第8章: 営業部隊派遣
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第8章: 営業部隊派遣
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直人が指を鳴らすと、パリッとしたスーツ(のような制服)に身を包んだ男たちが、無音で入室し整列した。 かつてはザリア伯爵の下で私腹を肥やしていた悪徳文官や、腹黒い執事たち。しかし今の彼らの目は、直人のスパルタ研修によって「商魂たくましい企業戦士」の光を宿していた。
「紹介しよう。我が国の誇る**『営業部』**の精鋭たちだ」
【ルメリナ外交使節団:全10チーム編成】
1. 第一営業部(対・グランバニア帝国):高級酒類チーム
隊長:レイモンド(元・伯爵家筆頭執事。礼儀作法と腹芸の達人)
手土産:純米大吟醸「直人」、ブランデー、ウィスキー20年もの。
戦略:皇帝や高位貴族に最高級の酒を献上し、「この酒が飲みたければルメリナを認めろ」と優雅に、かつ残酷に依存させる。
2. 第二営業部(対・ドワーフ鉄鋼国):アルコール&揚物チーム
隊長:ガレス(副団長兼酒豪。ドワーフ語が少し話せる)
手土産:芋焼酎「大地の怒り」、ラガービール、唐揚げ、串カツ。
戦略:度数の高い酒と脂っこいつまみでドワーフ王を泥酔させ、鉄鉱石やミスリルの独占輸入契約を結ぶ。「酒飲み友達」作戦。
3. 第三営業部(対・エルフの森):スイーツ&フルーツチーム
隊長:ハンス(農村長老。植物への造詣が深い)
手土産:シャインマスカット、蜜入りリンゴ、マヨネーズ(野菜用神ソース)。
戦略:肉を嫌うエルフには、魔導フルーツの輝きと、野菜を劇的に美味くするマヨネーズで攻める。「自然との調和」を謳いつつ、糖分で堕とす。
4. 第四営業部(対・獣人連合):スタミナ肉チーム
隊長:ボルグ(元・傭兵隊長。腕っぷしが強く、肉の焼き加減にうるさい)
手土産:焼肉セット(タレ付き)、ガーリックライス、ハンバーグ。
戦略:本能に訴えかける「肉とニンニクの暴力」。力こそパワーの獣人たちを、カロリーでねじ伏せる。
5. 第五営業部(対・自由商業都市):調味料卸売チーム
隊長:元・商業ギルドの裏帳簿係(計算と交渉の鬼)
手土産:醤油、味噌、砂糖、塩、胡椒、ウスターソース。
戦略:現地の料理店やギルドにサンプルをバラ撒く。一度味を知れば、彼らは二度とルメリナ産調味料なしでは商売ができなくなる。
6. 第六営業部(対・魔導王国):和食&麺類チーム
隊長:元・宮廷魔導師崩れ(研究熱心なオタク気質)
手土産:米、味噌汁、うどん、日本酒、担々麺。
戦略:徹夜続きの研究者たちに「消化に良く、脳に染みる夜食」を提供。ラーメンによる夜食テロで、魔導技術との交換条件を引き出す。
7?10. 広域普及部(対・小国群):バラマキ宣伝チーム
隊長:若手の有望株たち。
手土産:おにぎり、豚汁、ポテトフライの炊き出しセット。
戦略:民衆に安くて美味い飯を振る舞い、「ルメリナに行けば腹一杯食える」という噂を流布。労働力(移民)を吸収する。
「……完璧な布陣だ」
直人はリストを見下ろし、満足げに頷いた。
「いいか、お前たち。剣は抜くな。魔法も撃つな。……使うのは**『試食』と『接待』**だ」
直人は、元・執事のレイモンドに最高級ウィスキーの瓶を手渡した。
「相手が『もっと欲しい』と膝をついたら、契約書を出せ。……内容は俺が書いた『友好条約(実質的な経済的隷属)』だ」
「「「イエス・ボス!! 必ずや、全大陸の胃袋を掴んでみせます!!」」」
再教育された彼らの目に、迷いはない。 かつては腐敗した官僚だった彼らも、今や「ルメリナの美食」に誇りを持ち、それを広める宣教師としての使命感に燃えていた。
