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魔物が大人しくなった訳。  作者: 時雨氷水
プロローグ
15/17

魔王見習い様とお祭り騒ぎ。(2)

最近、長いのを時間かけて書くのが良いのか、こんくらいのをちょいちょいアップした方が良いのか迷ってます。


読んでくださっている方、もし良ければご意見ください。

ヒュルッ



「ん」


「あ」



パシッ



「おおー」



千尋は頭上から落ちてきた、白い花が植えられた赤茶色の植木鉢を苦もなく受け止めた。 クィエルはそれを見て三度拍手を送ったが、千尋はまったくもって嬉しそうではなく、むしろ困惑を顔ににじませながら己の手の内にあるものを見つめていた。



「…今時珍しいぐらいの古典的な罠だな…」


「まさかの植木鉢ですもんねぇ。 個人的には黒板消しの方が好きなんですg」



ヒュッ           グチャ



「おー、今回の罠はリクエストにも答えてくれるのか。」


「…なんで僕の時だけ即死級の罠なんでしょうね。 というかこれ大きい鉄の固まりじゃないですか、形だけ申し訳程度に黒板消しで。 というかせんさん、こういうのは無いはずじゃなかったんですか?」



クィエルは湿った音や骨のなる音を所構わずまき散らしながら、見るに耐えない状態の自分の体をつなぎ合わせつつそう言った。



「お茶目心じゃないか? お前達なら他に何人か連れてきてるし、死ぬ事とかはないって知っているんだろ。」


「とっても迷惑なお茶目心ですね、痛みはあるって事も知っててほしかったです。 そうだ、せんさん何か言ってみてください。」


「む、面白そうだな。 じゃ、でてこいお菓子の家と、そこに住む魔女!」


「そんなの降ってきたら危ないどころじゃなくなりますよねー。」


「…あれ、降ってこないぞ?」


「困ってるんじゃないでしょうか、主に材料とかの関係で。」








開始時刻が迫る中、千尋とクィエルは小さく狭い扉とその後ろに続く下り階段を発見した。 それは数多い廊下の、数々の明かりのうち二つのちょうど中間に位置する本棚の、その後ろにあまり巧妙に隠されている訳でもなく、微かに足元から明かりを漏れさせていた。 だからこそ、クィエルが発見できたのだった。


賭けではあった。 もしもそれが7区へと導くものだったとしたら、ほぼ間違いなくしかけられている開始直後の数減らしに引っかかる可能性が低くなる上、参加者同士の足の引っ張り合いを確実に回避する事が出来る。 だが、もし違った上長い通路だった場合、酷いタイムロスとなる。 悩んだ結果その道をとった二人の前には、幸運にも【7区 ― 煉瓦迷宮、西北】と書かれたプレートを埋め込まれている扉が現れた。 故に二人は喜び勇んで、そこで開始時間を今か今かと待ち受けたのだった。 迷宮の二文字の事は考えないようにして。



そして今、二人は迷っていた。 煉瓦の壁とそこに絡まったツタ、そして壁と交互に置かれた本棚をチラ見する事は忘れずに。 そこには上階までとは違い、松明を筆頭とした明かりなど一つとして見当たらない故に酷く暗かったが、二人にとっては別段意味がない事だった。 どちらかというと、目当てが見つかるか否かの方に興味を持っていかれているのも理由の一つだと言えよう。 なぜなら今まで見つけたのは、魔技の初心者入門用が3冊となぜかツタに生っていた蜜柑が計7つ、そして小さな薄汚れた人形のみであるからして。



「いつも思うんだけどな、いくらイベントだからって種類別にわけないってどうなんだろうな。 これ系の本はどこそこあたりに置かれてますよーとか。」


「面白くないからでは?」


「こちらとしては楽な方がいいんだけどなー。」


「それはほら、せんさんがさっき言ってたお茶目心ですよ。」


「ぐぬぬ、ここでそれを持ってくるか……お、なんだあれ。」



やがて二人は、大きな扉の前に来た。 それは重圧そうな石で作られ、無骨ではない程度に装飾が施されていた。 二人は特に言葉を交わすことはなかったが、頷きあうとすぐさま手をかけそれを押し開いた。 と、眩い光が満ち溢れ、ひいたであろう頃に目を開けると、二人は小高い丘を抱くだだっ広い草原に立っていた。 真っ青な雲ひとつない空は煌々と輝く太陽を湛え、丘の麓に一本だけ生えた巨木と周りで爽々と囁き合う草花は瑞々しく煌めき、時折優しく吹くそよ風は先程まで充満していた地下特有の鬱屈した気分を欠片も感じさせていなかった。 そして丘の上には、まるでお伽話に出てくるようなお菓子の家と、そこの煙突から立ち上る甘い香りの煙が、当然のような顔をして鎮座していた。



