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第27話 決意

 夕暮れがゆっくりと街を染めていく。動物園の園内は閉園時間が近づき、通り抜ける風に、子どもたちの笑い声や動物の鳴き声が次第に遠のいていく。橙色に傾いた光が檻の鉄格子を照らし、長く伸びた影を地面に落としていた。


 陽菜と並んで歩きながら、俺は、今日一日の流れを噛み締めていた。昼間は明るい声と笑顔で溢れていた園内も、夕暮れになると一気に静まり返り、さっきまで元気に走り回っていた子どもたちも姿を消す。代わりに、空には濃い群青がにじみ出し、夜の訪れを告げていた。



「そろそろ閉まっちゃうね」


陽菜が肩をすくめ、少し残念そうに笑う。


「まだ時間ある?」


「うん……大丈夫だけど」


「良かった。ならご飯食べに行こ。イタリアンとかどうかな?」


「イタリアン……食べたい!」


「良かった。じゃあ行こっか」


 俺は陽菜の腕にそっと触れ、タワーのレストランへと向かう。実は前から予約していた場所だ。


 タワーに着いた頃には、街はすっかり夜の姿に変わっていた。下を見下ろせば、道路に並ぶ車のライトや、遠くで瞬くビルの窓明かり。それらすべてが無数の星のように輝き、地上をひとつの夜空にしていた。


 レストランは落ち着いた高級感が漂っていて、自然と背筋が伸びる。窓際の席に案内され、俺と陽菜は並んで腰を下ろした。そこから広がる夜景は、まるで宝石箱をひっくり返したかのように煌めいている。


「……景色、良いね」


陽菜の言葉に、俺は少し遅れて頷いた。


 「うん、そうだね」


 窓に映る彼女の瞳は夜景の光を映し込み、いつも以上にきらめいていた。しばらく沈黙が続く。けれど、その沈黙は気まずさではなく、ただ同じ景色を共有できる心地よさだった。


 「そういえば、久しぶりに遊んだ時も景色良かったよね」


 陽菜がふと口を開く。


 「あの時から……また仲良くなったよな」


 俺も思い返す。久しぶりに会ってから、ぎこちなかった距離が徐々に縮まり、今こうして自然に隣に座っている。思えば、その間に色んな出来事があった。


 「それでね、思い返すんだ。匠海に私は助けられたって」


 陽菜が少し真面目な声になる。


 「……助けられた?」


 俺は思わず聞き返した。


 「うん。今は友達って感じだけど、復讐を手伝ってた時……正直、あの時間は楽しかったんだよ。たくみと色んなとこに行って、守ってもらったりして。すごく嬉しかった。改めてだけど、ありがとう」


 言葉が胸に突き刺さる。陽菜の「ありがとう」は軽い響きじゃなく、深くて、温かくて、誠実だった。



 今だ。そう思った。心の奥から言葉が溢れそうになる。好きだ、という感情が、口まで込み上げてくる。


 けれど、同時に強いブレーキもかかる。


 まだ早い。まだ壊したくない。せっかく積み重ねてきたものを、焦りで崩してしまうのは怖かった。


 心の中で葛藤が渦巻く。




 その時、料理が運ばれてきた。コースのメイン、彩り豊かな皿が二人の間に置かれる。漂う香りに空気が変わり、緊張が少し和らぐ。


 二人でナイフとフォークを使いながら会話を続ける。食事の一つ一つが特別な演出のように感じられ、彼女が笑うたび、俺の心も穏やかになった。


 

この時間が何よりも幸せだ。壊したくない。そうしみじみ感じる。

 そして最後に出てきたデザート。甘さが口いっぱいに広がると、思わず言葉がこぼれる。


 「今日、楽しかった?」


 「うん! すごく楽しかった」


 即答する陽菜に、俺は胸の奥が熱くなる。


 「俺からも、改めてありがとうって伝えたい」


 「ん?」


 「俺が復讐したいって言った時、付き合ってくれた。そして紗菜との仲直りまでさせてもらって……本当に、ひなには感謝しかない。ありがとう」


 陽菜は驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。


 「……たくみがそう言ってくれて良かった」




 食事を終え、エレベーターで降りる。扉が開くと、夜風がふっと頬を撫でた。外に出るとタワーの光が背後で輝き、街全体が星のように瞬いていた。


 「時間ある?」


 俺は唐突に尋ねた。


 「あるけど……どうしたの?」


 「ちょっと来て」


 そう言って、俺は陽菜の手を握った。彼女は一瞬驚いたように目を見開いたが、拒むことはなかった。むしろ小さく笑って、歩調を合わせてくれる。


 二人で広場へ向かう。街の光で星はあまり見えないけれど、夜空は深い群青に染まり、どこか澄んでいた。

 ここまで来て、俺の中で決意が固まった。




 広場の中心で立ち止まり、俺は深呼吸をする。胸の鼓動がうるさいほど響く。けれど、それを抑える必要はなかった。



 「星乃陽菜さん」



 彼女は不思議そうに首をかしげる。俺は一歩前に踏み出し、彼女をまっすぐ見つめた。




 「あなたのことが好きです。付き合ってください」




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