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『超解析の賢者は、難攻不落の鋼鉄の檻(アイゼン・ケージ)で自由を計算する』  作者: 済美 凛


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18/30

再拘束

ゼノンの一歩は、

 俺の計算より、半拍だけ早かった。


 それだけで、

 未来は――

 確定から、崩れた。


 「ッ……!」


 踏み込んでくる。

 一直線。

 迷いも、ためらいもない。


 予測できている。

 動きも、角度も、速度も。


 それでも――

 身体が、追いつかない。


 グラムが、横から飛び出す。


 「アルス、下がれ!」


 金属がぶつかる音。

 警棒と工具が、火花を散らした。


 だが、

 ゼノンは止まらない。


 力で押し切るのではない。

 相手の“重心が戻る瞬間”だけを、

 正確に踏み抜いてくる。


 グラムの身体が、

 横へと吹き飛ばされた。


 「……ッ!」


 リオルが、別方向から仕掛ける。


 足元へ投げ込んだ小さな金属片。

 床に当たって弾け、

 視界を乱すはずだった。


 だが――


 ゼノンは、

 それを“見ない”。


 ただ、

 空気の揺れだけを嗅ぎ、

 最短で、避けた。


 「……本気で、厄介だな」


 リオルの声から、

 ついに“軽さ”が消えた。


 俺は、

 演算を最大まで引き上げる。


 筋肉の収縮。

 関節の角度。

 ゼノンの呼吸のリズム。


 今なら、当てられる。


 ――行ける。


 そう“確定”した瞬間。


 ゼノンの視線が、

 真正面から俺を射抜いた。


 まるで――

 俺の答えを、先に読んでいたかのように。


 次の瞬間、

 衝撃が、胸を貫いた。


 呼吸が、止まる。


 「……ぐッ!」


 床が、

 遠のく。


 俺の身体は、

 一度宙に浮いてから、

 重く叩きつけられた。


 世界が、白く弾ける。


 「賢者」


 視界の端で、

 ゼノンの影が、

 ゆっくりと近づいてくる。


 「“見えている”からといって、

  “届く”とは限らん」


 その言葉は、

 俺の能力そのものを、

 的確に刺していた。


 「知性は速い。

  だが、本能は――

  遅れない」


 ゼノンは、

 俺の両腕を、

 一瞬で床に押さえつけた。


 力ではない。

 完全に“位置”を奪う動き。


 逃げ道が、消える。


 「……アルス!」


 グラムの声が聞こえる。

 だが、もう遅い。


 「拘束具を」


 ゼノンの短い命令で、

 看守が二人、即座に動いた。


 俺の腕から、

 外される――

 旧型の魔力封印腕輪。


 それが外れた瞬間、

 一瞬だけ、

 解放感が走った。


 だが――

 次の瞬間。


 別の“重さ”が、はめられる。


 見た目は、同じ。

 色も、形も、ほとんど変わらない。


 だが、

 触れた瞬間に、分かる。


 これは――

 まったく別物だ。


 カチリ、と

 乾いた音。


 その瞬間、

 俺の頭の中に、

 鋭い“異音”が流れ込んだ。


 ぎぃ……

 ぎぃ……

 ぎぃ……


 思考が、

 歪む。


 数式が、

 崩れる。


 演算の途中に、

 意図しない“ズレ”が、

 無理やり書き込まれていく。


 「……ッ、これは……」


 膝に力が入らない。

 頭の奥が、焼けるように痛む。


 ゼノンが、

 俺を見下ろして言った。


 「新型だ」


 淡々とした声。


 「魔力を止めるだけの檻では、

  お前は、止まらん」


 「だから――

  思考そのものを、狂わせる」


 理解した瞬間、

 背筋が凍った。


 旧型は、

 力を奪うだけの封印。


 だがこれは――

 “考えること”そのものを破壊する拘束具だ。


 「……これで、

  同じ手は使えん」


 ゼノンは、

 小さく息を吐いた。


 「お前の“未来”は、

  ここで、一度――

  折れた」


 グラムは、

 歯を食いしばり、

 リオルは、

 声を失ったまま、

 俺を見ている。


 俺は、

 立ち上がろうとして――

 立ち上がれなかった。


 頭の中で、

 “正解”が浮かんでは、

 必ず“誤った答え”に歪められる。


 初めての感覚。


 自分の能力を、

 信用できない恐怖。


 ゼノンは、

 その様子を一瞥すると、

 背を向けた。


 「連れて行け」


 看守たちが、

 俺の身体を引き起こす。


 引きずられながら、

 俺は、歯を食いしばった。


 自由は、

 確かに、

 掴んだはずだった。


 だが、それは――

 あまりにも短すぎる“一瞬”だった。


 そして今、

 俺は初めて知った。


 この監獄には、

 自由を“奪う”だけでなく、

  “壊す”方法があることを。

再拘束

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