「…よかったですねせんさん。 リクエスト通りですよ。」


「明らかに罠だがな。」


「じゃあ回避します?」


「行くに決まってるだろ! お前が食った分まで食ってやる!」


「ですよねー。」



コンコンコンコン



「んー、返事がないな。」


「入っちゃいます?」


「そうだな、外には特に何もないし。 こんな所、誰も住んでる訳無いだろう。」



鍵はかかっていなかったらしく、かすかに軋む音と共に開いたチョコクッキー型の扉は、これまた酷く甘ったるい香りを二人の鼻に届けた。 中は外側と同じくすべてが菓子でできており、十字の格子がはまった水飴と小枝の窓からは、変わらず視界の端まで海のような草原と巨大な木が見えていた。 家の中のテーブル、ソファ、椅子、床に絨毯、本棚、箪笥、右手の奥の寝室の家具、果ては食器や手前のキッチンにある調理器具まですべてが菓子でできていた。 もちろん、火の色の飴にかけられていた鍋、果てはその中身までが甘い甘い甘味で作られていた。そして二人がひと通り家の中を見終わった後、千尋が唐突に家を食べたいと言い出した。



「いい匂いしているし、少しぐらい大丈夫だろう。 ちょっとだけだし。」


「やめたほうが良いですよ。 眠り薬とか入ってたらどうするんですか、リタイアですよ?」


「お前が私の分まで食わなけりゃこんな物を食べる気にはならんかったんだがな。 食器は…これでいいか。」


「え、あれ本気で怒ってたんです?!」


「当たり前だろうが。 食い物の恨みは怖いって聞いたことあるだろう?」


「あー、わかりました、後でお詫びしますので今回はちょっとあきらめ…」


「却下です。 毒なんて私には効果ないし。 じゃ、ちょっといただきまー…」



ガチャッ



「?」


「!」



今にも鍋の中身を食おうとしていた千尋の動きを止めたのは、ドアを開けて入ってきたとても背の高い猫の獣人だった。 彼は長い長いダボダボのコートに深く帽子をかぶり、音も立てずに佇んでいた。 僅かに見える肌からは明るい茶色の長い毛が飛び出ており、大きい目はどちらも澄んだ翠色をしていた。 そして彼は二人としばし見つめ合った後、低いゆっくりとした声で、千尋に向かって忠告した。



「……事情はわからんが、ここにあったものなら止めておいたほうが良いと思うぞ。」


「第一声がそれか。」


「それだけ素人目にも危ないもんなんですよ! だから食べるのやめてください!」


「でもなー…」


「でももなんでもありませんって。 貴方に危害行ったら僕が怒られるんですよ!」



それを見て、猫人は軽く溜息を付き千尋に小さな袋を投げ渡した。



「知り合いに押し付けられた物だが、それでも良いならくれてやる。」


「お、良いのか?」


「甘いものはあまり好きじゃないからな。」


「せんさん、知らない人から物を貰っちゃだめでしょう。」


「封は開けられてないぞ?」


「……たしかに開いてませんね、ですけど」


「じゃあこの家を食うぞ。」


「……分かりました。 袋の方にしてください。」


「ん。」



嬉々と食い始めた千尋を横目に、クィエルはスポンジ生地のソファに体を沈めた猫人に向き直った。



「一応お礼を言っておきます。 ありがとうございました。 私はクィエル、あちらはセン。 貴方のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」



新たな参加者はしばし聞こえなかったかのように虚空を見つめていたが、やがてクィエルが自分の方を見ていると気づいたのか、答えを返した。



「…ん、俺か?」


「貴方以外に誰が居るんですか?」


「…居ないな。 んー、俺はベルンハルトだ。」


「ベルンハルトさんですか。 はじめ「嘘だけどな。」」


「……」


「ただの冗談だ、そう怒るな。 まあ、カーターとでも呼んでくれ。」


「カーターさんで良いんですね? 」


「ああ、それでいい。」



そこで千尋は振り返り、横槍を入れた。



「カーターって、たしか雄猫って意味じゃなかったか。」


「…せんさん、それホントですか?」


「どこかの言葉ではそうだったような気がするな。 面白い名前だなーお前。」


「だろう。 もっと褒めても良いんだぞ?」


「…。」















「…タスカッタヨ。 大量ノオ菓子ナンテソンナ急ニ用意デキナクテサァ。」


「お気になさらないでください、これぐらい貴方様の為ならば造作もない事ですもの。」


「本当ニ君ハ良イ子ダネ。 愛シテルヨ私ノ【Rilan】。」





「私も貴方様を愛しています、私の主。 私の魂の全てに賭けて、私の全ては貴方様の物でございます。」



熱に浮かされたような紫色の瞳が、微かにきらめいた。







次話で大きく状況が動きます。 とりあえずヒャッハーしとけみたいな千尋さんにはちょっと辛い敵も出てきますね。


そういえば、Hobbitを見に行ってきました。

名作はやっぱり良いですよね。

一番の見所はやっぱりウサギさんの危険を感じた時の習性を、ちゃんときっちり表現してた所でしょうか。

ちゃんと後ろ足でトントンして「危険だよー!!!」ってしてたんですよ、すごい感動しましたよめっちゃ!!!!!!!!!

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