序章:静寂の時代
1. 完璧な退屈
シンクロニア星は、調和と効率性の頂点にある文明だった。街には物理的な騒音がなく、人々は感情を遮断する「グランド・フィルター」によって、思考を効率的なデータパケットとして集合意識と交換していた。
ここでは、無駄な摩擦も、熱狂的な喜びも、感情的な誤解も、そして音楽も存在しなかった。中央ノードに位置する会議室で、長老ニューロは静かに座っていた。
彼は数千年にわたる文明の調和を保ってきた最高責任者であり、その思考は全構成員にとって絶対的な指針だった。しかし、彼の内面で発せられた無声のメッセージは、フィルタリングされることなく、集合意識に流れた。
《退屈だ。完璧な平和とは、これほどまでに退屈なものなのか。》周囲の研究者たちは、その信号を受信したものの、彼らのテレパシーはそれを「老いた指導者の処理プロセスのノイズ」として無感情に分類し、無視した。
その日、娯楽ノードでは、最高の精神スポーツ「シンクロ・マインド・レース」が開催されていた。何百人ものゼラニア人が接続し、複雑な次元物理モデルを同時に、ナノ秒単位の誤差で計算し合う。観客は、その思考の優雅な流れを視覚化された光のパターンとして眺めていた。
《ああ、またレオンが勝った。論理的帰結だ。予測可能すぎる。》 長老ニューロは、心の中で(そして全構成員に)呟いた。
2. 予測不能な発見
一方、文明の端、外宇宙探査部門の薄暗いノードでは、主任研究員のレオンと、その同僚で若手のエコーがモニターを睨んでいた。
レオンは、予測不能な「ノイズの時代」の記録に密かに惹かれるという、ゼラニア人としては珍しい感情的な偏りを持っていた。
彼は、宇宙にはまだ「論理的帰結」では説明できない何かがあると信じたがっていた。
「エコー、何だこれは?」
レオンがテレパシーで問いかけた。その思考には、わずかながら、興奮――グランド・フィルターが誤って『好奇心』として通過させた感情――が混ざっていた。
エコーの前に映し出されていたのは、深宇宙空間を漂う、古びた、奇妙な構造物だった。探査船が数十年かけて回収した、星間空間の遺物である。
《分析結果:この物体は、既知のいかなる技術様式とも合致しません。表面の設計、材質、推進システム、すべてが極めて非効率的です。エネルギー源は完全に枯渇しています。》
「非効率的だと? 誰がこんな無駄なものを作った?」
レオンが苛立ちを隠さずに尋ねた。
エコーは、他のゼラニア人が無視するはずの、探査機の表面に刻まれた古い記号や、異質な輝きを放つ円盤に目を奪われていた。
《主任。これは、ただの遺物ではありません。これは……メッセージです。そして、これは貴金属でできています。金です。》
3. 黄金の円盤
レオンは金(Au)の分析結果を見て鼻を鳴らした。
《金だと? 最も電導性が高く、しかし構造的安定性が低い、装飾的な金属か。原始的で無駄だ。これをわざわざ遠い宇宙に送り出すなど、非合理性の極みだ。》
間もなく、歴史・社会学研究員のケイロンがテレパシーで割り込んできた。彼は、過去の「透明性の危機」に関する権威であり、いかなる予測不能な要素も排除することを至上命令としていた。
《長老ニューロに報告する前に、内容を徹底的に精査すべきだ、レオン。この物体は、ノイズの時代の思想を継承している可能性がある。非効率な技術は、非効率な精神の現れだ。直ちに隔離し、破壊することを推奨する。》
ケイロンの思考は、グランド・フィルターによって『平和維持のための論理的な警告』として処理されたため、長老ニューロを含む全員にすぐに伝わった。しかし、長老ニューロはケイロンの意見に静かに反論した。
《ケイロンよ。平和は維持されている。そして私は退屈している。君の論理は正しいが、予測可能な論理は私の興味を引かない。レオン、エコー。その黄金の円盤から、何を学び取れるか、見せてみよ。もしそれが退屈な論理であれば、その時こそ破壊すればよい。》
長老の無感情な好奇心という、シンクロニア星における最も稀有な動機が、運命の円盤の解析を決定づけた。解析室に、黄金の円盤が運び込まれた。
その異質な光沢は、静寂のシンクロニア星に、これから訪れることになる大混乱の予兆のように、きらめいていた。




