始まりのセカイ
とある世界で起こった、一人の天才の世界を揺るがした大事件。
その始まり。
月夜の下。まるで肌に突き刺さるかのような冷気によって、少年は眠りから目覚めた。
「おや? 起きたのか、調子はどうだい?」
誰かの声が聞こえる。
「誰だ?」
少年は先程まで寝ていたベッドから体を起こし、周囲を見渡す。見慣れた自身の部屋が目に入る。その中に、歳は二十代前半だろうか、黒髪の女性がいた。
「おはよう、揚羽君。ぐっすりと良く眠れたかい?」
腰まで伸びたしなやかな黒髪を揺らしながら彼女は少年、揚羽に問い掛ける。開いた窓から差し込む月光も相まって、その姿はとても幻想的に見える。
「…………」
その光景に揚羽は思わず目を奪われ、しかしすぐにハッとする。
彼女は何故自分の名前を知っていたのだろうか。記憶に狂いが無ければ、彼女とはこれが初対面のはず。それに部屋のドアには鍵をかけていたはず、と。
この状況に対し、徐々に違和感が溜まってきた。
「……貴女は誰ですか?」
まずは彼女の名前を確かめよう。そう思い名前を尋ねると、彼女はくすりと微笑み、こう告げてきた。
「――覚えてないの? 酷いなあ、ずっと一緒に遊んでいたじゃない」
彼女と揚羽の目が合う。
「ほら」
……何故忘れていたのだろうか、それほど迄に彼女の名前は自然に頭に浮かんできた。……先程の違和感など消し去って。
「ゴメンな鈴。なんか、寝ぼけてたみたいだ」
とりあえず彼女、鈴に謝る揚羽。
「別にいいわよ」
彼女は窓際から離れ、揚羽の本当に目の前まで歩いてきた。
「だって、本当は初対面なんだから」
「え?」
彼女が再び揚羽の目を見つめ、ゆっくりとその言葉を口にする。
「――解けよ」
――その瞬間、先程の違和感が再び戻ってきた。それも、先程迄より遥かに強烈に。
「……っ! 貴女は、本当に誰ですか?」
強すぎる違和感に頭を揺さ振られながらも、彼女にもう一度尋ねる。お前は誰だ、と。
「私は鈴。この世界の異端者よ」
「この世界?」
「ええ、此処は現実の世界とは違う仮想世界。通称、『Karma』と呼ばれているわ」
そんな馬鹿な! 揚羽はそう言い返そうとして、しかし言い返すことは出来なかった。
「そんな……」
「君ならわかるはずだよ。
君が先程から感じている強烈な違和感が、その証拠さ」
揚羽がずっと感じている強烈な違和感。それが、此処が仮想世界であるという証拠であった。
「さて、そろそろ本題に入って良いかな?」
「本題だって?」
「そうさ。
――――単刀直入に言う。私と一緒に、本当の現実を取り戻さないか?」
これが彼等の長い長い始まり。
これからも彼等の物語は続いていく。しかし、それを語るのはまた次の機会となるだろう。
え? 意味不?
まあ、気にしない方向でお願いします