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魔物が大人しくなった訳。  作者: 時雨氷水
プロローグ
4/17

魔王見習い様の優雅な一日。 (2)

改定状況: 終了

1.元々(1)と同じだったのを分ける事にしました。

2.この世界の「魔王」の概念に対する描写を削りました

3.部屋の描写追加+改訂

4.霧の彼方からドラゴンさんの設定を追加描写

5.その他いろいろ加筆


【お風呂で散々体力を消費させたと思ったのですが、昼食を取らせたら皆そのまま無駄に広い中庭に突撃していきました。 なんか負けた気分です。 お兄さん及び他のおっきい子達に小さいのを任せ、洗い物を終わらせた後、自分の部屋をお掃除しに行きました。 通路やダイニングホールなどのでかい所は、皆が帰ってきた後に一緒にやるのです。


私の部屋は、この屋敷の一番高い部分の最上階にあります。 そこは一階丸ごと部屋になっていて、元々はマスターベッドルームらしいのですが…なんと簡易キッチンまでついています。 個人的にきれいにきれいにしたその部屋は、深紅の絨毯とオフホワイトの壁で出来ており、私とドラゴンさん以外立ち入り禁止になっています。 もちろん靴は厳禁です。 靴を履かない方は拭かなければなりません。 私のように。 

奥のほうにはとても広い大きなベッドがあり、手前には二対のソファ、その合間においてあるローテーブル、扉から入って左手にある個人用の風呂場が見て取れます。 さらに、壁が見えないほどの本棚とそれに収められた無数の本。 たっぷりと陽光を取り入れられる、大きな出窓。 その窓の一つに作られた、クッションと毛布がゴチャっとしている簡易寝床。 昨日飲んだお茶の残骸がのっている、アンティーク調の重圧なテーブルと椅子。 そして散乱している本の数々。

…ええ、あんまり片付けって得意じゃないんですよね。 しかしドラゴンさんにこんな惨状を見られれば、絶対に怒られます。 仕方がないので適当に見目だけを整えました。 ああめんどくさい。


子供達が泥んこになって帰ってきた時には、もう日も暮れかけていました。 大人たちが狩ってきてくれた食材で夕食を作る合間に、泥を洗い流させるためにまた風呂に入れる事にしました。 しかし今回は私が入れる訳ではないので、皆大人しく洗ってちゃっちゃと上がって来ました。 私しか居ない時の暴れん坊ぶりは、いったいどこにいくんでしょうね本当に。


夕食後は自室でお勉強です。 常識や歴史、人間の言葉や文字などを叩きこまれます。 魔物同士は根本的な部分でお話できるので、言葉が違っても意思を伝え合うのには支障がありませんが、人間や動物など体を持つ相手ともなるとそうは行きません。 なので覚えなければならないのです。 一応はこのあたりの言葉だけってなってますが、いつかは別の地域のも覚えさせられるでしょう。 今から鬱です。

さすがに常識や言葉は文句を言いませんでしたが、私の苦手分野である歴史にはさすがに抗議しました。 でもね皆さん。 ドラゴンさんがなんて言ったと思います?


「魔王たるもの、多少の教養は持っているべきだ。」 ですってよ。


いや、確かに! 確かに憧れてはいますが! だからといってマジでなりたい訳じゃないんですよ! …と言っても、領域作って陣地取っちゃってる今の状況では、後の祭りだと言われてしまいまして。 仕方なく泣きながらも覚えようとしているのです。 で、今日は試験です。 誰か助けて。







…終わりました。 私の精神力も。 以前よりは点数が上がっているので、ドラゴンさんの機嫌はちょっと良いのが救いです。 もしも悪かったらさらに説教が飛んでくるので、さらに精神力が削られてしまうのです。 まあでも、テスト後なので明日から7日は好きに遊べます。 それがなんとも嬉しいです…。】


ぐたりと机に突っ伏している自分の主を見て、『ドラゴンさん』は気づかれぬよう軽く苦笑した。 すこしやりすぎたか、という思考と共に。 よくやったの意味をこめてくしゃと頭を撫でてやると、さらに体から力を抜くその姿は、まるで人懐こい大型の獣のようだった。

今の姿で生まれる前は、魔物も魔法もない世界にて本来死ぬべき時に死んだという主は、それでも時折子供よりよほど子供らしい好奇心と無邪気さを垣間見せる。 そうしてそれは、彼が失ってしまった大事なものに、とてもよく似ていた。 二度と戻ってくるはずがなかったものが、いつものように気まぐれに、ふいと玄関から帰ってきたと錯覚してしまうほどに。 『ドラゴンさん』が己の使命に驚愕し理不尽だと憤った時には、予想すらできなかった程の穏やかなこの時間。 それは、今まさに眠りに落ちようとしている主自身が、作り出し彼にくれた物だ。 そうして頬を伝っていた涙の数々は、彼の主と過ごす内に、いつの間にか跡さえも消え去ってしまっていた。


こんな未来が待っていると知っていたならば、あんなに抵抗などしなかったのにな。 寝るならベッドで寝ろと叩き起こす傍らそんな事を思い、寝ぼけたままふらふらと歩いて行くその後ろに付き従い、もう限界とばかりにマットレスに倒れ伏すその身に布団をかけてやった後、『ドラゴンさん』は暖炉以外の火を消して静かに彼の主の部屋を出た。

