バレンタインデー
とあるバレンタインデーの一日。
かなり昔に某SNSサイトに投稿したものです。
「バッレンタイン、バッレンタイン。今日は楽しいバレンタイン」
下駄箱の前でこんなことを歌っている男がいる。彼の名は春日井 春日、何処にでもいるただの(・・・)男子高校生である。
「――気持ち悪っ。
どうせ、あんたには一個も来ないでしょ」
そうからかって来たのは幼なじみの綾香だ。
「そういうお前はどうなんだよ、誰かにあげるのか?」
すると綾香は、ニヤニヤとした顔をし、こう自慢してきた。
「私はあれよ、今年こそ愛の佐藤君にこの想いを伝えるのよ」
すると彼は少し嫌そうな顔をしたが、綾香は気付いていなかった。
「……まあ、俺は先に教室行ってるから。お前も遅れないようにしろよ」
放課後、既に教室からはほとんどの人が去り、残っているのは春日一人になっていた。
「……一つも無しとか、最悪」
帰るか、と一人呟き教室を後にする。
そのまま真っすぐ帰るつもりだったが、彼は廊下の角、ちょうど人目につかない場所に誰かいるのを感じ、こっそり隠れながら見ることにした。
「――貴方のことが大好きです、付き合ってください!」
そこにいたのは綾香だった。そしてその相手は、やはり佐藤。だが、
「――済まない。気持ちは嬉しいけど、僕には好きな人がいるんだ」
返されたのは、非常に残酷な一言だった。
「……わかったわ、ごめんね佐藤君。この事は忘れてちょうだい」
「……ごめん」
佐藤が、帰ろうとこちらに歩いて来る。春日は咄嗟に隠れ、見つからないようにした。
佐藤が通り過ぎた後に、綾香のもとにゆっくりと歩く。
「……」
ぽん、と綾香の頭に俺は無言で手を置いた。
「……春日。えへへ、恥ずかしい所見られちゃった」
綾香は尚も気丈に振る舞おうとするが、春日がそれを止める。
「我慢しなくていい。他に誰もいないから」
その言葉で、我慢しきれなくなったのだろう。彼女は塞きを切ったように泣き出した。
「……」
春日は無言のまま手を置き続けていた。
そんなとある日の出来事。