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Fragment Stories  作者:
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輝夜vsサタン 一部抜粋

輝夜vsサタン 一部抜粋



「最果てのユメ」第二部のクライマックス予定部分。

書いたらまた追加予定。

バトル描写の練習です。

「――――――ッ! どうしてっ……!?」


 なぜ。どうして私の力が通じないのか。どうして私はこんなにボロボロになっているのか。

 輝夜のその悲痛な戸惑いと悲嘆の叫びは、届かない。きっと誰の心にも届きはしないだろう。それは、彼女達のいる場所が宇宙空間だからという理由だけではない。

 それは彼女に対する一種の呪い。ただの人間であることから逸脱し、永遠の悲しみを背負う現在の道を選んだ彼女に対する、かつては人間だった彼女自身がかけた戒め。

 だが。


「何故って? 決まってんだろうが、貴様が俺より弱いからさ」


 久しぶりに本気の戦いができて嬉しいのだろうか、楽しそうにそう喋るサタン。

 人間がきけば発狂を免れ得ないだろう彼女の禁じられた言葉も、自らの力だけで文字通り地獄から這い上がってきたこの悪魔にとっては、聞き慣れた程度のものでしかないのであろう。

 凄惨な笑みを顔に浮かべながら、再び輝夜に襲い掛かる。

 先ほど輝夜が必死の思いで空けた数万キロメートルの距離を一瞬で詰め、一閃。その右腕を彼女に振るい、さらに一閃。今度はその左腕を交差させるかのように振りぬく。

 対する輝夜は自身の持つ一欠けらの精神と反射神経を振り絞り、かろうじてその暴撃を避けるのが精一杯だった。

 だが完全に避けきることはできず、右脇腹の一部と左脇腹の一部に焼けるような痛みを覚えるとともに、その空間ごと抉られる。その痛みに顔をしかめる間もなく、更なる一撃が彼女を襲う。

 その動きを瞬時に予想して予め放たれていたサタンの脚が、彼女の鳩尾を蹴り抜き、近くを漂っていた岩石群にそのまま蹴り飛ばしたのだ。

 無数の岩石を砕き、彼女の体はようやくその速度を喪失する。

 大き目の岩石の一つに身を隠し、なんとか気配を消す輝夜。

 どう、すれば……。いったい私に、何ができるの……。

 岩石の影でほんの一瞬だけだが、そのような思考に耽る。

 夢幻の深淵、絶望の象徴、宵闇の帝王、太陽の化身、不死の煌炎、孤高の暴力、最強の獣。できるだけの手を尽くしたが、サタンには傷一つ与えることができていない。残る一つの手があるが、それだけは使ってはいけない。あれは駄目だ、使ったら最後、きっと兄様まで殺してしまう。それだけは駄目。

 自分なんてどうなってもかまわないが、あの人だけは殺してはいけない。

 それは、何一つとして残っていない彼女に唯一残された目的なのだから。そうなると、残っている選択肢はただ一つ。

 徹底抗戦。我が身尽き果てるまで、兄様を守り抜く――――!


「……最強とは何なのか。真たる波動、その資格を持つものである。

 それはかつて三つの国を滅ぼした怪物。止められる者など在りはしない。

 者共恐れよ、これが最強というものだ。

 ――――九つの尾を持つ獣よ!」


 一度は折れた心を奮い立たせ、今一度第七の邪句を詠唱する。

 彼女の周囲の岩石をインドラの炎雷が砕き飛ばし、その姿をあらわにする。

 ボロボロの姿からは、当初の威厳ある強者を想像することなど到底できず、まるで吹けば飛んでいきかねないほどに磨耗しているのが一目でわかるだろう。

 ならば彼女はここで終わるのであろうか。

 否。

 常に綺麗だった紫色の着物は無残に破け、化け物となった体のあちこちには欠損が見える。しかし、彼女の空色の瞳はまだその光を失っていないのだから。

 彼女の瞳は光を失うどころか、逆にその光を強めていた。

 当初の彼女にあったのは無知故の蛮勇だったのだろう。何も知らないから、自分が最強だと思い込む強さ。だが、今の彼女は違う強さ(かがやき)を持っている。

 それは生命の灯火。風前の灯のごとく儚く細い輝きでありながら、今この瞬間だけは、絶対に消えない強さ(かがやき)を誇っている。

 こちらの居場所を瞬時に察知し、悠然とこちらに向かってくるサタン。そのサタンに向かって一歩を踏み出し、しっかりと睨みつける。


「消えなさい下郎! 兄様を守るためにも、こんなところで死んでられないですのよ……!」


「…………くっ。ひゃははは! 面白え、いいぜ気に入った。てめえは楽しんだ後、きっちりかっちり最後まで溶かしつくしてやるよ!」


 響く哄笑。

 今この瞬間。悪意の塊、悪魔の王は彼女のことを心の底から笑っていた。

 なんて勇敢。救いようのない愚か者ではあるが、なればこそ自分が喰らう価値がある。


 人より外れし化け物の子よ、我を楽しませよ。

 真理の一端に触れてなお、未だ太極に至っていない者よ。

 その矮小なる身に宿せし異能を解放するがいい。

 それがたとえ御身には過ぎた代物であろうとも、出し惜しみなどしてくれるな。

 さあ、我を楽しませよ。

 

