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〜第2章〜時の迷子

『ごめんなさい、今日は帰ります。日を改めます』


アタシはいるに耐えなくなって、用件を済ませずに帰った。


「妃杏様?」


怪訝そうな如月の表情が依然として見られなかった。


皇女もマールスさんもそして如月も、唖然としていたけどアタシは構わずその場を去った。


毅然とした態度の如月を見れば見るほどに辛くなるから、今日はこれ以上いたくなかった。


「ごめんね妃杏…」


唖然としたままの皇女。


「妃杏様?」


如月が何度も呼び止めようとする。


如月の声が胸に響く。


自然と涙が込み上げてくる。


「妃杏様?」


『今日はもうイイわ。神楽と話がしたいから。お疲れ様』


やっぱり如月の顔を見ずに。


「かしこまりました。では呼んで参りますね。本日も1日お疲れ様で御座いました、失礼致します」


背後に如月を感じなくなった途端、アタシは洪水のように泣きじゃくった。


久し振りにこんなに泣いてる。


苦しいくらいに泣いてる。


今までも今でも如月はずっとウチらのコトを応援してくれていた。


“お2人とも大好きです。お2人には幸せになってもらいたい、ただそれダケです。”


そう言う時の如月の笑顔がアタシの脳裏に焼き付いている。


ソレが余計にツラい。


今如月はどうしているだろうか。


1人何を思っているだろうか。


早く如月を“任務”から解放してあげたくてあんな言い方をしちゃったけど…。


心配でたまらない。


ダメだ、泣きすぎて肩がヒクヒクしている。


ひゃっ!!!!!!!!!!


神楽?


そっと優しく抱き締めてくれている。


しかもコーヒーの香りが。


『神楽様?』


声にならない声。


かなりかすれてる。


「どうなさったのですか?如月に聞いて驚きました。皇女のトコロへ行っていくらも経っていないではないですか。」


神楽の声がちょっと怖く感じた。


アタシは神楽の方を向き直し、涙でぐしゃぐしゃな顔で神楽に抱き着いた。




ひとしきり神楽の胸で泣いた後アタシはコーヒーを何口か飲んだ。


その間神楽はずっと何も言わずにとてつもなく優しく抱き締めてくれていた。


コーヒーを飲んで落ち着いたら、不意に“あの時”のコトを思い出しちゃった。


こっちに来て間もなく迎えたアタシの誕生日の前夜、お父様がアタシの部屋に来て、しかもわざと神楽まで呼んで突然プラチナムストーンの話をし出したの。


“想う相手はいるのか”なんて、突飛もないコトを言い出して。


突然何を言い出すのかと心臓が握り潰されたような感覚だった。


神楽に対しての気持ちで一番悩んでた時で、しかもその直前にどうしていいか分かんなくなって神楽に八つ当たりしちゃってた直後だったから思わずとっさに神楽の目の前で“いないです”なんてウソついて。


“プラチナムストーンは持つ者によって発揮されるパワーが異なるケド、歴代の皇王が皆経験してるコトがある。”


そう言って続けたコトバにアタシも神楽も絶句したんだよな。


“想う相手が現れた時、その人が妃杏の運命の、自分にとってのオンリーワンの相手と言うコトのようだ”


アタシはその瞬間に目の前が真っ暗になって、何万トンもの衝撃を受けた気がした。


神楽は、見た目は冷静だった。


ところが後から如月がすっ飛んできてアタシに噛みついて。


如月は一番最初にアタシと神楽のお互いの気持ちに気付いてた。


その時からずっと、今も如月はウチらのコトを応援してくれている。


あの時、神楽は言ったよね。


“アタシと誰かが一緒になるのかと思ったら途端に自分の感情をコントロール出来なくなっていた”


って。


冷静沈着な神楽がそうなんだもん、如月は??


どうにかしてあげたい。


どうしたらイイの???