「頼もしいな。……ではエレナ女王陛下、出陣の号令を」
直人に促され、エレナは玉座(元伯爵の椅子)から立ち上がった。
「うむ。……行け、我が国の精鋭たちよ! 剣ではなく『味』で、世界を平定するのだ!」
翌朝。 大量の食料と酒、そして野望を積んだ10の馬車隊(牽引は魔導バイソン)が、新生ルメリナ公国から四方八方へと旅立っていった。
直人とエレナは、城壁の上からその列を見送った。
「……これで良かったのだな、ナオト」 「ああ。一ヶ月もすれば、大陸中の金と人が、この街に集まってくるさ」
直人はニヤリと笑った。 国境の中で肥え太る準備は万端。あとは、外から獲物がかかるのを待つだけだ。
【ステータス更新】
【新生ルメリナ公国】
【国家戦略】 全方位飯テロ外交(使節団派遣)
【特産品追加】
純正ごま油
練りごま&すりごま
香り山椒(粉・実)
特製ラー油
濃厚ごま担々麺
【ナオト・カジヤ】
【新規習得スキル】
≪組織運営(人事) Lv.110≫:適材適所の配置で、組織のパフォーマンスを最大化する。
≪黒幕 Lv.1≫:表舞台(王)を支え、裏で世界を操るポジション。
「さて……使節団が帰ってくるまでに、受け入れ態勢(都市拡張)を進めないとな」
直人は伸びをした。 彼の仕事は、まだまだ山積みだ。
「業務連絡。……使節団が出発する前に、渡しておくものがある」
出発の朝。 直人は広場に整列した10チームの隊長たち(レイモンド、ガレス、ハンス、ボルグら)を呼び止めた。 彼らの足元には、大量の樽や木箱が積まれている。馬車だけでは到底運びきれない量だ。
「サンプル(酒・食料)が多すぎて馬車がパンクしそうです、ボス」 レイモンドが困ったように眉を下げるが、直人はニヤリと笑った。
「だから、お前たちにも**『社用車』**を支給する」
直人は隊長たち一人一人の額に指を当て、**≪教育 Lv.160≫**で術式を直接インストールした。
「イメージしろ。影の中に広がる、四次元の倉庫を。……容量は一人あたり**『4トントラック10台分』**だ」
「ぐ、ぬゥゥッ……! 頭が……開く……!」
隊長たちが呻き声を上げると、彼らの影がズズズッと広がり、亜空間への入り口が開いた。
「こ、これは……! 荷物が吸い込まれていく!」 「しかも軽い! 手ぶらで数万リットルの酒が運べるぞ!」
「さらに**『時間停止機能』**付きだ。熱々のハンバーグも、キンキンに冷えたビールも、そのまま客に出せる。……これが最強の営業ツールだ」
直人は彼らの肩を叩いた。
「行ってこい。世界中の胃袋を掴んでくるんだ」
「「「イエス・ボス!!」」」
身軽になった外交団は、颯爽と旅立っていった。
【プロジェクト:究極のタレ・開発】
外交団を見送った直人は、すぐに厨房へ戻った。 国内にはまだ、オーク肉やバイソン肉が山のようにある。これを消費させるには、「塩」と「ポン酢」だけでは飽きが来る。
「焼肉の真髄は**『タレ』**にある。……そしてタレの味を決める影の主役は、ニンニクでも果物でもない」
直人は山積みになった**「褐色玉ねぎ」**を手に取った。
「**『玉ねぎ』**だ。すりおろした玉ねぎの甘みと辛味、そしてとろみ。これが肉に絡みつき、酵素の力で肉質を劇的に柔らかくする!」
直人は、これまで開発した調味料と、大量の玉ねぎを投入し、黄金のレシピを構築した。
1. 王道:秘伝・オニオン醤油ダレ(ザ・スタンダード) 「基本にして頂点だ!」
ベース:特級醤油、酒、本みりん、砂糖。
影の主役:すりおろし玉ねぎ(大量)。加熱して甘みを出し、さらに生のおろしも加えてフレッシュさを出す「ダブル・オニオン製法」。
