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魔物が大人しくなった訳。  作者: 時雨氷水
プロローグ
6/17

魔王見習い様と静かな街。(1)

元:呪いの海辺町

【皆様こんにちは。 千尋です。


現在私は、適当に暇そうだった子供達を四人ほど連れ、ちょっと遠い所にある人間の町まで来ています。 他の子供達は、勇者さんおよび大人っぽい子達とあの長男くんに任せています。 勇者さんだけは渋っていましたが、根気良く「お願い」していたら最後にはチクらないと約束してくれました。


ちなみに、私もこの子達もまだ幼体ですので、山からの外出許可は出ておりません。 ばれれば大人達からの叱責および罰は免れないでしょう。 ですが、これはしょうがないんです。 足腰弱って動けない人間が、突如若々しい体を手に入れたら、どうなると思いますか? はい、私のように遊びまくりますね。 貴方に十点をあげましょう。


しかも、今日は久しぶりに怒る大人達が全員ではらっています。 ドラゴンさんにいたっては、大陸の反対側までなんかしに行っています。 つまり、今日しかないって事です。


まあ、そんなこんなで我らシャドウハンターズ(命名:アラクネ系の男の子さん)は、今日も今日とて遊びに行くのです。】



『主様、配置につきました!』



【アラクネ系の男の子さんが、魔力を込めて作った無線機的な物を使って報告を入れてきました。 ちょっと高い、まるで女の子のような声の子です。 そんな彼のお名前はラクネと言います。 



彼の持ち場は住宅街です。 糸をたらして邪魔したり、ちょっとした影を落としたり、お留守番している子供を窓からちょっと驚かす役割を担っています。 上半身は茶色の髪の普通の男の子ですが、下半身は普通にクモです。 赤と黄色でちょっとグロいです。 服は最近なんかパンクっぽいというかなんというか、前衛的な物になってきています。 やっぱりこの間のアレのせいですかね。


ちなみに無線機的な物はそのまんま、こっちの言葉で無線機と呼んでいます。 めんどくさかったのでね。 ちなみに作ってはドラゴンさんに没収され作っては没収されを繰り返したので、今ではステルス機能もついています。】



『主様、準備完了っす。』



【この低くて掠れた声は、死霊系男子のカテラさん。 内面は仲間内でもっともひょうきんでいい子なんですが、演技が上手で恐怖を与える事に関してはダントツ一位です。 しかしカテラさんだってバレると、一気に和やかムードになるそうで、それが目下の悩みだそう。 


そんな彼の持ち場は、町の近くにあるだだっ広い運河の船着場。 分裂も出来るので、やろうと思えば幽霊船だって一人で出来ちゃう実は優秀な子です。 ガリガリの体にボロボロのローブを羽織り、頬がこけた土気色の顔をしています。 元々は遠い国で死んだ子で、夢はいつか里帰りする事だそうです。】



『主様、着きました。』



【鈴が鳴るような声のこの子は、水精霊のシラさんです。 厳密的には魔物ではないのですが、とくに問題はありません。 持ち場は噴水やら水場全般です。 彼女も物質的な体が無いので、分裂が可能です。 見た目は普通に全部が水で出来た女の子です。】



『着いたよー。』



【中性的な声のこの子は、影渡系のケゼンディアさん。 ノリが良い、飄々としたかわい子ちゃんです。 影渡というだけあって、影を伝って色んなとこに行く事が出来ますし、影を使ってたかーい所のお掃除だって出来ます。 実体はあったりなかったり。 体自体が影で出来ていますので、通常では届かない所も余裕で触れます。 性別は不明。


通常の見た目は人間のようで、短い金髪に金色の目、それにぶかぶかの漆黒のローブ一枚と同じ色のバンダナを頭に巻いています。 実体はなく、動く時は飛んでいます。 鎖骨が見えるのが目に毒なんですが、直してくれません。 本体はたんなる真っ黒な影の固まりなんですがね。 


この子は珍しく、すでに名前を持っていらっしゃいました。 なぜかというと、珍しくも人間から魔物になった系のマジリだからだそうです。 姓名もあるそうですが、ヴァンなんとかしか覚えてません。 持ち場は公園や建物の影などです。】



「…宜しい。 ならば、はじめよう…」



【ちょっと雰囲気を出すために、低い声を出して開始を告げます。 そのままふははははとか笑えれば一層雰囲気が出るんでしょうが、さすがにそこまで夢中にはなれません。 腐っても大人ですからね。 ちなみに、私はどこを担当するのかというと、見張りついでに色んな所を回りますので、基本的に一箇所には留まりません。








その後は、特に目立った事もなく、皆できゃっきゃうふふと真昼間から安心している子供達を驚かしてきました。 いやー、若返ったような気がしますね! 年齢的にはまだあかんぼなんですけどね!


