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『超解析の賢者は、難攻不落の鋼鉄の檻(アイゼン・ケージ)で自由を計算する』  作者: 済美 凛


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12/30

帰る場所

その日の作業場は、いつもより音が少なかった。

 木槌の音も、金属を削る音も、どこか遠慮がちだ。

 その中心で黙々と作業を続ける大柄な男――グラムは、普段より力が入っていた。


 俺はそっと声をかけた。

 「……大丈夫か?」


 グラムは手を止めず、「大丈夫じゃねぇよ」と短く返した。

 言い方は荒いが、その声音には疲れや焦りが滲んでいた。


 「クロウのこと、か?」

 「まあな。でも、俺ぁクロウほど達観してねぇ」


 グラムは金槌を置き、作業台に腰を下ろした。

 しばらく沈黙が流れる。


 「……アルス」

 珍しく、名前を呼ばれた。


 「俺には帰る場所があるんだよ」


 そう言いながら、胸元から小さな布切れを取り出した。

 色褪せた花柄の手拭い。何度も洗われ、角が丸くなっている。


 「嫁さんのだ。

 “持ってろ”って渡された最後の物でな」


 普段は豪快な男が、布切れを指で大事そうになぞる姿は、妙に胸に残った。


 「喧嘩ばっかしてたけどよ……

 帰ったら、ちゃんと謝んねぇとな」


 そう言うグラムの横顔は、不思議なくらい優しかった。


 「でも、このままじゃ帰れねぇ」

 「腕輪のせいか?」

 「それもあるが……」


 グラムは小さく息を吐き、俺に視線を向けた。


 「この檻にいる限り、俺は“嫁の前に立てる男じゃねぇ”んだ」


 その言葉に、思わず言葉が詰まった。

 グラムが脱獄に加わる理由――

 それは壮大な野望でも、正義でもない。


 ただ、“帰る理由”を取り戻したいだけ。


 「だからよ、アルス」

 グラムは器具の山から何かを取り出した。


 金属片。

 それを指で挟み、太陽光に透かすように見つめる。


 「お前の腕輪を外すパーツ、ほぼ形になった。

 あと一つで、仕上がる」


 胸の奥が熱くなる。

 ここまで来たのは、誰か一人の力じゃない。

 クロウ、リオル、グラム……

 それぞれの“理由”が、脱獄計画を動かし続けている。


 「……グラム、その手拭い。

 戻ったら、なんて言うんだ?」


 俺が尋ねると、グラムは照れたように鼻を鳴らした。


 「そりゃあ、決まってんだろ」


 大きな指で布を握りしめ、

 まっすぐ前を見据えて言う。


 「“ただいま”ってよ」


 その声は、作業場の騒音よりもずっと強く、真っすぐ響いた。帰る場所

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