処分塔突入
警報の余韻が、まだ監獄の奥に残っていた。
リオルが捕まった区画とは、反対側。
俺とグラム、そしてクロウを救いに向かう“本隊”は、
最短の影を選んで、処分塔へと向かっていた。
「……今のところ、追跡反応なし」
俺は小さく呟く。
だがその言葉に、確信はなかった。
新型腕輪のせいで、
未来は必ず、どこかが歪む。
【敵遭遇まで:三十秒】
【敵遭遇まで:即時】
【敵遭遇まで:不明】
同時に浮かぶ、三つの答え。
「……どれだよ」
歯を食いしばりながら、
俺は“最悪”を前提に進む。
グラムが、先行して鉄扉の前で止まった。
「処分塔・地下搬送口だ」
分厚い鋼鉄。
結界の層、二重。
正面突破は不可能。
だからこそ――
「ここは、俺の仕事だな」
グラムが、小さな装置を床に設置する。
ガリ、という低い音と共に、
結界の流れが、ほんの一瞬だけ、乱れた。
俺は即座に告げる。
「……今だ。開く」
グラムが扉を押し、
ほんのわずかな隙間が生まれる。
俺たちは、影のように滑り込んだ。
内部は、細長い搬送通路。
左右には、魔力拘束用のレール。
その奥に、淡く光る円形の部屋が見える。
――処分塔の入口。
「クロウは、
あの奥の待機房にいるはずだ」
俺の言葉に、
グラムが無言で頷いた。
その瞬間。
【警戒反応:上昇】
【増援到達:四十五秒】
【脱出成功率:不明】
嫌な予測が、頭を叩く。
「来る」
俺が言うより早く、
通路の両端から、看守が飛び出した。
「侵入者だ!」
警棒が振り下ろされる。
グラムが真正面から受け止め、
鉄と鉄が激しくぶつかり合う。
俺は、
“当たるかもしれない”未来だけを拾い、
その場を駆け抜けた。
胸が、嫌な音を立てる。
次の瞬間、
足元を魔力弾がかすめた。
「……ッ!」
予測より、半拍、早い。
やはり――
ズレている。
だが、
ズレたからこそ、
逆に、当たらなかった。
俺は転がるように前へ出て、
待機房の扉へと手をかけた。
「クロウッ!」
中は、暗い。
拘束椅子に、影が一つ。
「……遅かったな」
かすれた声。
だが、間違いなく――クロウだ。
「生きてるなら、十分だ!」
拘束を外す。
その瞬間、
クロウの目が、わずかに見開かれた。
「……アルス。
外は――」
「話は後だ。今は走れ!」
クロウは、一瞬だけ、
床の血痕に視線を落とし――
何も言わず、立ち上がった。
その直後。
通路の奥で、
“空気の重み”が変わった。
【最悪確定】
という言葉だけが、頭に浮かぶ。
ゼノンだ。
まだ見えない。
だが、
“来ている”と、
新型腕輪が、歪んだ形で告げてくる。
「……まずいな」
グラムが、奥歯を噛みしめる。
俺は、
クロウの肩を支えながら、
出口の方角を指差した。
「ここから先は、
本気の脱獄戦になる」
警報が、
さらに一段階、音量を上げた。
処分塔突入は、成功した。
だが――
ここから先は、
救出でも脱獄でもない。
“狩り”の中を走る逃走戦が、
始まっただけだ。
処分塔突入