ついでに洞窟奥のあの温泉で汗を流し(最近脱衣所やらタオル置き場を作ったので、さらに快適になりました)、駄弁りながら城に帰った、のですが…


なぜだか怒り心頭のドラゴンさんが、玄関から走り出ようとしている所に出くわしました。 目が怖い、声が低い、顔がものすごい無表情と三連続で怒ってるアピールをしていらっしゃいます。 そして、その後ろでは、勇者さんが泣き崩れていらっしゃいました。 というか、お帰りが酷くお早いですね。



「…だいたいな、お前達はいつもいつも何を考えてるんだ? 子供だけで外に行くのは危ないといっただろう、いくら縄張りの中だと言っても境越え自体は殆ど無制限だろう?! お前が居ては都合が悪い相手も居るんだ、そいつらに見つかって殺されたりしたらどうするつもりだったんだ! しかも他の子達まで巻き込んで! まったく嫌な予感がして早めに帰ってきたから良いようなものの、万が一の事があったら…」



怒って饒舌になったドラゴンさんの説教を聴き流しながら、私達は頭をたれるしかなかったのでした。 …私、雑魚にどうこうされるほど弱くはないんですがね。まあ、そんなこんなで最近は平和に暮らしております。 









ただ一つ、縄張り内にある、海辺の町の一つが呪いに侵された事を除いては。


まあそれだけならよくある話なのですが、今回は解呪士さん方にも、どこの神官さんにも、というかドラゴンさんにすら解呪できないそうなんです。 なんでも、壊そうとしてもカーテンを殴っているような気分になるし、解析しようとしても分厚い皮のような物に阻まれ、呪いの中心…コアの所に行くとしても、変なのに襲われている内にいつの間にか別の場所に居るそうな。 某Wizのワープ床みたいなのがあるんですかね。


呪いを解くには、呪いをかけた手法をリバースする、解析及び解除する、または破壊するの三つの方法があるのですが。 リバースはかけた方法を聞き出さない限り無理ですし、基本的に魔物はちまちましたのが苦手なので破壊しか出来ないんですよね。 解析できない時点で、人間属に解決してもらうのは無理でしょうし。


しかし、放っておくなんて事、出来る訳ありません。 でも、普通の方法じゃ無理だという事がわかっています。 じゃあどうすればいいか? 妨害など歯牙にもかける必要がない、かつ暇を持て余してる者を使えばいいんです。 …つまり、私です。



ドラゴンさんの情報によると、ここまで強い呪いともなると、命を捧げてしか作る事は出来ないそうです。 何故かといいますと、命ってのはある意味ものすごい高性能高品質な電池そのものですから、そこらの人間でもこんな凄い事が出来るそうです。 なにそれウザい。 


【黒の歌】とかいうスペル(スキルの一段階上の、魔法とかいうのらしいです)程ではないらしいですが、どっちにしろリバースはほぼ不可能になるそうです。



非常に気が重いですが、その代わりこの間の町下りの罰をキャンセルしてくれるそうです。 正直言ってそろそろ腰にダメージが蓄積されてきていたので、一も二もなく飛びつきました。 



と、いう訳で移動中です。 例の街に向かって。


ツレは大きな猫型の魔物さん、ドラゴンさんの腹心の一人だそうです。 名前はミリア。 長毛種なのですんごいもふもふのさらさらのぽかぽかのーで気持ち良いです。 山の極寒に慣れた私には、ちょっと暑いんですけどね。 明日の朝辺りにつくらしいので、今ちょっと寝ようと頑張っています。


そういえば、ミリアさんの大きさは、普通の馬車ぐらいあるんですよね。 普通なら大きくても人間程度らしいのですが、いったい何食ってこうなったんでしょうね。 可愛いから問題はないんですが。



そんな事を考えているうちに、眠くなってきました。 これは良い傾向です。 あ、そうそう、姿は半竜のままです。 呪いのせいでだーれもいないので、変化しなくとも良いと言われました。 最近ようやく三時ていどなら人型を保てるようになってきたので、微妙に複雑な気分です。 魔力無駄にするよりはマシですが。


本当はドラゴンさんがじきじきに付いて来たかったようなんですが、周りの町へのフォローなど別の仕事があって来れませんでした。 私ってそんな信用ありませんか。 ないんでしょうね。



その思考を最後に、私の意識はぷっつりと途切れました。 おやすみなさい。










『主様』


『主様、起きて下さい』


「…ん? ああ、着いたのか?」


『はい!』



ほめてほめてという気配を駄々洩れさせているミリアさんを労いつつ目を覚ました時には、ローラン港の全貌が臨める高い崖の上に到着していました。 というか、貴方ほんとに私より年上ですか?


そういえば、ここよりもう少々南のほうにある(つまり、キリビ国方面の)オルシア港は、隣接している三つの国からも近いし、目立った障害もないのでかなり繁盛しているのですが、ここは山を削って作られているMS(マジックスポット、つまり魔力場ですね)なので、陸路は不便だわ所々に変な海流があるわ野生の魔物が定期的に戦争を仕掛けてくるわで、腕に自信のある方や酔狂な方などしか船を入れません。 戦争といっても、「カモがネギをしょってやってきた」と同じ程度だそうですが。 上がってきた報告書にそんな感じの事が書いてありました。


そのかわり、珍しいものや希少なものなども豊富に入荷するんですけどね。 さらに、ここで魔具を作ったりすると質の高い物ができたり、ここで生まれ育った子供は魔力の保有力が通常より高くなったりとメリットも多いです。 ですが、やはり物見感覚で来ると、良くて身包みを剥がされるだけで済むという、普通の女子供には非常にお勧めのできない街となっております。 


だけど、それも全部町の中だけで留まっているのが救いと言いましょうか。 一度腐りすぎた町を廃棄したんですけど、後味がとても悪かったんですよねぇ。 伝染病まで流行っていたので仕方ないといえば仕方ないんですがねー。



…そんな記憶は忘れて、眼前の青の現実に目を向けましょうか。】







さすがに連日の重労働はきつかったようです。

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