「ああああぁぁぁあああぁぁぁぁぁ!」


 悪意の満ちたその空間で、彼女は吼えた。

 世界からの呪いがその身を蝕む。

 頭蓋が割れるかのようなその痛みに数瞬ばかり怯んだが、すぐに脳内からその感覚をシャットアウトしようと画策する。

 結果は失敗。痛みはいまだ継続中。

 だがそれを無理やり無視し、行動を起こす。

 サタンに向かい、全力で飛翔する。上下左右全方位に、変幻自在に軌道を変えながら移動するその姿からは、たとえ太極に至った者であろうとも、次の動きを予想することは容易ではないだろう。

 だが。

 その一撃がサタンに届くことはなかった。サタンはまるでその行動を予測していたかのように、体を半歩分左後方に反らすという最小限の行動で難なく回避すると、振り向きざまに打撃を叩き込む。

 もはや密着状態とも言える位置で、わずかな隙間から輝夜の鳩尾に拳が叩き込まれる。


 予想以上の轟音と衝撃が体内外で響き、輝夜は声もない悲鳴を上げた。

 否。悲鳴を上げられないのでない、上げることができない(・・・・・・・・・・)のだ。

 もはや密着状態とも言えるほどの至近距離からの一撃であるにも関わらず、半円状の動作に乗せられたその一撃は、物理法則を無視した威力で輝夜の鳩尾に衝突した。

 拳そのものが身体を貫いて背中を突き破ってもおかしくない破壊力――。


「……っまだ、まだぁ!」


 だが、それでも今の輝夜にとっては致命傷とならない。

 反撃に移るべく、大きく体を後ろに逸らし間合いをとる。

 そこで輝夜は己の失敗を悟った。

 後手に回ることで、大きく隙を作ってしまった。しかも自分から。

 気付いた時には遅い。

 案の定、輝夜がその一動作を行う間にサタンは行動を済ませていた。

 至近距離で不可視の一撃が放たれる。

 あまりの攻撃速度ゆえに、認識することができなかったのだ。

 間一髪、致命傷を回避することに成功するも全身に衝撃が走り、今度は踏ん張ることも出来ずにまたも輝夜は吹き飛ばされた。

 付近にあった小惑星に墜突することで、なんとか静止する。

 地表を削り、地面に大きなクレーターをつくる。

 追撃は無い。

 それだけの余裕があるのだろう。当然の帰結だ、サタンが動いてから結果として輝夜は一度として反撃を与えることができていないのだから。脅威を感じる必要などないのだ。

 二人の力量差を端的にあらわすのなら、子供と大人という例えが最も正解に近いのであろう。

 通常なら戦うことすらできないであろう、絶対的な力量差。

 そんなことは彼女自身とてとっくに分かっているが、しかしここで諦めるわけにはいかない。

 宵闇の帝王の特性による超回復と、邪神の精神汚染からくる脳内麻薬の過剰分泌により、痛覚を無視する。

 体を起こし再び宇宙空間に戻りながら、つぎに取るべき行動を冷静に思考する。

 近接戦闘では絶対に勝てない、それは先程の攻防で悟った。ではどうすべきなのか。


 そう、答えは一つ。極めて単純な答え。

 近距離が駄目ならば、遠距離で挑めばいいのだ。

 孤高の暴力と太陽の化身の因子を体内で高める。

 最初に放ったものでは足りない。もっと高純度のものを。

 もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっと。もっとだ。

 純度が、威力が、何もかもが。体内で急速に高まっていく。

 そうして極限まで圧縮させた一撃が放たれる。

 宇宙空間の暗黒の中で、輝く黄金の蒼炎。

 圧倒的暴力を載せた必滅の炎が、邪悪な笑みを浮かべ空中に静止していたサタンに当たる。

 彼を包むその一撃の威力は、先程輝夜がぶつかった小惑星程度なら瞬時のうちに消滅させれるであろう威力を秘めていた。

 だが――。


「ぬるいな、あくびがでる」


 そう呟かれた一言とともに、その炎はまるで幻であったかのように消し飛ばされる。


 いまだ真理の領域には辿り着いてはいないもの、サタンは太極に至りし深淵の怪物である。

 いくら真理の一端に触れたとはいえ、輝夜は太極に至ることができていない。

 ならばやはり、高位の惑星破壊クラスの一撃であるとはいえ、意味を成さないのが当然なのだろう。

 ここにおいて遂に、彼女の持つ能力は品切れを起こした。

 唯一の残された手段である邪なる神も無意識の内に使ってしまっていた。しかもそれすらも意味を成していない。

 もはや彼女に打つ手は存在しない。残っているのは、今までに発動し敗れた能力と、その不屈の闘志のみである。

