〜第5章〜I miss you
目を覆う程の光が収まると、アタシは見知らぬ場所にいた。
周りは全て焼け野原。
赤茶色の大地が広がる。
「妃杏様?」
はっ!!
『如月!!!』
声のする方を見ると、やつれ気味の如月がいた。
思わず抱き着いちゃった。
感動の再会。
『ストーンに祈りが通じたのよ』
「妃杏様のお陰です」
・・・でも、、、
どうやって帰ればいいの?
PPで神楽にコンタクトを取った。
・・・取れない。
繋がらない。
気が遠くなりそうだ。
『アタシも迷子?』
再び泣き顔。
「妃杏様が来て下さって力が出ました。ちょっとお待ち下さい」
そう言ってPPをいじり始めた。
「誰かいるのか?」
はっ!!!!!!!!!!
誰か来る!!!
何もない野っ原。
逃げも隠れも出来ない。
ウチらは無防備でただ立ち尽くすしか無かった。
『か…ぐら??』
目を疑った。
神楽にそっくりな男性が銃らしきモノをウチらに向けながら歩み寄ってきた。
「神楽様?」
やはり如月にも神楽に見えるみたいだ。
アタシの錯覚なんかじゃ無いんだ。
「イグアス星の生き残りか?」
『エッ!?』
「イグアス星?」
2人で驚きの声を上げる。
ココ、イグアス星?
『妃杏と申します。隣はエージェントの如月と申します』
とりあえず丁寧に挨拶してみた。
いかなる相手にもまずは礼を尽くせとお母様に教わったから。
「見たトコロ、生き残りでは無さそうだな」
顔はどう見ても神楽なのに言葉遣いが神楽っぽくないのが不自然。
笑いそうになっちゃうよ。
『恐れ入りますが、ココはどこで、今は何年ですか?』
怖いもの知らずなアタシ。
「何を寝ぼけたコトを言うんだ、オマエは。気が触れたのか?ココはイグアス星。と言ってもたった今我々が侵攻してサルミナ星になったがな。今はIK728年だ」
あいけーななにぃはち??
しかもサルミナ星がイグアス星を侵攻???
アタシも如月もあんぐり。
そんな年号、聞いたコトないよ?
「つかぬことをお伺い致しますが、今のサルミナ星の皇王様はどなたですか?」
如月が尋ねた。
「オマエ達、皇王様のお知り合いか?」
ダメだ、どうしても神楽にしか見えない。
『シュナ皇…』
皇子じゃないよね。
『シュナ様やカルラ様は良く存じております』
ホントなら、“シュナ皇子”と“カルラ皇王様”なんだけど、何せいつの時代か分かんないから敬称略で。
「なぜ祖皇王や祖皇大王の名を知っておるのだ」
また声がした。
アタシは心臓が飛び出そうになった。
だって、現れたのが
『如月…』
なんだもん。
如月なんかコトバになってないし。
「皇王様」
こうおうさまぁぁぁぁぁ?????
如月がぁ??
イヤ、如月が皇王様なワケでは無いけどね。
でもなんで誰も如月と皇王様がそっくりなコトに気付かないの?
そう見えるのはウチらだけなの?
ん?
驚きのあまり、もう1つのキーワードを危なく聞き流すトコロだった。
シュナ皇子やカルラ様が祖皇王や祖皇大王・・・と、言うコトは.....
「どうやら未来に来てしまったようですね。」
如月も察したようだ。
しかもとてつもなく。
『そりゃ迷子にもなるよね…』
時空、歪み過ぎだろ…。
諦めを通り越して、ワクワクに達していた。
「ではルアナ様は?ご健在ですか?」
如月が揚々としている。
「大お祖母様をご存知とは、何者だ」
お・・・ばあ、、、様ぁぁぁ???
しかも、“大”?
クラクラしてきた。
『申し遅れました、ワタクシ妃杏と申します。隣はエージェントの如月と申します』
「妃杏?…。如月???」
皇王の表情が固まった。
「如月とは私の大お祖父様と同じ名だ」
ぬ゛っっっっっっっっっっ??????????