とりあえず皇女の話をしてみた。


もちろん如月のコトは出さずにね。


皇女とガイルの話。


さすがの神楽も驚いたみたい。


『あんなに嫌がる皇女、見たコト無い!!あんな皇女見たくないよ!!どうにかならない?』


タメ口に戻ってしまっていた。


でもそんなの気にしてる場合じゃなかった。


『イグアス星がサルミナ星に攻め込む前にタイムトリップして阻止出来ない?』


ふとアタマに過った。


黙って首を横に振る神楽。


『どうして?神楽様や如月がアタシのトコロに来れたみたいな方法とか出来ないの?』


アタシ、自分で相当ムチャクチャなコトを言ってんのは重々承知だった。


2人が2世紀も過去のしかも違う惑星のアタシのトコロに来れたのはプラチナムストーンのお陰だってコトは分かってる。


『何でもかんでも技術が進歩していて何だって出来ちゃうのにどうして時空間移動は出来ないの?』


取り乱すアタシに神楽はどうしてイイか困惑気味。


コレだって分かってるよ。


どうして時空間移動は出来ないか。


過去にそういう技術はあった。


当たり前に過去に行き来出来る技術が。


「他の方法を考えましょう」


神楽はアタシが取り乱しているだけなコトをお見通しみたいだ。


過去に言って未来を変えようとしても所詮それは出来ない。


過去に戻ってどうこうしたくらいじゃ未来は変えられない。


その瞬間は変わっても、どこかで上手く帳尻が合っちゃって結局は何も変わらない。


もしくはタイムトラップと言う“歴史の歪み”が出来てしまい、そんなうちに過去から戻って来れなくなる。


そんな“時の迷子”が問題になって、結局それ以上技術は進歩しないまま。


未だに戻ってこれない“時の迷子”はたくさんいる。


だけど…


『神楽様や如月のブレインだったら何とかならないの?』


アタシは無我夢中だった。


とにかく如月を助けたくて。


“如月はもしかしたら望んでないかも知れない”


心の片隅ではそう思えてるよ。


だけど、この衝動は止められなかった。


どうしようもなく。


また涙が…。


うつ向いたアタシを神楽がそっと包んで言った。


「如月の為ですね?」


!!!!!!!!!!


思わずカラダが反ってしまった。


思いっきり眉間にシワを寄せて、口元もつり上がって、アタシ間違いなく変な顔。


神楽はとんでもなく優しい笑顔。


「人間、自分のコトにはとことん鈍感ですが人のコトにはとことん敏感なようです。本来であれば上司として“立場をわきまえろ!!”と怒鳴り付けたいトコロですが、なにぶんワタクシが言える筋合いではございませんので」


含み笑いを見せながら神楽は優しい笑顔のままでそう言った。


それを聞いたらアタシ、また泣けてきちゃって。


神楽の胸で泣いちゃったよ、本日2回目。。。


「ワタクシとしても如月の幸せは願わずにはいられません」


神楽・・・。


オトコの友情ってヤツかなぁ。


アタシは今更ながら、改めて神楽のスゴさを感じた。


…と言うより、ちょっと誤解してたみたい。


神楽のコトだから如月には厳しいのかと思ってたから。


神楽が如月の想いに気付いてたってコトと、


“部下として”だけじゃなく、ちゃんと“オトコとして”も如月を見ていたってコト。


正直意外だワ。


ごめんね神楽。


パートナーのコトを解って無いのは神楽じゃなくアタシだったよ。


心の中で反省。。。


「如月の様子を見て参ります。くれぐれもワタクシが気付いているコトは黙っていて下さいね」


ほくそ笑みを浮かべながら神楽は如月の元へ行った。


何だか神楽のこんな一面、一度も見たコトが無かったからちょっぴり嬉しい。


心なしかコーフンしてる。


尚更何とかしないと!!!


イイ加減、如月に日頃の恩返しをしないとね。


まずはやっぱり皇女が言う異変を突き止めないとな。


って、その為に行ったのに帰ってきたのは誰だよってハナシなんだけどね。


「妃杏、ごめんね」


皇女だ。


モニター越しに。


『アタシこそ申し訳ありません。用件があって行ったのはワタクシの方でしたのに』


皇女は謝るコトないよ、悪いのはアタシなんだから。


『データベースにはない性質の物体が検出されました。それについてお話しようと思ったんです』


「アイツだよ!!やっぱりね」


なぬっ?????


アタシのコトバを最後まで聞くか聞かないかで皇女は眉間にシワを寄せて、一言そう言った。


“アイツ”ってまさか?


「ガイルがアタシに有無を言わさないように何か仕掛けてんだよきっと!!だから誰もアタシの言ってるコト真に受けてくれないんだと思うのアタシ」


アタシは何も言い返せなかった。


皇女の言ってるコトが皇女の推測に過ぎなくても、確かに言ってるコトは納得できるから。


だからうかつに“まさか!”とも“そうですよ”とも言えない。


だけど、そんなコトで自分の惑星の危機を見て見ぬふりなんてするのだろうか。


そんな疑問もある。


イグアス星に行ってみる?


何用で?


お父様やお祖父様、イグアス星に用ないかな。


イヤ!!!!!あったトコロでまさかお父様やお祖父様に何かを頼むなんて出来るワケないじゃない。


じゃあどうすれば。


マールスさんだっっっ!!


マールスさんなら1人で行っても不自然じゃないよ。


・・・だから何用で??


