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すべてを失って捨てられましたが、聖絵師として輝きます!~どうぞ私のことは忘れてくださいね~  作者: 水川サキ


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28/57

28、私とそっくりな老婦人

 ようやくカルベラ国に入国できたのは、出発から7日後のことだった。

 途中で悪天候に見舞われて予定より遅れてしまったけれど、到着したときには空が嘘のように晴れわたっていた。


 カルベラ国の王都はオリエンタル文化が色濃く混じり合い、市場には不思議な骨董品や、見慣れない衣服、香り高い茶葉などが並んでいた。


 ハルトマン侯爵家の屋敷は、ノルディーン公爵家にも匹敵する壮大な敷地に建っていた。

 手入れの行き届いた庭園を抜け、広々としたエントランスに入ると、何人もの侍女たちが整列して出迎えてくれた。



「ハルトマン家へようこそ」


 歓迎の言葉とともに邸宅内へ通されると、白を基調とした大広間が広がっていた。

 まるで白亜の宮殿、あるいは神殿を思わせる荘厳さだった。


「やあ、レイラ。待っていたよ。元気そうで安心した」


 ハルトマン侯爵が出迎えてくれて、彼はとなりに立つ女性を私たちに紹介した。


「こちらは妻のカレンだ」


 カレンは手で口もとを押さえ、震え声を洩らした。


「本当だわ……本当に、スヴェンにそっくり」


 驚いて言葉を失う私に、侯爵が静かに言い添える。


「妻は弟の幼馴染でね。君の話をしたら、とても驚いていたんだ」


 私は戸惑いながらも深く礼をして名乗った。



「初めまして、レイラと申します」

「ごめんなさい、取り乱してしまって。どうかカレンと呼んでちょうだい」

「はい、よろしくお願いします」


 カレンは明るい笑顔を見せてくれたので、私はすぐに安堵した。

 この家の人々にどう受け止められるか、ずっと不安だったから、その笑顔でいくらか心が軽くなった。


「息子たちはあとで紹介しよう。だが先に、母が君を待っている。到着したばかりで申し訳ないが、会ってもらえるだろうか」


 侯爵の言葉に、私はとなりにいるエリオスへそっと声をかけた。


「私はいいけれど……」

「では、そうしよう。きっとお待ちかねだ」


 エリオスが穏やかな口調でそう言ってくれたので、私は侯爵の申し出を受けた。



 部屋へ案内される途中、私は緊張で鼓動が高鳴った。

 自分の亡き息子にそっくりな私と対面するのだ。どれほど驚かれるだろう。

 そのことを考えると、不安もあった。



 侯爵が扉をノックすると、侍女が応じて室内の扉を開けた。

 大きな窓から差し込む光に包まれて、椅子に腰かける老婦人の姿が見えた。


 白銀の髪に、澄んだブルーの瞳。

 小柄な体と肌に刻まれたしわが歳月を物語っている。



 初めて会うはずなのに、私は強烈な懐かしさが胸に込み上げてきた。

 私と驚くほど似た顔立ちだったからだ。


 私以上に驚いていたのは彼女のほうだった。

 狼狽えるように目を瞠り、わずかに震えているようだ。



「母さん、彼女がレイラだ」


 侯爵が紹介すると、婦人は杖をつきながら立ち上がり、侍女に支えられながら一歩ずつ近づいてきた。

 彼女がふらついた瞬間、私は慌てて駆け寄り、手を差し出した。


 彼女はすぐに私の腕を掴み、すがるように声を震わせた。



「ああ……こんなことが、本当に……」


 澄んだ瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。

 彼女が膝から崩れ落ちそうになり、私は慌てて自身の体で支えた。



「だ、大丈夫ですか? どうぞおかけになってください」

「もっと……もっとよく、顔を見せてちょうだい」

「……はい」


 私がまっすぐ見つめると、彼女は涙を流しながら私の顔や髪に触れた。


「ああ、神よ……この運命を、私はどう受け止めればいいのかしら」



 どう声をかければよいかわからず戸惑っていると、侯爵が優しく彼女に声をかけた。


「母さん、初めて会ったばかりなんだ。レイラも驚いている」


 その言葉で、婦人は少し表情を和らげ、私を見つめたまま微笑んだ。



「初めまして。あなたの祖母です」


 その一言で、ずっと張りつめていた緊張が解けて、胸の奥が熱くなった。

 まだ確たる証拠はないのに、私は涙があふれ、彼女の手を握り返して答えた。



「お祖母(ばあ)様……初めまして。お会いできて、とても嬉しいです」


 婦人はやわらかく微笑む。

 その穏やかな表情で、彼女が心から優しい人だとわかった。



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