フルーティー:完熟リンゴと洋梨のすりおろし。
香り:ごま油、いりごま。
パンチ:おろしニンニク、生姜。 「ドロリとした玉ねぎが肉に吸着し、焼くとキャラメリゼされて香ばしさが爆発する!」
2. 濃厚:スタミナ味噌ダレ(ホルモン専用) 「内臓にはこれだ!」
ベース:ルメリナ味噌、豆板醤(辛味噌)。
具材:玉ねぎのみじん切り、ニラ、おろしニンニク。 「味噌のコクと玉ねぎの食感が、ホルモンの脂と融合する!」
3. 爽快:ネギ塩レモンタレ(タン・鶏肉用) 「サッパリ行きたい時はこれ!」
ベース:ごま油、精製塩、粗挽き黒胡椒。
具材:みじん切り長ネギ(山盛り)、玉ねぎのみじん切り(水にさらして辛味抜き)。
酸味:レモン果汁をたっぷりと。 「Wネギのシャキシャキ感! 脂っこい肉も無限に食える永久機関!」
4. 激辛:マグマだれ(激辛マニア向け) 「刺激を求める奴へ!」
ベース:醤油ダレ。
辛味:粉唐辛子、特製ラー油、ハバネロ(品種改良種)。 「痛い! でも美味い! 毛穴が開く快感!」
【プロジェクト:ルメリナ飲食チェーン計画】
タレは完成した。食材もある。 あとは「食わせる場所」だ。
「現在、我が国の人口は3万2千人。対して、飲食店はほぼゼロ(配給のみ)。……これでは経済が回らない」
直人はベルンの都市計画図を広げ、赤いペンで無数に丸をつけた。
「街を改造する。……目標、**『飲食店 2,000店舗』**の同時オープンだ」
「に、2,000!? 人口15人に1店舗だぞ!? 多すぎるのではないか!?」 エレナが悲鳴を上げるが、直人は涼しい顔だ。
「いいや、足りないくらいだ。我が国の国民は全員、俺のスキルで胃袋が強化されている。……総員、建築開始!」
1. 魔法建築 2,400人の工兵団が動く。 **≪地属性魔法≫で石材を隆起させ、≪木工魔法≫**でエルダー・トレント材を加工。 一晩のうちに、大通りから路地裏まで、びっしりと店舗が立ち並んだ。
大衆焼肉店:各ブロックに配置。各席に「無煙ロースター(風魔法吸引)」完備。
ラーメン屋:赤提灯が揺れるカウンター店。
定食屋:豚汁とハンバーグ、生姜焼きがメイン。
居酒屋:焼き鳥と唐揚げ、そして酒。
イタリアン&カフェ:パスタとスイーツ、おしゃれなテラス席。
2. スタッフ教育(マニュアル化) 直人は、農作業に向かない老人や、手先の器用な女性たち数千人を集めた。 **≪教育 Lv.165≫**発動。 「いらっしゃいませ!」「喜んで!」 接客マニュアルと、各料理の調理法を脳内に直接インストール。 素人が一瞬で「熟練のバイトリーダー」へと変貌する。
【グランドオープン:飽食都市の誕生】
夕刻。 ベルンの街に、魔法灯(ネオン代わり)が一斉に灯った。
「「「いらっしゃいませぇぇぇーーッ!!!」」」
2,000店舗が一斉に開店。 街中に、肉を焼く煙、スープの香り、ニンニクの刺激臭、そしてタレの焦げる甘い匂いが充満した。
「焼肉だ! 今日は『味噌ダレ』でホルモンを攻めるぞ!」 「いや、俺は『秘伝ダレ』でカルビだ! 玉ねぎたっぷりのタレをご飯に乗せるのが最高なんだ!」 「シメは隣の店でラーメンだ!」
3万人の市民が、労働で稼いだ金貨を握りしめ、店へと雪崩れ込む。 好景気。圧倒的な消費活動。
直人とエレナは、王城(旧領主館)のバルコニーから、光り輝く街を見下ろしていた。
直人は、七輪で焼いたカルビを、たっぷりと**『秘伝・オニオン醤油ダレ』**にくぐらせた。 ドロリとした玉ねぎの粒が肉に絡みついている。
「食ってみろ、エレナ。これが『玉ねぎ』の仕事だ」
エレナがパクリと口に入れる。
「……んぐッ!? ……ふぁぁぁ!」
エレナの表情が崩壊した。
