クロウ救出
瓦礫の向こうで、
ゼノンの足音が、再び“意味”を取り戻した。
速い。
正確。
そして、止まらない。
俺は、クロウの腕を掴んだまま、
最後の曲がり角へ飛び込む。
「……ここだ!」
グラムが、
壁の継ぎ目に手を当てた。
見た目は、
ただの補修跡。
だが、
ここは――
“グラムだけが知っている逃げ道”。
「三、二――」
カウントの“一”を待たず、
俺とクロウは同時に前へ滑り込んだ。
次の瞬間、
背後で、
金属と結界が同時に砕ける音。
「……ゼノンが、
“力で”抉じ開けた!」
グラムが歯を食いしばる。
本来なら、
結界と鋼鉄の二重構造。
それを、
**“嗅ぎ当てて、壊す”**のが、
あの男だ。
狭い通路。
息が詰まるほど低い天井。
それでも――
ここは、ゼノンでも即座に追えない。
俺たちは、
いくつもの分岐を抜け、
ようやく、
最奥の陰へと転がり込んだ。
しばらく、
誰も言葉を発せない。
呼吸音と、
自分の心臓の音だけが、
耳を叩く。
「……助かった、のか」
最初に声を出したのは、
クロウだった。
かすれているが、
その声は、
確かに“生きている人間”のものだ。
俺は、
膝に手をつき、
大きく息を吐いた。
「……ああ。
今は、な」
クロウは、
一瞬だけ目を閉じ、
それから、静かに言った。
「アルス。
お前、
わざわざ、
こんな危ない真似をする必要は、
なかったんだ」
「ある」
俺は、即答した。
「お前がいないまま外に出ても、
それは――
“成功”とは呼べない」
クロウは、
ほんのわずかに、
口元を緩めた。
「……甘いな」
「知ってる」
グラムが、
乱暴に割って入る。
「無事なら、それでいいだろ。
説教は、外に出てからにしろ」
その言葉に、
クロウは、
小さく息を吐いた。
だが――
次の瞬間、
俺の超解析が、
“嫌な確定”をはじき出した。
【脱獄ルート:主通路】
【状態:使用不能】
【原因:崩落】
【復旧:不可能】
頭の中で、
数字が、
冷たく並ぶ。
「……一本、潰れた」
俺がそう告げると、
グラムが、
すぐに理解した。
「さっきの崩落か」
「そうだ。
あれで、
いちばん安全な脱獄ルートが、完全に塞がれた」
クロウは、
状況を飲み込んだのか、
静かに問いかける。
「……つまり?」
俺は、
新型腕輪の重さを、
はっきりと感じながら答えた。
「ここから先は、
“生きて外に出られる保証がない”ルートだけになる」
沈黙が落ちた。
だが、
後悔の色は、
誰の顔にも浮かばなかった。
クロウは、
しばらく考え――
それから、
はっきりと言った。
「……なら、
俺が最後尾に回る」
「無茶だ」
グラムが、
即座に否定する。
クロウは、
首を横に振った。
「もう一度捕まれば、
俺は、次は確実に“処分”される」
「だが、
今は違う」
「今の俺は、
“捕まえに来る価値のある獲物”じゃない」
その言葉に、
俺は、
何も言えなかった。
正しい。
あまりにも、正しい。
グラムが、
歯を噛みしめたまま、
背を向ける。
「……勝手に死ぬなよ」
「努力はする」
クロウは、
淡々と答えた。
そのとき――
遠くで、
結界が、
完全に破壊される音が響いた。
ゼノンが、
もう一つ、
壁を越えた。
俺は、
目を閉じ――
そして、
歪んだ未来の中から、
次の“進むべき一手”を拾い上げる。
クロウは、救った。
だが、
その代償として、
俺たちは“安全な逃げ道”を、
完全に失った。
ここから先は、
逃走ではない。
“生存競争”だ。クロウ救出