 既に勝敗は決しているのだ、どんなに勇敢な人間でもこの状況下では諦めざるを得ない。

 彼女の命運は、まさしくサタンの掌の中に握られていると言っても過言ではない。

 そんな状況下。

 だがしかし、彼女にその常識は通用しない。

 触覚と嗅覚以外の総てを清明に管理された毎日。

 それは白痴であるがゆえに成り立っていた幸福。

 そう、もとより彼女の世界は清明(あにさま)そのものだったのだ。

 至高の守護者の仕業により真理の一端に触れ、自由を手に入れた今でも、それは変わりはしない。


「それが……どうしたっ!」


 もう打つ手がない?

 実力差がありすぎる?

 そんなこと、痛いほどわかっている。

 あまりに絶望的な状況に、思わず戦闘中だというのに打ちひしがれそうになったさ。


 だが、そんな状況だからこそ、あえて私はこう言いたい。

 それがどうした、と。

 もとよりこの戦いの果てに私の未来などないのだ。

 ならば私などここで死のうと一向に構わない。兄様に生きていてもらえれば、それでいいのだ。

 たとえ、戦いの果てに私が死のうとも。兄様を救って死ねるのならば本望。

 そう決意しなおし、体になけなしの力を籠める。


「ひゃはっ! ヒャヒャヒャヒャ!」


 あまりにも愉快。

 愉快で愉快で堪らない。

 思わず漏れてくる、笑い声とも叫び声ともとれないあまりにも醜悪な音が周辺空間に響く。

 それはもはや理解不能な呪詛(ノイズ)と化し、聞いた者を総じて狂気の果てに誘う。


 そんな呪詛(ノイズ)を撒き散らしながら、先程輝夜が飛翔してきた速度のきっかり倍の速度で飛翔する。

 それはさながら、先程の輝夜の突進を二倍速で再現したかのような突進。

 輝夜のような卓越した技術こそないもの、有り余るエネルギーを使用したその力技は、しかし輝夜(オリジナル)よりも確実に強かった。


「さあ、どうする? 俺の拳は星より重いぜ」


 明らかな挑発――。

 だが、それに乗るわけにはいかない。

 いや、挑発に乗ろうが乗らまいが、結局のことたいして変わらないのだろう。

 だが、しかし乗ってはいけない。

 ここで掴むべきは、今考えうる最善の一手。

 心を落ち着かせろ。集中するんだ。

 心を無に、さざなみ一つすら立てるわけにはいかない。

 そう、我を極限まで無にするのだ。


「……ん?」


 サタンは、いち早くその異変を察知することができた。そして、理解した。

 ニタリと顔を歪ませると同時に、僅かながら輝夜に賞賛の意を送る。

 もう終わりだろうと思っていたが、ここにきてまだ進化するとは。実に潰しがいがある。

 ならばこそ、この一撃をどう受ける。かわすことのできる速度では到底ないだろう。だがまともに受ければ、その体は衝撃に耐え切れず悲惨な結末を迎えるはずだ。

 そして、ついにその瞬間が訪れた。

 サタンの拳が輝夜の無防備な顔面に向かって振り下ろされ、到達する瞬前。

 輝夜はついに無我の境地に辿り着いた。


「闇を晴らして、魔を滅し。闇で世界を覆いては、天の主をも滅す。

 究極の妖怪、魔の頂点はここにあり。さあ、総てを超越しよう。

 幻想の存在よ、我を恐れよ。運命を呪うがいい。

 ――――空亡き者よ!」

「――ッ」


 気がついた時には既に、第八の邪句は唱えられた後だった。

 輝夜の姿は未だ健在であり、驚愕の念を顔に浮かべているのはサタンである。

 彼女の使いし異能は、須らく神からの賜り物である。

 しかし、これは違う。

 これなるは最強の異形の一つ。最高純度の幻想である神を倒しうる天中殺の化身。

 妖魔の力を操りし現存最古の退魔の家系、月宮家。その正当な頭首にして、歴代でも比べ得ないほど最高の形で発現した妖魔の血。ようやくその異端性が全開放された。

 貰い物の力があった上に、なまじ本人が把握していなかったために、今まで眠り続けていたのだ。

 そして、悪魔の王たるサタンに退魔師である輝夜が挑むとき。その相性は最高潮に達する。

 飛翔してくるサタンを一瞬の判断で回避し、そのまま自らの体を一回転させる。

 拳を円状の動きに乗せ、サタンの鳩尾へと全力で叩き込む。

 それはさながら、型の決まった演舞であるかのように。そう思わされるほどに、先程の攻防を再現できていたものだった。

 一瞬だが演者を逆に、舞台は再び幕を上げる。

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