「あ、甘い!? 砂糖の甘さじゃない、野菜の深みのある甘さだ! それが肉の脂と溶け合って……それに、肉が異常に柔らかい!?」
「すりおろし玉ねぎの酵素が肉を分解して柔らかくしてるんだ。そして加熱された玉ねぎの香ばしさ……これだけで白米が消えるだろ?」
「消える! 米泥棒だ! 許せん、もっと焼いてくれ!」
エレナは王族の品位をかなぐり捨て、タレをたっぷりつけた肉で白米をかきこんだ。
「食は文化だ、エレナ。そして文化こそが、国を豊かにする」
直人はビールをあおり、煌めく街を見下ろして笑った。
「国内はこれで完成だ。2,000の店が競い合い、味はさらに進化するだろう。……さあ、あとは外交団が『外貨』と『移民』を運んでくるのを待つだけだ」
新生ルメリナ公国。 そこは、入国したが最後、二度と出てこられないと言われる、大陸最強の**「飽食のダンジョン(国)」**となっていた。
【ステータス更新】
【新生ルメリナ公国】
【施設】 飲食店 2,000店舗(焼肉、ラーメン、洋食、居酒屋 etc.)
【特産品追加】
秘伝・オニオン焼肉のタレ:瓶詰めにして輸出予定。一本で家庭の味がプロの味に。
【経済】 超・内需拡大(金が国内で高速回転中)。
【ナオト・カジヤ】
【新規習得スキル】
≪フードコンサルタント Lv.130≫:繁盛店を作り出す経営手腕。
≪タレの錬金術師 Lv.110≫:素材の黄金比を一瞬で見抜く。玉ねぎのポテンシャルを100%引き出す。
【外交団】
【装備】 アイテムボックス(中・時間停止付):各隊長に配備完了。兵站の問題が消滅。
【ルメリナ公国の夜明けと、迫り来る影】
飲食店の明かりが消え、飽食の宴が静まると、ルメリナ公国は静寂に包まれた。しかし、その静けさは、かつての死んだような沈黙とは異なり、明日への活力に満ちた、心地よい眠りの吐息であった。
城壁の上で、直人は夜風に当たりながら、遠くを見つめていた。彼の視線の先には、広大な大地と、その向こうに広がる未知の世界があった。
「……始まったな」
独り言のように呟く直人の横に、音もなくエレナが並んだ。
「何がだ?」
「俺たちの『侵略』だよ。胃袋を掴み、経済を回し、文化で侵食する。血を流さず、笑顔で世界を塗り替える。……ある意味、剣で征服するよりもタチが悪いかもな」
直人は自嘲気味に笑った。しかし、その瞳には強い光が宿っていた。
「私は構わんぞ」
エレナは真っ直ぐに直人を見つめ返した。
「民が飢えず、笑顔で暮らせるなら、それがどんな手段であろうと、私は『王』として肯定する。それに……貴様の作る国は、存外悪くない」
「そう言ってもらえると助かるよ」
二人は並んで夜空を見上げた。満点の星空の下、ルメリナ公国は、まるで巨大な心臓のように、力強く脈動していた。
しかし、彼らはまだ知らなかった。 この急速な発展と、規格外の豊かさが、周辺諸国の権力者たちだけでなく、大陸の覇権を争う『帝国』や、北の『魔王軍』の監視網にも、既に引っかかっていることを。
美味しい匂いは、時に腹を空かせた猛獣をも呼び寄せる。 ルメリナ公国の本当の戦いは、まだ始まったばかりだったのだ。
飽食の包囲網
外交使節団を大陸全土へ放ってから数ヶ月。 新生ルメリナ公国は、かつてない繁栄の時を迎えていた。
「報告します! 第二営業部(対ドワーフ)のガレスより入電! 『芋焼酎のあてがい過ぎで鉱山王が泥酔、ミスリル鉱山の独占採掘権ゲットだぜ』とのことです!」 「第三営業部(対エルフ)のハンスより! 『新作ショートケーキの効果絶大。長老会が砂糖中毒になり、秘伝の霊薬レシピと交換条件で追加発注を懇願してきました』!」
