ハナの記録① 主任とルーティンワーク
弾薬、詰める、運ぶ——
これが私のルーチンワーク。
…ルーティンワークだっけ?
日々の似た作業の繰り返し、それがルーティンワーク。
主任がそう言ってた。
可愛げのない見た目の大小様々な弾薬を箱に詰めて運ぶ。
もちろん箱も可愛げない。
でもそれでいいのだ。別に売り物ではないし、ゼンセンに送られて使用する為だけのものだから。
これも主任が言ってた。
視界の端に長い黒髪の姿が映る。
どうやら主任の巡回時間みたいだ。
すぐ分かった理由は単純で、ここで髪が長いのは主任だけだし、主任がここにくるのは巡回の時だけだからだ。
前に聞いた話だと、主任を作った人が「主任」という立場を分かりやすくする為に長髪にしたとかなんとか。
別に見た目で判断してるわけじゃないんだけど…。
でも私より前の型の先輩たちには、その方が分かりやすいのかも。
髪の話に戻ると、私は灰色———というか、私と同じ世代の子達はみんな灰色だ。
黒くしたら主任になれるかもと頭からすすを被った子は、その日の夕方には反省室送りになっていた。
髪を黒くしたって、長く伸びなければ主任にはなれないのに。
「集中してるか?ハナ」
突然、鋭い声が聞こえて身体がビクッとした。
主任の足音は分かりやすいが、余計なことを考えていて気付けなかった。
「はい、集中してます」
「考え事でもしていたから、足音に気付かなかったんじゃないか?」
「———いえ、そんなことないです」
主任は、いつも痛いところを突いてくる。
私はもうずいぶん前から、主任には心を読む機能が搭載されてるに違いないとにらんでいる。
「ハナ、今日はお前との面談日だ」
————その言葉を聞いて、作業の手が完全に止まった。
そうか、今日は面談日だったのか。
主任は巡回のあと、日替わりで面談をしている。
面談は作業よりも優先されるから、今日の私の作業はこれでおしまい。
既に背を向けて歩き出していた主任に小走りで追いつく。
作業場の隣には小さな面談室があり、私はここに入るのが好きだった。
最初の頃は、毎日のように面談室に入り込んでは主任を困らせていた。
今はそれがダメなことだと知っているので、たまにしか入っていない。
……
「なにか聞きたいことはあるか?」
部屋に入るなり、大きめのソファを堪能する暇もなく問いかけられる。
「えーと…前線ってどんなところなんですか?」
「それは私の知るところではない。」
「——なるほど。」
主任との面談の半分はこの返答になる。
それでも私は面談が好きだ。
だって、この部屋に堂々と入れるから。
「じゃあ、弾薬って何に使うんですか?」
「それはお前の知るところではない。」
この返答がおよそ3割。
なのでまともな返答が貰える確率は約2割となる。
これはその2割を当てるゲームなのだ。
「この前の事故の原因は分かりましたか?」
「弾薬が破裂した事故の話だな? あれはハロの身体がオーバーヒートしていたのが原因だった。
弾薬に触れた手が高温になっていた。」
ハロは私の1つ前の子で、同世代では一番仲がいい。
この前、ハロが触れていた弾薬が破裂する事故があった。
その事故で右腕が欠けてしまって、しばらく整備室で過ごすらしい。
事故の後にちょっとだけ話が聞けたけど、なんだかすごくビックリしたらしい。
私もビックリするのは嫌なので、原因は知っておきたかったのだ。
「ちなみにこれは、今朝の申し送りでも伝えた」
「————ごめんなさい。」
2割を引けた喜びもつかの間、私は目を閉じて神妙な顔を作った。
そうか、この部屋は反省室になることもあるんだな——。
「ハナ、やはりお前は他の奴等よりも注意散漫だな」
「…集中力を高めるにはどうすれば」
「それは私の知るところではない。面談は以上だ。」
言うが早いか席を立つ。
久しぶりの面談だったけど、主任は相変わらず主任だった。
私は名残惜しむようにソファにそっと触れながら、面談室をあとにした。




