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ボイジャーの喜劇 ノイズの発見  作者: 御園しれどし


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第1幕:論理と真実の危機(音声言語の衝撃)

4. 物理学の解読


解析室は、シンクロニア星の最高知性を結集させた場所だった。黄金の円盤は中央に固定され、高精度レーザーがその溝をスキャンし始めた。


最初の数時間、作業は滞りなく進んだ。円盤に刻まれた水素原子の超微細構造遷移の図、パルサーマップ、そして基本的な数学的図形。


レオンは、これらの普遍的な情報が解読されるにつれて、内面で静かに優越感を抱いた。《やはり、この異星人は我々と同じ物理法則に従う。基本的な論理の枠組みは理解できる。》


しかし、エコーが解析結果を集合意識に提示したとき、ケイロンは冷徹に反論した。


《自明の理だ。基本的な物理学の伝達は、彼らの知性の証明ではない。彼らが何を隠蔽しようとしているかを見ろ。》



5. 「非効率な音」の発見


続いて、円盤に隠されていた画像情報がデコードされた。人間の姿、DNAの構造、地球の風景。そして、それらに付随する、不可解な信号群があった。レオンは、この信号が画像と同期していることに気づいた。


《画像内の生命体は、口腔器官からこの信号を発しています。これは、テレパシーではなく、物理的な振動を用いたコミュニケーション手段であると推測されます。》 レオンは報告した。


解析装置が、信号の波形を視覚的に再現した。それは規則正しいパターンの連続ではあったが、ゼラニアの集合意識が使用する洗練されたデータパケットとは比較にならないほど、情報密度が低く、非効率的だった。


長老ニューロが、テレパシーで直接質問した。


《レオン、なぜ彼らはより効率的なテレパシーを用いないのだ? 思考を音に変換し、それを空気中という不安定な媒体で送り出し、再び受信側の聴覚器官で脳に変換するのか? エネルギーの多大な浪費ではないか。》


《理解不能です。論理的な説明ができません。しかし、この信号は「挨拶」であると特定されました。彼らは、互いの存在を認識した際に、この非効率的な音を交換するようです。》



6. 嘘のパラドックス


レオンとエコーは、世界55言語で録音された挨拶のデータ群の解析を進めた。ゼラニア文明の解析装置は、外部の音声信号だけでなく、録音された音源の発話者がテレパシーで内面で発していたであろう感情信号を、その音の微細な振動パターンから逆算しようと試みた。


最初に解析されたのは、ある男性の挨拶だった。


外部音声信号: 「Hello, how are you?」(元気ですか?)


内面感情信号(逆算結果): 《ああ、今日の作業は骨が折れる。疲労度は基準値の20%増しだ。早くノードに戻りたい。》


この結果がシステムに送られた瞬間、解析室全体を覆うように、グランド・フィルターの誤作動を知らせる甲高い警告音が鳴り響いた。ゼラニア人にとって、何千年も聞いたことのない、物理的な「ノイズ」だった。


【エラーコード:パラドックス検出 - 信号値の不一致】


【論理矛盾:表面的なデータは肯定(元気だ)を示すが、内面的なデータは否定(疲れている)を示す。このメッセージの真実性はゼロではないが、100%でもない。システムは適切な感情カテゴリーを割り当てることができません。】


レオンは、頭部の処理器官が過熱するのを感じた。これは、彼が知る限り、宇宙の法則に反する出来事だった。真実は常に一つであり、感情と事実は一致しなければならない。しかし、人類は、感情を隠蔽しながら、別の感情を音で伝えるという、彼らの文明を根底から揺るがす行為を行っていた。


レオンの思考が停止した。彼のテレパシーは、完全に無音となった。



7. 倫理の壁の出現


解析室のパニックの中、歴史・社会学研究員のケイロンの思考だけが、冷徹な論理を保っていた。彼は、この危機的状況を予測していた。


《見たまえ、長老。彼らは嘘をつく能力を持っている。これは、我々が「透明性の危機」を乗り越えるために排除した、最も危険な要素だ。彼らのコミュニケーションは、常に潜在的な悪意を内包している。》


ケイロンの思考が、長老ニューロと集合意識に突き刺さった。


《この異星の文明は、我々の存在そのものに対する脅威である。彼らの持つ「音声言語」は、感情を歪曲し、真実を隠すための防護壁だ。この円盤には、我々の社会の調和を破綻させる情報が含まれている。直ちに解析装置を停止させ、レコードを溶融処分することを強く推奨する。》


長老ニューロは、解析室のノイズ(警告音)と、ケイロンのテレパシー(論理的な警告)を静かに受け止めた。彼は、まだ何も答えていない。

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