第25話 友情
「見た目……どうしよう……」
教室の窓から差し込む午後の光が、やけに眩しい。土曜日、陽菜とのデートはすぐそこに迫っているというのに、俺はまだ決まっていなかった。服装も、プランも、告白のタイミングすらも。
「どうしよう……」
隣の席でシャーペンを回していた海斗が、あきれ顔で俺を見る。
「だからなんで俺に聞くんだよ……」
「親友だろ?助けてくれよ」
「はあ。まあいいけど。今日部活ないし、湊も誘ってショッピングモール行くか。LINE送っとくわ」
「ありがとう、神様……」
「へへ、それほどでもあるぞ」
海斗がスマホを取り出し、湊にメッセージを送る。数秒で返事がきた。
【今日放課後空いてる?】
【空いてる】
【タクのデート準備手伝ってくんね?】
【仕方ないな、いいよ】
やっぱり、持つべきものは親友だ。
放課後。地下鉄に揺られて数駅、そこから少し歩くと、大きなドームの横にショッピングモールが現れた。ここに来ると、なぜか胸が躍る。
見渡せば、平日でもそれなりに人がいる。制服姿の高校生、買い物袋を抱えた主婦、カップル。どこを見てもリア充っぽい光景で、俺は余計に落ち着かなくなった。
「おい、タク。そんな緊張すんなよ。ただの買い物だろ」
横を歩く海斗が呆れたように言う。
「いや、ただのじゃないだろ。デートの服だぞ?人生で一番重要な買い物かもしれん」
「大げさすぎ。どうせ陽菜さんなら、タクが着てるTシャツでも笑ってくれるって」
「そう思うけどさ……やっぱちゃんとしたいんだよ」
そう口にした瞬間、背後から湊がにやにや顔で顔を覗き込んできた。
「お、タクが真面目モードだ。これは期待できるね」
「うるせぇ。お前らに頼んだのは、冷やかしじゃなくてアドバイスだからな」
三人でエスカレーターに乗り、アパレルフロアへ。壁一面のポスターにはモデルが笑顔でポーズを決め、ショップの中からは店員の明るい声が飛び交っている。
白を基調にした店内には、秋物の新作が並んでいた。トレーナー、シャツ、ジャケット。どれを見てもオシャレすぎて、庶民感覚の俺にはハードルが高い。
「お、これなんかどうだ?」
海斗が手に取ったのは、シンプルな黒のジャケット。
「うーん……かっこいいけど、大人っぽすぎない?」
湊が首を傾げ、次にグレーのカーディガンを取り出す。
「これくらいなら陽菜ちゃんも安心して横に歩けそうじゃない?」
「お前、なんでそんなに女子目線わかるんだよ」
「姉貴の買い物付き合わされてんの、毎週だから」
「あー……それで妙に詳しいのか」
「まあ、湊彼女もいるしな」
俺は鏡の前に立ち、カーディガンを羽織ってみる。
普段の姿とは違う自分がそこに映った。
「どう?」
「お、いいじゃん。やっぱり顔がそこそこ良いと、なんでも似合うな」
「うん、清潔感あるし、匠海っぽい」
「そこそこってなんだよ、そこそこって…」
店員さんまで近づいてきて、「すごく似合ってますよ」なんて言うもんだから、耳が赤くなる。
結局、カーディガンと白シャツ、そしてワイドデニムを買った。レジを済ませた瞬間、なぜか背筋がシャキッと伸びた気がした。
「まあタクの服も決まったし、少し腹ごしらえするか」
「そうだね、フードコート行こう」
フードコートに移動すると、放課後の学生や家族連れで賑わっていた。
俺は無難に和風とんこつラーメンを、海斗はクレープとアイスを、そして湊は
「湊、お前食いすぎじゃね?」
海斗が呆れたようにアイスを舐めながら言った。
湊の前には、たこ焼き二舟とポテト、さらにジュースまで。
「お腹空くんだもん」
「たこ焼き二舟って……すごいね」
俺は思わず笑ってしまう。こんなに食べるのに、なんであんなに細いんだろう。同じオーケストラ部で動いてるはずなのに。
湊はたこ焼きを頬張りながら、話題を切り替えた。
「そういえば匠海、デートプランは決まったの?」
「いや……というか、告白の場所すら迷ってる」
「え、タク。お前、あれでまだ付き合ってなかったのか?」
海斗が目を丸くする。文化祭での俺と陽菜の様子を見て、てっきり付き合ってると思ってたらしい。
「うん……」
「ほんと、ヘタレだよねー匠海は」
「うるせ」
言い返すと、海斗が真顔になった。
「まあ、この辺なら、あそこだろ」
「そうだよね。あそこしかないよね」
湊も頷きながら話す
「だよなぁー」
俺はラーメンのスープをすすりながら、心臓がまたドクドクと鳴り始めているのを感じた。
でも、二人がここまで協力してくれるんだ。決めないと。いや、決めてみせる。
「湊、海斗。今日はありがとう。……決めてくる」
買い物袋を手に、俺は二人を見据えて言った。
「おう、タクなら行けるから頑張れ」
「俺も応援してるよ」
笑顔で背中を押してくれる二人に、思わず胸が熱くなった。
来週の土曜日。
その日が、俺にとってきっと人生で一番大事な日になる。
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