処分リスト
その知らせは、
朝の雑踏に、紛れるようにして届いた。
作業場へ向かう通路。
囚人たちの足音と鎖の音が重なり合う中、
リオルが、いつもより少しだけ遅れて横に並んだ。
目は合わない。
声も出さない。
ただ――
すれ違いざまに、指が二度、空を叩いた。
合図だ。
昼の休憩。
資材置き場の裏、視線の切れる場所。
リオルは壁にもたれ、
いつもの軽口を叩くような調子で言った。
「いやあ、今日は朝から物騒だね。
朝の見回りで“紙”が回ったらしいよ」
紙。
この監獄でそれが意味するものは、一つしかない。
「……何の紙だ」
俺が低く問うと、
リオルは少しだけ口角を上げた。
「“処分リスト”だよ」
その言葉が、
空気の温度を一気に下げた。
「名前が載った人間は、
一定期間の後、
“消える”」
リオルは軽く肩をすくめる。
「事故死。
暴動死。
病死。
理由はその都度、適当に選ばれるけどね」
俺は、
無意識に、クロウの顔を思い浮かべていた。
「……誰の名前がある」
リオルは、
一瞬だけ、言葉を区切った。
そして、
静かに言った。
「クロウだ」
音が、消えた。
作業場のざわめきも、
鉄の音も、
すべてが遠のく。
「……いつだ」
喉の奥から、
無理やり絞り出した声だった。
「最短で――
三日後」
たった三日。
それは、
余命というには、
あまりにも短すぎた。
俺の頭の中で、
無数の計算が走る。
脱獄までの残り工程。
結界の突破。
巡回の間隔。
新型腕輪の誤差。
だが――
どれも、
“クロウの命の残り時間”に、
間に合う保証がない。
「……クロウは、
自分が“処分”だと知っているのか」
俺がそう聞くと、
リオルは、首を横に振った。
「まだ。
たぶん、本人には伝えてない」
「……伝えない、のか」
「伝えたところで、
あいつは騒がない」
そう言ってから、
リオルは、視線を伏せた。
「むしろ――
予定どおりに“精算”しに行くだけだ」
その言葉で、
すべてが、一本につながった。
クロウの言っていた
“外で精算する”。
それは、
自由を得るという意味じゃない。
**“生きて、終わらせる”**という意味だった。
俺は、
強く、歯を食いしばった。
超解析を回す。
だが――
新型腕輪が、
即座に結果を歪める。
助かる未来。
助からない未来。
成功と失敗が、
同時に並ぶ。
「……くそ」
初めて、
計算が、役に立たないと本気で思った。
そのときだった。
作業場の入口が、
ざわついた。
看守が、二人。
そして――
その後ろに、
見覚えのある影。
ゼノン・グレイブ。
ただ立っているだけなのに、
そこだけ空気が、
重く沈む。
ゼノンは、
囚人たちを一瞥し、
短く命じた。
「……続けろ」
それだけだ。
だが、
誰一人として、
顔を上げられなかった。
ゼノンの視線が、
ほんの一瞬だけ、
俺の腕輪に向いた。
それだけで、
胸の奥が、
嫌な音を立てた。
(……あいつは、
もう“次”を見ている)
クロウは、
処分される。
それは、
決まった未来だ。
だが――
それを、
このまま“受け入れる”かどうかは、
まだ決まっていない。
昼休憩の終わりを告げる鐘が鳴った。
囚人たちが、
無言で持ち場へ戻っていく。
俺も、
その流れに従いながら、
心の中で、
はっきりと決めていた。
脱獄は、
もう“自由”のためじゃない。
クロウを、取り戻す。
それが、
俺の次の答えだった。
処分リスト