執務室には、連日嬉しい悲鳴のような報告が飛び交っていた。 直人が仕掛けた「飯テロ外交」は、予想以上の速度で周辺諸国を浸食していた。剣を交えることなく、経済と文化で他国をルメリナのサプライチェーンに組み込んでいく。
「……順調すぎて怖いくらいだな」
エレナが大量の契約書(という名の属国化同意書)に印鑑を押しながら呟く。
「ああ。だが、一番の大物がまだ食いついていない」
直人は地図の北側、大陸最大の版図を誇る『グランバニア帝国』を指で叩いた。 第一営業部のレイモンドが向かった先だ。
その時、直人の持つ通信用魔道具が光った。レイモンドからの緊急連絡だ。
『ボス、緊急事態です。……帝国皇帝が、我が国の食材を「麻薬の類ではないか」と疑い、公式な査察団を寄越すと通達してきました』
「査察団?」
『ええ。名目は調査ですが、構成員は帝国最強の「黒騎士団」と「宮廷魔導師団」。……明らかに、我が国の生産技術を武力で接収しに来るつもりです』
エレナの表情が険しくなる。 「言いがかりをつけて攻め込む気か。帝国の常套手段だ」
だが、直人はニヤリと笑った。
「面白い。向こうから来てくれるなら手間が省ける。……おい、総員に通達だ!」
直人は椅子から立ち上がり、不敵に宣言した。
「帝国の査察団を、国賓級の**『おもてなし』**で迎え撃つぞ。……奴らが二度と剣を握る気になれないほど、贅沢とカロリーで脳髄まで溶かしてやれ」
ルメリナ公国vs帝国。 血を流さない、しかし残酷なほど一方的な「飽食防衛戦」の幕が上がろうとしていた。
数日後、帝国の威信を背負った査察団がルメリナ公国の国境に到着した。 先頭を行くのは、帝国最強と謳われる『黒騎士団』の団長、ヴォルフガング。全身を漆黒の魔導鎧で固めた彼は、眼光鋭くルメリナの城壁を睨みつけた。
「ふん、ここが噂の成り上がり国家か。……毒入りの酒で他国を誑かしているという話だが、我らには通じぬぞ」
彼の背後には、同じく殺気立った精鋭騎士500名と、魔導師団が控えている。彼らの任務は「調査」という名の「弱点探査」と「威圧」。隙あらば即座に制圧する手筈だ。
城門が開く。 そこには武装した兵士ではなく、真っ白なコックコートを着た一団(元・ザリア兵)が整列していた。そして中央には、不敵な笑みを浮かべた直人が立っている。
「ようこそ、遠路はるばるご苦労さん。腹、減ってるだろ?」
「貴様が指導者か。……我らは遊びに来たのではない。直ちに貴国の物資保管庫を――」
「まあまあ、仕事の話は飯の後だ。……ほら、ウェルカムドリンクだ」
直人が指を鳴らすと、部下たちが巨大な樽の栓を開けた。 プシュッ! という音と共に、琥珀色の液体が泡立ち、冷気と共に芳醇な香りが漂う。
「キンキンに冷えた**『プレミアム・ラガービール』**だ。一杯どうだ?」
「バカにするな! 任務中に酒など……」
ヴォルフガングが怒鳴ろうとした瞬間、彼の鼻腔を強烈な匂いが襲撃した。 直人の背後で、ジュウウウウッ! と盛大な音を立てて焼き上がった**『厚切りサーロインステーキ(特製オニオンソースがけ)』**の香りだ。
「……ッ!?」
鋼鉄の理性を誇るはずの黒騎士団の腹が、一斉に「グゥゥゥゥッ!」と盛大な合唱を奏でた。 直人はニヤリと笑い、肉汁滴るステーキを差し出した。
「さあ、戦争(交渉)の前に……まずは『燃料補給』といこうか?」
帝国最強の騎士団が、食欲という本能の前に膝を屈するまで、あと数秒。
「な……なんだ、この暴力的なまでの香りは……!」
ヴォルフガングの喉が、意思に反してゴクリと鳴った。 目の前に差し出されたステーキは、網の目で焼き目がつき、溢れ出る透明な脂とオニオンソースが混ざり合い、鉄板の上でジュウジュウと音を立てている。
「貴殿らは長旅で疲れているはずだ。戦場でも腹が減っては戦えまい?」
