表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『超解析の賢者は、難攻不落の鋼鉄の檻(アイゼン・ケージ)で自由を計算する』  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/30

歪んだ再計算

その夜、

 房の闇は、いつもより重く感じられた。


 クロウの名前。

 処分リスト。

 残り、三日。


 その三つの言葉が、

 頭の中で、何度も反響する。


 俺は、寝台の縁に腰を下ろし、

 新型の腕輪を見つめた。


 黒い金属。

 外見は、以前とほとんど変わらない。


 だが――

 中身は、完全に別物だ。


 超解析を、回す。


 地下から処分塔までの最短距離。

 巡回の隙間。

 結界の干渉角度。


 数字が、浮かぶ。


 だが、

 必ず、その横に“別の数字”が並ぶ。


 【成功率:六五%】

 【成功率:一九%】

 【成功率:七九%】


 どれもが、

 “本物らしい顔”をしている。


 「……ふざけるな」


 低く呟いた瞬間、

 頭の奥で、

 ぎぃ、と嫌な音が鳴った。


 考えるほど、

 壊されていく。


 それでも――

 考えない、という選択肢だけは、

  最初から存在していない。


 小さな音がした。

 配管の向こう側。


 影が、ひとつ、滑り込んでくる。


 リオルだ。


 「いやあ……

  顔、ひっどいね」


 軽口は、

 いつもと同じ。


 だが、

 俺の前に座り込んだ瞬間、

 その声から、

 ほんの少しだけ、冗談の色が抜けた。


 「……再計算、してる顔だ」


 「してるさ」


 俺は、正直に答えた。


 「だが、もう“完璧”は出ない」


 リオルは、

 小さく鼻で笑う。


 「だったらさ、

  最初から“外れる前提”で組めばいい」


 「……前は、

  外れない前提だった」


 「知ってる」


 リオルは、

 床に手をついて、

 少しだけ前に乗り出した。


 「でも今は違う。

  君の計算は“神様”じゃなくなった」


 「……言い方がひどいな」


 「褒めてるんだよ」


 俺は、

 顔を上げた。


 「どういう意味だ」


 リオルは、

 楽しそうに肩をすくめた。


 「人間らしくなった、って意味」


 その言葉に、

 なぜか、胸の奥が、少しだけ軽くなった。


 「外れるなら、

  外れる“余白”を作ればいい」


 「二重、三重に罠を張って、

  どれか一つが当たればいい」


 「……確率を、

  “積み重ねる”ってわけか」


 「そうそう」


 リオルは、

 指を鳴らした。


 「君は、

  一撃必中の狙撃手じゃなくなった」


 「でも代わりに、

  外れても外れても、

  次が出せるギャンブラーになった」


 その例えは、

 妙にしっくりきた。


 俺は、

 新型腕輪に縛られたまま、

 もう一度、未来を覗く。


 助かる未来。

 失敗する未来。

 死ぬ未来。


 どれもが、

 同時に、確からしく存在している。


 だが――

 その“全部”の中に、

 たった一つだけ、

  クロウが生きて外にいる線が、確かにあった。


 「……この線を、拾う」


 俺がそう言うと、

 リオルは、

 静かに笑った。


 「いいね。

  それが、今の君らしい」


 配管の奥から、

 重い足音が近づいてくる。


 グラムだ。


 「……状況は?」


 低い声。


 俺は、

 はっきりと答えた。


 「完璧じゃない」


 「成功率は、

  下手をすれば、半分を切る」


 グラムは、

 短く鼻を鳴らした。


 「上等だ」


 「最初から、

  百パーなんて、信じてねぇ」


 そして、

 俺の腕輪を一瞥する。


 「それで――

  クロウは、助けられるんだな」


 俺は、

 一瞬だけ、迷い――

 それから、頷いた。


 「可能性は、ある」


 グラムは、

 それだけで、十分だと言わんばかりに、

 背を向けた。


 「なら、やるだけだ」


 足音が、遠ざかる。


 房の中に、

 再び、俺とリオルだけが残った。


 「……覚悟、決まった?」


 リオルが、

 軽い声で聞く。


 俺は、

 新型腕輪の重さを感じながら、

 ゆっくりと息を吐いた。


 「決まった」


 もう、

 確率にすがる戦いじゃない。


 誤差を抱え、

 外れる未来を抱えたまま、

 それでも――

 進む戦いだ。


 壊れた計算で、

 歪んだ未来を選び取る。


 それが、

 今の俺のやり方だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