28、私とそっくりな老婦人
ようやくカルベラ国に入国できたのは、出発から7日後のことだった。
途中で悪天候に見舞われて予定より遅れてしまったけれど、到着したときには空が嘘のように晴れわたっていた。
カルベラ国の王都はオリエンタル文化が色濃く混じり合い、市場には不思議な骨董品や、見慣れない衣服、香り高い茶葉などが並んでいた。
ハルトマン侯爵家の屋敷は、ノルディーン公爵家にも匹敵する壮大な敷地に建っていた。
手入れの行き届いた庭園を抜け、広々としたエントランスに入ると、何人もの侍女たちが整列して出迎えてくれた。
「ハルトマン家へようこそ」
歓迎の言葉とともに邸宅内へ通されると、白を基調とした大広間が広がっていた。
まるで白亜の宮殿、あるいは神殿を思わせる荘厳さだった。
「やあ、レイラ。待っていたよ。元気そうで安心した」
ハルトマン侯爵が出迎えてくれて、彼はとなりに立つ女性を私たちに紹介した。
「こちらは妻のカレンだ」
カレンは手で口もとを押さえ、震え声を洩らした。
「本当だわ……本当に、スヴェンにそっくり」
驚いて言葉を失う私に、侯爵が静かに言い添える。
「妻は弟の幼馴染でね。君の話をしたら、とても驚いていたんだ」
私は戸惑いながらも深く礼をして名乗った。
「初めまして、レイラと申します」
「ごめんなさい、取り乱してしまって。どうかカレンと呼んでちょうだい」
「はい、よろしくお願いします」
カレンは明るい笑顔を見せてくれたので、私はすぐに安堵した。
この家の人々にどう受け止められるか、ずっと不安だったから、その笑顔でいくらか心が軽くなった。
「息子たちはあとで紹介しよう。だが先に、母が君を待っている。到着したばかりで申し訳ないが、会ってもらえるだろうか」
侯爵の言葉に、私はとなりにいるエリオスへそっと声をかけた。
「私はいいけれど……」
「では、そうしよう。きっとお待ちかねだ」
エリオスが穏やかな口調でそう言ってくれたので、私は侯爵の申し出を受けた。
部屋へ案内される途中、私は緊張で鼓動が高鳴った。
自分の亡き息子にそっくりな私と対面するのだ。どれほど驚かれるだろう。
そのことを考えると、不安もあった。
侯爵が扉をノックすると、侍女が応じて室内の扉を開けた。
大きな窓から差し込む光に包まれて、椅子に腰かける老婦人の姿が見えた。
白銀の髪に、澄んだブルーの瞳。
小柄な体と肌に刻まれたしわが歳月を物語っている。
初めて会うはずなのに、私は強烈な懐かしさが胸に込み上げてきた。
私と驚くほど似た顔立ちだったからだ。
私以上に驚いていたのは彼女のほうだった。
狼狽えるように目を瞠り、わずかに震えているようだ。
「母さん、彼女がレイラだ」
侯爵が紹介すると、婦人は杖をつきながら立ち上がり、侍女に支えられながら一歩ずつ近づいてきた。
彼女がふらついた瞬間、私は慌てて駆け寄り、手を差し出した。
彼女はすぐに私の腕を掴み、すがるように声を震わせた。
「ああ……こんなことが、本当に……」
澄んだ瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
彼女が膝から崩れ落ちそうになり、私は慌てて自身の体で支えた。
「だ、大丈夫ですか? どうぞおかけになってください」
「もっと……もっとよく、顔を見せてちょうだい」
「……はい」
私がまっすぐ見つめると、彼女は涙を流しながら私の顔や髪に触れた。
「ああ、神よ……この運命を、私はどう受け止めればいいのかしら」
どう声をかければよいかわからず戸惑っていると、侯爵が優しく彼女に声をかけた。
「母さん、初めて会ったばかりなんだ。レイラも驚いている」
その言葉で、婦人は少し表情を和らげ、私を見つめたまま微笑んだ。
「初めまして。あなたの祖母です」
その一言で、ずっと張りつめていた緊張が解けて、胸の奥が熱くなった。
まだ確たる証拠はないのに、私は涙があふれ、彼女の手を握り返して答えた。
「お祖母様……初めまして。お会いできて、とても嬉しいです」
婦人はやわらかく微笑む。
その穏やかな表情で、彼女が心から優しい人だとわかった。