『まさかアンタと皇女の孫?』
小声で如月に言った。
「そんなカンジですよねぇ?」
かなり顔が綻ぶ如月。
「まさかその石はプラチナムストーンではありませんか?だとしたらあなたは琉冠星の大皇王妃様ではないですか?」
おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
アタシは驚きの表情のまましばらく固まってしまっていた。
“大皇王妃”が気になったケド。
皇邸に連れていかれたアタシと如月はかなりの賓客扱いを受けた。
何でも、皇王(如月の曾孫)が言うにはやっぱり如月とルアナ皇女は結婚するらしい。
でその何十年か後、シュナ皇子の御子孫が途絶えてしまい、ルアナ皇女の血筋の皇王の父上(如月の孫)が継承するんだけど、
その頃イグアス星が結局サルミナ星を侵攻してくるらしい。
結構な長期戦になり琉冠星が援軍に入り、しまいにはこのプラチナムストーンのお陰でサルミナ星が勝利したらしい。
何でも、アタシとプラチナムマウンテンが犠牲になって助けるらしい。
だからアタシはかなりの英雄らしい。
だけどその影響で琉冠星は自然消滅してしまうのだそう。
かなりの衝撃だった。
で、その数十年後が現在で、たまたまイグアス星に偵察に来ていた神楽のそっくりさん(マリアスさん)のモニターがウチらをキャッチして、発見されたってコトらしい。
ウチらの時代でさえかなりイリュージョンな世界なのに、それからさらにイリュージョン度合いがパワーアップして、この時代の技術はイリュージョンをはるかに越えていた。
だから、ウチらが過去から来ちゃったコトに、誰も何の違和感も驚きも見せずに、それどころかウチらを帰してくれる手配までしてくれるコトになった。
まぁ、この時代のサルミナ星の人達からしたらアタシは英雄以外の何者でもないだろうからね。
でも、フクザツ・・・。
琉冠星が無くなっちゃうなんて。
サルミナ星を助けた際のプラチナムストーンのパワーが強大過ぎて、パワーが暴発しちゃって消滅しちゃったんだって。
琉冠星のみんなは、寸前でそれぞれ逃げれたらしいんだけど。
「いかにも妃杏様らしいですよね、身を呈して護っちゃうんですから」
用意された部屋で2人、未来の空を眺めながら話してた。
『如月、良かったね。きっとこの努力は報われたんだよ』
アタシは何よりそのコトが嬉しくてたまらなかった。
もうアタシも如月もこの時代にはとっくにいない。
いるのは如月そっくりな子孫と神楽のそっくりさん。
「マリアスさんて、誰の子孫なんですかね。どうみても妃杏様と神楽様ですけど…」
如月の疑問はアタシも感じてた。
でも、もしそうならアタシの正体がバレた時に名乗ってきてもおかしくないよねぇ。
『他人のそら似なんじゃないの?』
そう言うコトにしとこう。
「でも、ワタクシ達がこの時代に現れてしまって、タイムトラップが起きてしまわないですかねぇ」
この如月の疑問もやっぱりアタシも感じてる。
いざ戻ったら皇女と如月は結婚してなくて、神楽もアタシの婚約者でもなんでもなく・・・・・・・・・・
『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
ひきつり顔で叫んでしまった。
「どうしたんですか妃杏様!!」
つられて取り乱す如月。
『アタシが如月と裏庭でシンクロした時、アタシ以外のみんなの記憶から如月が消えてた。しかも神楽がアタシの婚約者じゃなくなってた』
メチャクチャ心臓が暴れてる。
「でもそれは我々が子孫に会う前ですよねぇ。大丈夫ですよ」
如月がやたらとノンキに見えてくる。
『戻ったらどうなってんのかなぁ…』
動揺しながらも、また空を見上げた。
「確認しますか?マリアスさんにでも」
全然平気そうな如月。
そりゃそうだよね、自分と皇女が結婚してるコトを知るんだもん。
『怖いからイイ。何だか神楽に逢いたくなっちゃうし…』
神楽に出逢ってからこんなに神楽と離れたの、初めてだから。
しかも神楽のいないトコロに。
そっくりさんはいるけど。
神楽、今頃どうしてるかなぁ。
2度も継承者がいなくなって、ロイヤルゲートはさぞかし大騒ぎだろうね。
なんて、ノンキなアタシ。
帰れるコトが確実だから言ってられるんだろうけど。
「妃杏様、お時間よろしいですか?」
うぉっ!!!!!
マリアスさんが現れた。
この時代はモニター越しの移動じゃなく直接の空間移動で現れる。
まずは立体画像が現れて、良ければ実体が現れる。
『ハイ。どうぞ』
如月は今、皇王とお話中。
しかし、ホントに神楽だよな…マリアスさんて。
ココまで似るか!?ってくらいに。
否応なしに笑顔になるよ。
「まさかこのような形でホンモノの妃杏様にお逢い出来るなんて思いもしませんでした。この惑星の救世主ですから」
何だかテレちゃうなぁ。
『アタシがやったコトなのにアタシが知らないのもヘンな話だけどね』
ニヤニヤしちゃうよ。
「もしも今、同じような状況におかれたらどうなさいますか?」
声まで似てるように感じてくるよ。
『そりゃサルミナ星が助かるなら、迷わず未来の自分と同じコトするよ』
アタシのあまりのあっけらかんな態度に、マリアスさんは驚いているみたいだ。
何も言えないでいる。
アタシは嘘偽りない気持ちで続けた。
『だってサルミナ星の危機は琉冠星の危機だもん。国を護るのは皇王の役目だから』
さらにコトバを失うマリアスさん。
アタシは、何も言えないでいるマリアスさんの為に、今回、ウチらがココにいるコトの発端の話を始めた。
皇女とガイルの話、
“サルミナ星の危機は琉冠星の危機”って話、
その危機がガイルの仕業だってコト、
ソレを阻止しようと倫理を無視して、万全の体勢で無理矢理如月を過去に行かせたコト、
のハズなのに時空の歪みが出来ちゃって、今に至るトコロまで。
マリアスさんはずっと黙って聞いていた。
「幼い頃、ワタクシの祖父より妃杏様のお話を聞いたコトがありました」
“祖父”か・・・。
何とも言えない不思議なカンジ。
ココにいるのにいないみたいな。
地球にいた時の逆の経験をしている。
貴重過ぎるよな。
「“お前の祖先には偉大なお方がいる。その血筋を受けるモノとして誇りを持て”と」
ん?