ダメだ、早くも行き詰まってしまった。


速すぎだろアタシ。


仕方無い、ウルトラスーパーハイパーエグゼクティブブレイン(間違いなく毎回同じようには言えてないな、アタシ) に頼んで作ってもらうか。


バレないような、超小型無人解析システムを。


「アタシはアタシの意思で自由に相手を選びたいの。だいたい王妃なんかやりたくないよ。ガイルみたいなのタイプじゃないし」


皇女の表情が、“嫌々オーラ”を爆発させていた。


『皇女は想う方はいらっしゃるのですか?』


アタシは尋常じゃない程にドキドキしながら尋ねた。


アタシのドキドキとは裏腹に、皇女はあっけらかんと答えた。


「たくさんいて1人に絞れないかな」


でも、とってもステキな笑顔だった。


ちょっぴり羨ましかった。


アタシは“1人に絞れない”なんて経験ないからね。


その“たくさん”の中に、如月はいてくれてるのかなぁ。


もしくは、今からでもその中に入れる余裕、あるかなぁ。


聞きたい。


だけどやっぱり聞けなかった。


あまり如月の知らないトコロで暴走するのも厳禁だしね。


皇女との会話が終わったあと、アタシは無意識にぼんやり空を眺めていた。


何を想うワケでもなかったけど。


ガイルがいた時の皇女の顔と、


さっきの楽しそうに話す皇女の顔が同時に浮かんで離れなくて。


どうしたらいいんだろう。


ホントにガイルの仕業だとしたら…。


おっ!!!!!この香りは!!!!!


「失礼致します」


神楽登場。


『如月はどうでしたか?』


コーヒーを笑顔で受け取る。


「ワタクシには平静を装っておりました。サルミナ星のコトとイグアス星のコトを2人で少し調べておりました」


どんだけ耐えてんだよ。


皇女のコト好きじゃないのか?


それとも諦めた?


『今皇女と話してたのですが、アタシがデータベースにはない性質の物体が検出されたって言ったら、皇女はサルミナ星の異変はガイルの仕業だって言ってました。だから周りのみんなはみんな信じてくれないんだって』


アタシの話に神楽が反応した。


「皇女の発言に根拠は無いにしても、まんざら疑うワケにもいきませんね」


アタシと同じコト言ってるよ。


「イグアス星を調べる必要がありますね」


神妙な顔で言った。


アタシもつられて神妙な顔で頷いた。


その後bossに話し、如月にはあえて言わずに3人で(毎度のコトながらアタシはいるダケだけど)システム 作りをした。


もちろんbossに如月のコトは言わないよ。


いくらなんでも言えないよ。


でも如月、大丈夫かなぁ。


神楽が気付いてるコト、言っちゃった方が如月的にはラクなんだろうに。


まぁそこは男同士のコトだからタッチしない方がいいな。






「おはようございます妃杏様」


今朝の如月は・・・


いつも通りだった。


『アタシの前では無理しなくてイイんだよ』


言わずにはいられないよ。


「妃杏様」


ほんのり情けない顔になる如月。


「お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫です。やはり身分違いだと言うコトを痛感させられましたから」


『何言ってんの!?アンタの想いってそんなモンだったの!?』


自分が一番驚きだった。


如月のコトバの後、無意識に叫んでいた。


そこには理性も何も無かった。


ホントに口が先だった。


ボー然とする如月。


『ホンキで“身分違い”だなんて思ってんの!?』


止まらなかった。


アタマの片隅では如月が望んでないかも知れないって思ってた。


だけど如月の言ってるコトが本意じゃないって、何となくだけど感じたから。


「妃杏様?」


戸惑う如月。


そりゃそーだよな。


落ち着けアタシ。


大きく深呼吸。


『アタシは如月には幸せになってもらいたいの。だから無理しないで。簡単に諦めたりしないで』


一息ついたハズなのに涙がにじんでいた。


「もちろんショックでした。ですがワタクシにどうにか出来る次元の問題ではありません」


如月のショックはアタシの想像をはるかに越えていたようだ。


怒りを通り越して諦めに変わっていたのだ。


アタシは食事の間、ずっと考えていた。


そして食事の後、みんなのいる前で告げた。


『しばらくの間、如月に休暇を取らせたいのですが宜しいでしょうか』


「妃杏様???」


すっとんきょうな声をあげる如月。


如月が驚いているからか、一瞬ためらったように見えたお父様だったケド優しく答えてくれた。


「イイだろう。朱雀、構わんな?」


「かしこまりました。調整致します」


bossも穏やかな表情で答えてくれた。


心の中でホッと胸を撫で下ろす。


「妃杏様???」


狼狽える如月だったケド、察した神楽が如月の肩を叩いて言ってくれた。


「妃杏様がそう仰るんだ、有難くお受けしろ。あとのことはオレに任せろ」


神楽もまた、優しい笑顔だった。


ありがとう、神楽。


神楽の目を見て呟いた。


神楽はそっと笑顔で頷いてくれた。


少しでものんびりしてくれればイイかなって。


やっぱり任務から解放してあげたいから。


「何でですか?」


神楽に言われたにも関わらず納得が行かない様子の如月。


部屋に戻ってすぐ噛みついてきた。


『たまにはのんびりしなよ』


あえてソレだけしか言わなかった。


「・・・かしこまりました」


全く納得してないカンジだったケド、渋々如月はふてくされながら出ていった。


“自分を見つめ直す”


なんて偉そうなコトは思わないケド、リフレッシュしてくれたらなって思ったから。


如月がいない方がスムーズに済むコトもあるしね。


ちょっと違うけど、神楽とゆっくり(?)2人の時間が出来るしね。


「久し振りに、よろしくお願い致します」


何だか照れ臭い。


神楽も照れながら挨拶。


不思議な空気が2人を包んでいた。





















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