

なんと、お掃除おばさん。しかもトイレ専門。

彼女は、トイレ専門の清掃会社を立ち上げ、個人の顧客をとって、それが、爆発的に繁盛してるらしい。

逆転の発想だよ。

「はぁぁ、おれのこと養ってくれないかしら?このひと」

と、思っちゃうくらい。

その彼女からしばらくぶりに電話が来た。

「ねえ、しょうちゃん、世界ってつながってるのかな」

「さあ、つながっているといえばいえるかもね」



「こないださ、

久しぶりに本屋に行ったのよ。そしたら、アルベール・カミュの最初の人間

っていう新刊本が文庫で出ててさ、それが映画になるみたいだからちらって眺めて。そしたら、カミュってアルジェリアで生まれてるじゃん、なんでいまごろアルジェリアか?っておもって読み進めてたら・・・」

アイの声のトーンが低い。

「その本買い求めて読んでたら、明け方の四時四十四分に家の電話が鳴って。

あら、こんどは誰が最後のご挨拶に来たかって思ったら、

その翌日、テロのニュースが入ってきて」

世界は、つながっているかもしれない。

インターネットより深いところで。

「元だんなが殺されたって」

心の深部まで急速冷凍していくアイの声の震えが、アルジェリアの砂漠の砂粒を揺らす。一瞬、僕は背中に固い銃口を押し当てられた気がして息を呑む


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― 新着の感想 ―
[一言] 展開がまさかの風刺でびっくりさせられましたw
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