こつ、こつ、足音を立てて階下へ向かう。 いつもと同じくさっきの事を反芻してしまい、彼は口元に浮かぶ笑みを止められなかった。 このままではまた暗闇で笑う変なヒト、と言われてしまうな。 彼の主が言いそうな事を想像し、さらに笑いがこみ上げてきてしまう。 執務室に到達するまで幸運にも誰にも会わなかった彼であったが、もし誰かに見られていれば一夜にして噂が駆け巡っていただろう。 あの鉄仮面が笑っていたと。 そして主に見たかったと地団駄を踏まれる事だろう。


そんな事はつゆ知らず、彼は己の机の上にある書類の数々に目をやった。 彼の主の命令をしらしめ実現させるべく制作し、領主達に今日通達してきたそれらの写しである。 内容は命令のまとめ、及び命令を実行するに必要な知識を書き連ねた、主が言う「マニュアル」だ。

彼自身は、もしも領主たちが従わなければ、主の要望に背いてでも己の力を使う事を選択に入れていたが。 以前より圧政に苦しめられてきた大陸のこちら側の住民達は、皆喜んで主の要望を全面的に取り入れる事に同意した。

他とは違い、虐げられていなかったある一つの街以外は、ではあるが。 彼もその街相手にだけはあまり無理強いする気もなかったのだが(なにせそのままでも幸せだったのだから)、衛生面などもっとも大事な事には、彼らも拍子抜けするほど簡単に従ってくれた。 実際、そこの領主と人間の部下は文句を言いながらでも、自分達の益になる事にはあまり渋る事をしなかった。 屋敷に戻り、主にその旨を伝え何故かと聞くと、逆に何故そんな事を聞くのかと問われた。 「自分達のためになる事なら、嫌な相手からの物でも普通に使うでしょう?」という言葉もつけて。 そこで彼は、人間とはそういうものなのだという事を知った。



キィと軽く音を立てながら椅子に座ると、彼はまとめの紙を手に取り最終確認をした。


『一、武踏の領域とは取引をしない事。』 武踏の王はこの山のあたりも支配しており、皆の子供を殺した事も幾度かあるので、主は全面的に敵対するつもりらしい。 抗争の危険性はあるが、海に伝が無いのは地味にキツイだろうし、良い一撃になるだろう。 どうせあちらにあるもので、無くてはならないという物はないのだし。


『一、基本は自治する事。 しかし、他の領域から逃げてきた市民はできる限り受け入れる事。 無理ならば他の町や村へ紹介する事。』 良くも悪くも、受け入れればそれだけ主の力も増すが故に。 自治しろというのは、圧政をする気はないという事の意思表示のためである。 一応安全性を説いたのだが、膿が出れば潰せば良いだろうと主は言った。


『一、ある程度は人間族を使う事。』 人間族は知恵を武器としているので、何より頭を使う仕事に置くと本来持つ力を遺憾なく発揮できるらしい。 その分魔物達は別の事に気を割く事ができる上、衣食住、安全、適性とやりがいのある仕事、そしてある程度の自由と働きに見合った報酬を保障すれば、人間族は殆どが心から仕えてくれる有用な財産になるのだ、と主は言った。

これに関しては報告待ちだが、主は成功することを疑っていない。 どこからその自信が来るのかは不明だが。


他には下水などの衛生面関連や、人間族が行なっているような税収の執行、孤児院などの公共の施設をいくつか建てる事、など細かい物がいくつか書かれている。 それは個々であれば他の領域でも見られる物が多々あったが、これだけの物は人間属の国でも見た事がなかった。 彼はいまさらながら主の異常さを思い、そして新たに主を守る事を己に誓った。 それは与えられた使命の一つでもあったが、いまや彼自身がそれを望むようになっていた。









【えー、皆さんおはようございます。 自分の机で小休止していたと思ったら、いつの間にかベッドで寝ていた私です。 いったい何があったんでしょう。


とにもかくにも、今の時刻は朝六時です。 いつもの朝ごはん制作にぎりぎり間に合う起床時間です。 高い場所なので、すでに朝日がカーテン越しに差し込んでいます。

よっこらしょういちと古いネタを言いながら起きて、服を着替えて洗顔と歯磨きに向かいます。 ちなみに今日も普通に、濃い緑色のチュニックとしっぽ用の穴を開けた黒のキュロットを着ています。 靴を履かなくていいのが楽です。 お気に入りのは、昨日の青のシャツだったんですけどね。 それが終わると髪の毛との格闘です。 無駄に長いしドラゴンさんは切るのを許してくれないしで面倒くさいのです。

身だしなみが終わったので、窓の一つに向かいました。 カーテンを開けた途端に強い光が目を打って、ム○カばりに目がー目がーとやりました。 ここまでがテンプレです。 ちょいとその窓を少し開けて、踵を返して他の窓とカーテンを開けに行きました。 そのままの勢いで暖炉を消しに行きます。 これから昼ごろまで窓をあけっぱにするので、もったいないのですね。


暖炉を消して、一つのびをします。 くるりと自分の部屋を見渡して、よくわからない満足心を満たし、部屋の扉に向かいました。 そのままそこから出て、下り階段から下へ行くのです。 そこも窓が並んでいてとても明るいので、松明は必要ありません。 扉がきっちり閉まったのを確認して、私は今日も今日を始めるために、一歩前に足を踏み出しました。】







ドラゴンさんマジお父さん

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