第7話 約束の日
【今週の土曜あいてる?】
心臓が一瞬で跳ね上がった。海斗と湊の声がすぐ横で響いているのに、俺だけが異世界に放り込まれたみたいに固まってしまう。
「ごめん、俺先帰るわ」
とっさにそう言い残し、二人を置いて音楽室を飛び出した。駅までの道を早歩きで進み、地下鉄に乗り込む。座席に腰を下ろして、ようやくスマホを取り出した。
【どうしたの?】
【この前言ってたスタバの話、新作出たから一緒に飲み行かない?】
【そゆことね、いいよ】
【ほんと!?なら駅の金色の時計10時集合でいいかな?】
【了解、楽しみにしてる】
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥がざわざわする。これって、もしかしなくてもデートなのでは?
やばい。服とか大丈夫か?サイズ感、まだ合うか? …まあ、一応前のときに多少は気を使ってきたし、センスが壊滅的ってわけじゃない。だけど、陽菜相手となると話は別だ。
結局、次の日。俺は海斗を呼び出した。部活の帰り、ベンチに並んで座りながら切り出す。
「なあ海斗、もし仮にデートだったとして…服ってどんなのがいいと思う?」
「お前、俺に聞くか?」
即答でツッコミが返ってきた。そりゃそうだ。男子校生活5年目、彼女経験ゼロの海斗に相談するのは間違ってる。
「だよな。悪い、変なこと聞いた」
「せめて湊に聞くべきだろ」
「確かに」
「まあでも」
海斗はペットボトルを振りながら、少し真剣な声になった。
「相手は大切にしろよ。タクなら大丈夫だと思うが」
その言葉に、不思議と胸の奥のざわつきが落ち着いた。
「うん。ありがとう」
それ以上は何も言わず、俺たちはベンチから立ち上がった。夕焼けに照らされた校舎が背後で光っていた。
そして数日後。
ついにその日がやってきた。約束の土曜の午前十時前。服を選ぶのに少し手間取ったが…何とか間に合った。待ち合わせ場所の駅のエントランスは、すでに人であふれていた。大きな金色の時計が真ん中にそびえている。俺は少し緊張しながら人混みを見渡した。
そこで一瞬でわかった。金色の時計よりも、ずっと目立っている存在がいたから。
すらりとした背丈。窓からの光を受けて跳ね返す長く美し い黒い髪。白いブラウスに淡い色のスカート。周囲の視線をさらっているその少女が…陽菜だった。
相変わらず、可愛い。いや、モデルと言われても過言じゃない。男子校で過ごす日常に慣れ切っていた俺には、まるで異世界から現れたヒロインに見えた。他の人たちの視線が「あの子めっちゃ可愛いな、芸能人?」と問いかけてくるようで、胸が締め付けられる。
俺が立ち尽くしていると、陽菜がこちらに気づき、ぱっと笑顔になった。
「たくみ!こっち!」
人混みの中で手を振る姿は、眩しすぎて直視できないくらいだ。他人の目線が突き刺さるけど、それでもその声に呼ばれたら、応えないわけにはいかない。
「…行こっか」
少し照れ隠しのように声をかけると、陽菜は軽やかに頷いた。
「うん!行こ!」
その瞬間、俺の鼓動は加速していた。これから何が待っているのか、まだ全然わからない。でも一つだけ確かなのは
俺にとって、この日が特別な一日になるってことだった。
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