“祖先”?????
無数のハテナがアタシの脳を支配する。
と、言うコトは?????
アタシ、目がテン。
「祖父から聞いていた通りのお方で安心しました。こんなにお若いので“お祖母様”なんてコトすら言えませんね」
ぴゃあああああ。
やっぱりそうかぁぁぁ。
聞きたくなかったな。
今度はアタシが黙り込んじゃった。
でも、聞いとくか。
『アタシがいなくなった後神楽はどうなったの?アタシのパートナーなんだけど。』
このくらい聞いたってバチは当たらないよね。
アレ?
マリアスさん、また無言になっちゃったよ?。
「…存じません」
やっと口を開いたかと思ったらうつ向いて呟くように発した。
エッ?
何かおかしいよ。
「ワタクシは失礼致します。お時間を頂き、ありがとうございました」
エッ?
マリアスさんはそのまま消えていった。
如月が戻って来た後、アタシはマリアスさんの様子を話した。
すると如月からも不思議な答えが帰ってきた。
「ワタクシもさりげなく聞いてみたんです、マリアスさんの祖先は誰なのか。ところが誰も答えてくれませんでした。知らないようです」
ますます怪しい。
何で神楽を知らないの?
「妃杏様より早死にするんですかねぇ」
如月は縁起でもない物騒なコトをサラッと言ってのけた。
だけど、そうとも考えられる。
にしてもあの様子はおかしいよ。
確実にただならぬ空気だったもん。
『やっぱり神楽じゃなくなるのかなぁ、アタシの婚約者』
自然と涙が出ていた。
「んなワケないじゃないですか!また暴走してますよ妃杏様!!」
如月は笑い飛ばしてるケド…、不安になるよ。
そりゃアンタはイイわよ!
・・・なんて、言いたいケド言えない。
神楽・・・。
モーレツに逢いたいよぉ。
いつもみたいに飛んできてよ。
“ご安心下さい”って言ってよ。
ダメだ、涙が止まらない。
如月は優しくそっと肩を抱いてくれた。
神楽みたいに。
翌朝、目覚めると何やらただならぬ雰囲気を感じざるを得ない状況に陥っていた。
“「明朝に元の時代にお帰り頂けるように準備致します」”
って言われてたのに、食事の時もその後も何も言われてない。
みんなの様子が尋常じゃなく険しかった。
しかもマリアスさん(厳密に言うとアタシの場合、“さん”はいらないんだろうケド)がいなくて。
聞くに聞けない雰囲気の中、1人お気楽如月は何の迷いも見せずに聞いていた。
「マリアスさん、どうしたんですか?」
あまりの如月の無防備っぷりに、アタシはコトバが無かった。
「無断で過去に行ってしまったようで、タイムホイールが出来てしまっている為、妃杏様達のご帰還に影響が出てしまっているんです!!」
心臓がカラダを突き抜けた。
どうして?
涙がなぜだか込み上げてきた。
呆然とするアタシ。
むしろ軽い放心状態。
マリアスさん・・・。
自分達が帰れないコトはどうでも良かった。
過去に行ってどうする気なの?
昨日の憂慮の表情と関係あるの??
如月は皇大王(如月の孫)を呼び出し物凄い剣幕で問い詰めた。
アタシは未だに放心状態。
「妃杏様と神楽様のご子孫がどうして皇家に仕えてるんですか!」
止めて如月…。
胸が苦しくなるよ…。
皇大王の反応はウチらも驚くほど意外な表情だった。
「マリアスが妃杏様の子孫???」
周りの人達もざわつく。
「ホントに知らなかったんですか?」
如月、かなりキレてる。
『如月…』
さすがに慌てて止めに入る。
「神楽様と言うのは、妃杏様とどのようなご関係のお方ですか?」
「えっ?」
如月は声に出して、
アタシは声にならずに驚く。
無性に嫌ぁ〜な胸騒ぎが起きてる。
「何で神楽様を知らないんですか?妃杏様のパートナーで皇妃王様なのに」
今までにナイ程にアツくなる如月にアタシはただただ泣き続けるしかなく。
「申し訳ありません、そう言えば妃杏様のご家族のコトは聞いたコトがありませんでした。てっきり途絶えたモノだと…」
メチャクチャバツの悪そうな皇大王。
アタシはとにかくワケが分からなかった。
神楽を知らない?
アタシが有名なのに???
しかも神楽に限らずアタシの家族まで!?
マリアスさんの様子もおかしかったし。
「もしかして」
皇大王のSPのジュラさんが神妙な顔で呟いた。
イッキにみんなの視線が集まる。
「前に一度だけマリアスがレジスタニアの丘にいたのを見たコトがあります。なぜいたのか、何をしていたのかは伺い知りませんが」
「レジスタニア???」
如月の声が恐ろしい程にキレていた。