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すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~  作者: 水川サキ


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45/57

45、アベリオとの再会

 私はこの日、人生で初めて王室主催のパーティに参加した。

 これまでにも貴族の集まりに顔を出したことはあったけれど、今回はまったく違う。

 煌びやかなシャンデリア、壮大な音楽、そして人々の談笑。

 そのすべてが、今までとあまりに桁違いで緊張した。


 エリオスがとなりにいてくれて本当によかった。

 彼のそばにいるだけで、不思議と心が落ち着く。


 そんな中、周囲のざわめきは止まらなかった。



「ノルディーン公爵様だわ」

「めずらしいわね、あの方がパーティに来られるなんて」

「となりの令嬢はどなたかしら?」


 無数の視線が私たちに注がれる。

 これほど注目を浴びるのは初めてのことだった。

 パーティへ参加しても、いつもセリスが目立っていて、私は隅にいるような存在だったから。


 緊張するけど、それでも私は笑顔を崩さず、エリオスとともに挨拶をして回った。

 多くの方が丁寧に言葉をかけてくれたおかげで、無難にこの場を乗り切ることができた。



 やがて会場を出て、休憩を取ることになった。

 ゲストルームへ向かうと、数人の貴族が穏やかに談笑していた。

 エリオスがソファに腰を下ろす。


「何か飲み物をもらってくるわ」

「すまない」

「いいのよ。すぐ戻るから」



 私は軽食の並ぶテーブルへ向かった。

 そして銀のトレイに並ぶグラスに手を伸ばしたとき、別の手が同じグラスに触れた。


「あ、ごめんなさい」

「いや、いいんだ」


 その声を聞いた瞬間どきりとした。

 視線を上げると、そこにアベリオが立っていた。


 驚きで言葉を失う。

 まさか、この場所で彼と再び顔を合わせるなんて。



「久しぶりだね、レイラ」

「……ええ、そうね」


 無視するのも不自然だから、できるだけ感情を抑えて淡々と返す。


「今はノルディーン公爵のところにいるんだって?」

「どうして、それを?」

「君の父に聞いたんだ。なぜ公爵のところにいるんだ? 君はたしか男爵のところへ嫁いだはずだ」


 それを話さなきゃいけないのだろうか。

 つらく悲しいあの夜のことを。



「嫁ぎ先へ向かう途中、異国の者たちに襲われかけたの。逃げ出したところを助けてくれたのが、公爵様よ」


 アベリオは表情を和らげ、穏やかに微笑んだ。


「そうか。無事でよかった」


 なぜそんなことが言えるのだろう?

 そもそもアベリオの婚約破棄がきっかけでそうなったのに、今思うとこの人に何の心もなかったのだとよくわかる。


「では、失礼するわ」


 冷ややかに告げて立ち去ろうとすると、彼の手が私の腕を掴んだ。



「待って。話がしたいんだ」

「話すことはないわ」

「僕は、君とやり直したい」

「何を言っているの?」

「君を失って気づいたんだ。僕のパートナーは君しか務まらない」


 私は腕を振り払い、強い口調で言い放つ。


「ふざけないで。あなたはセリスを選んだでしょう?」

「違うんだ。セリスに騙されていたんだ。あの日、君に似た誰かと男が抱き合っているのを見た……でも、あれは君じゃなかった。セリスが君に変装していたんだ」

「えっ……?」


 セリスが私に変装していたの?

 わざわざ私の悪い噂を流すために?



「僕も君も、セリスに騙されていたんだよ。僕たちは被害者だ」

「っ……!」


 言葉を失った。


 アベリオは必死の形相で私に詰め寄る。

 その表情は憂いに帯びている。


 もしセリスに騙されなければ、アベリオは今でも私を好いてくれていた?


 そんな思いが一瞬よぎったけれど、すぐに振り切った。

 私は毅然とした態度で彼を見据えて告げる。



「例えそうだったとしても、あなたは私を信じてくれなかった。セリスが正しいと思い込んでいたわ」

「君が他の男といるのをこの目で見てしまったからだ。そのときの僕の辛い心情はどれほどのものだったか」

「私は何度もあなたに訴えたわ。それは誤解だと。私はあなたを裏切ったりしないと言った。けれど、あなたは信じてくれなかったでしょう?」

「セリスに言いくるめられていたんだ。どうしようもなかった」

「そう。あなたはセリスを信じた。それが答えよ」


 私が突き放すように言うと、アベリオは深いため息をついて小さく問いかけた。



「目の見えない公爵との未来なんてあるのか?」

「え……?」

「彼は君の顔を見られない。それどころか、こうして飲み物を取りに来るのも、君がしなければならない。君は一生彼の世話をして生きていくのか? 自分のこともできないぞ」


 あまりの侮辱に、怒りで震えた。

 アベリオはまったく悪びれた様子もなく続ける。


「僕なら君をちゃんと見て愛してあげられる。絵なんか描けなくてもいいんだ。侯爵夫人として生きていけるんだから」



 ああ、この人はやっぱり何もわかっていない。

 私がどれほど絵を愛しているか。


 昔から何一つ理解してくれていなかったんだわ。



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