直人は悪魔の如き笑顔で、さらに追い打ちをかけた。
「ああ、もちろん『つまみ』だけじゃない。……おい、あれを持ってこい!」
直人の合図で、コックたちが巨大なワゴンを運んできた。 そこには、黄金色に輝く**『特製ガーリックチャーハン(大盛り)』と、湯気を立てる『豚汁』、そして山盛りの『フライドポテト(揚げたて)』**が鎮座している。
「スタミナ、塩分、そして圧倒的なカロリー! ……これぞルメリナ流の『歓迎の儀』だ!」
「くっ……! 罠だ! 団長、これは明らかに我々の戦意を削ぐための……!」
副官が叫ぶが、その視線はフライドポテトに釘付けだ。 帝国のレーション(携帯食)といえば、硬い干し肉と酸っぱいパンのみ。 対して目の前にあるのは、脂と糖と炭水化物の奔流。
「……ええい、ままよ!」
ついに一人の騎士が耐えきれず、フォークを伸ばした。 ステーキを一口。
「――ッ!!!」
彼は膝から崩れ落ちた。
「柔らかい……! 噛む必要がないほど柔らかい! そしてこのタレ! 玉ねぎの甘みが肉の脂を包み込んで……口の中が楽園だ!」
それを皮切りに、黒騎士団の鉄の規律が崩壊した。 「ビールだ! この脂っこい肉にはビールが必要だ!」 「チャーハンうめぇ! ニンニクが脳に効くぅぅ!」
ヴォルフガングもまた、震える手でジョッキを掴んでいた。 「……悔しいが、完敗だ。我々の負けだ……」
帝国の誇る最強部隊は、剣を抜くことさえなく、ルメリナの「おもてなし」によって完全に制圧されたのであった。
【完全なる陥落と、甘い追撃】
数時間後。 そこはもはや戦場でも査察会場でもなく、ただの巨大な宴会場と化していた。
「ガハハハ! おかわりだ! この『ハイボール』という酒を持ってこい!」
かつて鬼将軍と恐れられたヴォルフガングが、兜を脱ぎ捨て、顔を真っ赤にしてジョッキを掲げている。彼の周囲では、部下の騎士たちがベルトを緩め、幸福そうな顔で腹をさすっていた。
「団長、もう食えません……。でも、この『杏仁豆腐』という白いプルプルは別腹です……」 「土産にこの『ジャーキー(干し肉)』を買って帰りたい! 家族に食わせたい!」
帝国最強の騎士団は、完全にルメリナのファンクラブと化していた。
「……信じられん。あの黒騎士団が、ただの酔っ払い親父になるとは」 城壁の上で、エレナが呆れ半分、感心半分で呟く。
「人は満腹になると、怒る気力を失うものさ」 直人は満足げに頷いた。
「さて、仕上げだ。……彼らに『お土産』を持たせろ。最高級のウィスキーと、この宴の記憶だ。……そして、請求書(友好条約書)もな」
翌日、千鳥足で帰還した査察団は、皇帝に対し「ルメリナ公国は、帝国にとって不可欠な友好国(食料庫)である」と熱烈に報告したという。
こうして、帝国との戦争は回避され、代わりに太いパイプ(物流ルート)が開通した。 ルメリナ公国の「飯テロ外交」は、大陸最強の軍事国家さえも飲み込んだのである。
【第二章:帰還、そして皇帝の誤算】
翌朝。 ルメリナ公国の城門前には、昨日の殺気だった姿とは似ても似つかない、どこか憑き物が落ちたような顔の帝国騎士団が整列していた。 彼らの手には剣ではなく、直人が持たせた**「お土産セット(二日酔い防止薬付き)」**が握られている。
「……世話になったな、ナオト殿。この礼は必ずする」
ヴォルフガング団長が、少し恥ずかしそうに、しかし力強く直人の手を握った。 その荷台には、最高級ウィスキー「ルメリナ20年」の樽と、大量のジャーキー、そして直人が徹夜で書き上げた**『通商条約案』**が積まれている。
「また来てくださいよ。うちはいつでも『歓迎』しますから」 直人が笑顔で見送ると、最強の騎士団は何度も振り返りながら去っていった。
