第29話 ニヤニヤ
「おいタク、いつもに増してニヤニヤしてるな」
紅葉の葉が舞う放課後の校庭。冷たい風に少しずつ冬の気配が混じり始めたころ、部活の練習に集まった瞬間、海斗の突っ込みが鋭く飛んできた。
「ふぇ?」
反射的に間抜けな声が出る。無意識のうちに頬が緩んでいたらしい。
「なんか気持ち悪いほどニヤニヤしてるよ……」
続いて湊までがため息交じりに呟いた。
「湊までそんなこと言うなんて……」
苦笑して頭をかく。まぁ、仕方ない。昨日のことをまだ二人に話していないのだから。
「そういえば、どうだったんだよ。昨日のデート」
海斗が肘でつついてくる。湊も眼の奥からじっと見つめてくる。
「えーーっと……無事、付き合えました」
言葉にした瞬間、二人の目が見開かれ、同時に「おー!」と歓声が上がった。
「やっとか!いやー良かった、良かった!」
「安心したよ。ここまで長かったね」
湊がぽんと肩を叩く。温かさが心にじわりと広がる。
「ほんと湊には感謝だよ。服選んでくれたり、デートプラン考えてくれたり……ありがとう」
「ほんと大変だったんだからな。二人からお互いに好き好きオーラ出しすぎてて、逆に見ててヤキモキしたよ」
「それなwこっちもこっちでまじ大変だった」
「おい海斗、お前は何もしてないだろ」
「は?応援しただろ、応援!精神的サポートは俺が一番だろ?」
「それは……まぁ感謝する。それはな」
結局、俺は笑ってしまう。こんなふうにバカみたいなやり取りができる仲間がいるのは、本当にありがたい。
「でもそこまでニヤニヤするもんなのか?」
「憧れで、ずっと好きだった女の子が彼女になってくれたんだから、それくらいあるんじゃないかな」
「にしてもニヤニヤしてるけどな」
海斗が不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「いや、それはキ……」
言いかけて慌てて口を閉じる。しかし、その一瞬を海斗が見逃すはずもなかった。
「は?タク、お前……キスしたのか!?」
爆弾のような声量が部室に響き渡った。静かに楽器を手入れしていた部員たちが一斉にこちらを振り返る。ざわざわとした空気が広がり、なぜかコーチまでもが口元を押さえて笑っている。
しまった。
「おー、大胆!」
「裏切り者めぇぇぇぇぇ!」
「そこまでしていいなんて誰も許可してないぞ!」
「いや許可制じゃねぇし!」
質問攻め、冷やかし、歓声。部室は一気にお祭り騒ぎになった。俺は両手を振って必死に否定するが、赤くなる顔は隠しようもない。
それでも、嫌な気分は一切なかった。むしろ心の奥がじんわりと温かくて。
ここまで来られたのは、この仲間たちのおかげなんだ、と改めて思う。海斗や湊、そして周囲のみんなのからかいも、今はくすぐったくて心地いい。
練習を終え、楽器を片付けて音楽室を出るころには、空はすっかり茜色に染まっていた。秋の夕暮れ特有の澄んだ空気が、火照った頬に心地よい。
「はー……ほんと羨ましいな」
駅へ向かう途中、海斗が大きく息を吐いた。
「海斗も頑張ればできると思うぞ、彼女」
湊が笑って肩を叩く。
「いや無理だって。まず女子とまともに話せないし」
「最初はみんなそうだろ」
「タクだって最初は緊張してたんじゃない?」
湊が俺に視線を送る。俺は曖昧に笑った。確かに、陽菜と初めて出かけた時は心臓が壊れそうなくらい緊張していた。
そんなことを思い出していると、校門の外に立つ人影に気づいた。
街灯の下、夜風に髪を揺らす紺色のセーラー服。少し小柄でスタイルの良い女の子。ひと目でわかる。
陽菜だ。
「あれ、陽菜さんだよな?」
海斗が驚いたように目を見開く。
「あ、うん……そうだけど」
「相変わらず、えっぐいほど可愛いな」
「ほんと、芸能人みたい……」
湊のつぶやきに、俺も心の中で全力で頷いていた。制服姿の彼女は、ただそこに立っているだけで周囲を圧倒する。まるでドラマのワンシーンのように。
彼女がこちらへ歩いてくる。
「ちょうど部活終わる頃かなーって思って、会いに来ちゃった」
その言葉に、俺の胸はさらに高鳴る。
昨日まで「もし付き合えたら」と夢見ていたこと。それが今、当たり前のように目の前にある。
相変わらず、俺の彼女は可愛すぎる。
顔が自然とほころぶ。
背後では海斗と湊が呆れ笑いをしていたけれど、俺はもう彼女しか見えていなかった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
これ、書いてるこっちまでニヤニヤしてきますね……
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