セカイの終わりと新世界の開闢
始まりのセカイの世界観。その世界観でのそうとう後のシーンです
「よくぞ此処まで辿り着いたものだ。褒めてつかわそう」
眼前に広がるのは、非現実的な現象。明らかな異常。
森羅万象総じて計算通りにしか動かない。それはこの世界の絶対的な法則。超能力や魔法と呼ばれる異能の力でさえ、総ては創造主の計算通りにしか動かすことは出来ない。故に奇跡は起こらない。イレギュラーなど存在しようがなく、起こり得ぬことは起こらない。
「お前が……!」
その絶対的な法則を、しかし目前の存在は自由自在に動かしている。まるで法則など存在しないかのように捩曲げている。ならばこの男は何なのだろうか。この世界を破壊する、自分達の本当の現実を一緒に取り戻そうとする仲間。そう思うのは簡単だろう。
しかし――。
「ある日、気がついた時から私は疑問をもっていた」
――否。断じてコレ(・・)はそんな都合の良い存在ではない。そう判断させるだけのナニカがこの男からは滲み出ている。目前のコレ(・・)は味方ではない、気をつけろ。と、自らの第六感が警告を頭の中で叫ぶ。
「何故皆はその程度のことがわからないのか。何故皆は知ろうとしないのか。何故皆は足掻こうとしないのか。世界は愚か者に溢れている。混沌としたまま、前に進むことも一段階上に到ることもせず、ただただ愚天の深淵へと堕落し沈んでいく」
独白と共に世界はその姿を変えられていく。自由自在に世界を操るその姿はまるで神様のようで。
「誰もが知ろうとせず諦める。世界はこんなにも疑問に溢れているのに、誰もが理不尽な暴力(死)に抵抗しようとせずに消えていく。何だそれは。私は死にたくない。もし死が世界の絶対的な法則だとするなら、たとえ世界を壊してでもその法則を変えてみせる。それが私の渇望。私の起源。私の業」
頭の中でガンガンと鳴り響く警鐘を無理矢理押さえ付けることで、ようやくそのことに気づいた。彼は世界を歪めているのではなく、創り変えている(・・・・・・・)のだと。気づいた時にはもう遅く、余りにも愚鈍だったと言わざるを得ないだろう。
「故に私はこの世界を創造した。しかし死は依然として絶対的な法則として君臨していた。
嗚呼、私は願う。どうか遠くへ、死神よどうか遠くへ行ってほしい」
男の背後からまばゆいばかりの光がほとばしる。それはまるで太陽のようであり、その光は新たな世界の始まりを意味していた。
しかし、
「何をほざいてやがる。てめぇは、俺の最愛の女を、鈴を殺した人間だ! そんなてめぇに、死にたくないなんて願う資格はねえ!」
今の揚羽が怒ってるのはそんなことに対してではなく、くだらない欲求の為に自らの黄昏を奪った創造主に対して怒ってるのであった。
「――さあ、神世界の完成だ! 此処ではもう死に悩まされることはない。皆が笑い合い、いつまでも楽しく過ごせる、永遠の理想郷。なあ、喜べよ」
その皆の中に鈴は存在しなく。彼女はもう本当に存在しないのだと思い知らされる。そんな苦痛に揚羽は耐えることが出来ず、新世界の神へ襲い掛かる。
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
それはまさに神をも殺す一撃。それは神速であり、必中であり、必殺の一撃。
その一撃が相手の首を跳ね飛ばし、しかし相手は死ぬことがなかった。首を跳ね飛ばされた次の瞬間には、その姿は元通りになっている。もう一度放つ。しかし、結果は変わることはなく、
「――さあ、喜んで学べ!」
故にその膨大な力の奔流を避けることは適わず、世界設定の根幹――神の座とも呼ばれる――であるその場所を呆気なく追い出されたのであった。