数日後、帝都グランバニア。 皇帝の元に帰還したヴォルフガングは、直人の目論見通り、ルメリナを「危険な敵」としてではなく、「帝国に不可欠な食料庫」として報告した。
「陛下、あそこを攻め滅ぼせば、二度とあの『神の酒』は飲めなくなります。……生かして、貢がせるべきかと」
そして献上された**『特製ハンバーグ弁当(冷めても美味い魔法付)』**を口にした瞬間、皇帝の理知的な瞳がカッ!と見開かれた。
「……余は決めた。ルメリナ公国を『最優先同盟国』と認定する。直ちに使いを出せ! 追加のハンバーグ……いや、条約の締結だ!」
こうして、血を一滴も流すことなく、ルメリナ公国は大陸最大の軍事国家を「胃袋」で従属させることに成功したのである。
ルメリナ=グランバニア通商修好条約(草案)
【前文】 新生ルメリナ公国(以下「甲」という)とグランバニア帝国(以下「乙」という)は、両国の恒久的な平和と繁栄、および「食」を通じた文化的相互理解を深めるため、以下の通り条約を締結する。
第1条(平和友好) 甲と乙は、互いの領土と主権を尊重し、今後一切の武力行使および敵対行為を行わないことを誓約する。 乙は、甲を「永世中立・食料生産特区」として承認し、他国からの侵略に対し、帝国軍をもってこれを保護する義務を負う。
第2条(食料および酒類の優先供給) 甲は乙に対し、以下の品目を「最恵国待遇」にて優先的に輸出する。
ルメリナ産米(特Aランク)
純米大吟醸「直人」および各種蒸留酒
魔導食肉加工品(ハンバーグ、ソーセージ等)
調味料セット(醤油、味噌、マヨネーズ等)
ただし、供給量は甲の生産状況に基づき、甲が決定権を持つものとする。
第3条(関税および通貨) 乙は、甲からの輸入品に対し、関税を**「免除(0%)」**とする。 また、決済は甲の指定する通貨、または同等の価値を持つ貴金属(金・ミスリル)、魔石にて行われるものとする。
第4条(技術供与の禁止) 乙は、甲の有する農業技術、魔導具製造技術(特に食品加工機械)、および調味料のレシピについて、一切の解析・模倣・盗用を行ってはならない。 これに違反した場合、甲は直ちに第2条の供給を停止する権利を有する。 (※通称:ハンバーグ禁輸措置)
第5条(外交特権) 乙の帝都内に「ルメリナ公国・直営アンテナショップ」の開設を許可し、同施設には治外法権を与える。 また、乙の皇帝および高位貴族は、定期的に甲を訪問し、新メニューの試食会に参加する権利(義務)を有する。
【附則】 本条約は、乙の皇帝が「特製ハンバーグ弁当」を完食した時点をもって発効するものとする。
署名
新生ルメリナ公国 代表 女王 エレナ・フォースター 行政官 ナオト・カジヤ
グランバニア帝国 代表 皇帝 [署名欄]
【ルメリナ旋風と、次なる来訪者】
帝国との条約締結から一ヶ月。 その衝撃は、物理的な戦争よりも早く、深く大陸全土を揺るがしていた。
帝都の一等地にオープンした**『ルメリナ公国直営アンテナショップ』**は、連日暴動寸前の大盛況となっていた。 「並べ! ハンバーグ弁当は限定500食だぞ!」 「酒だ! 『直人』の入荷はあるのか!?」 貴族も平民も入り乱れ、ルメリナの食を求めて長蛇の列を作る。その光景は、ルメリナが帝国の胃袋を完全に掌握した証左であった。
一方、本国ルメリナでは。 直人は執務室で、次々と届く外交文書をさばいていた。
「ボス、報告です! 第二営業部のガレスより、ドワーフの『鉄鋼王国』から正式な使節団が向かっているとのこと!」 「理由は?」 「『噂の激辛酒(芋焼酎)と揚げ物をよこせ。さもなくばトンネルを掘って国ごと盗みに行く』だそうです」




