第22話 おはなし
昨日受けたDM。
【2人で話しませんか?】
正直、最初は目を疑った。
だって相手は「陽菜」
匠海の今の彼女。
まさか直接メッセージをもらうなんて思ってなかった。
勢いでOKしてしまったけど……本当は、すごく怖い。
何を話されるんだろう。責められるのかな。それとも、私に釘を刺すため?
頭の中で最悪の展開ばかりが浮かぶ。
【大丈夫です】
するとすぐに返事が返ってきた。
【なら明日、百貨店のカフェで待ち合わせで!ミルクレープでも食べながら、おはなししましょう。】
……ミルクレープ。
そういえば、匠海も甘いものが好きだったっけ。
でも私、ケーキとか全然食べないから、付き合ってるときに一緒に行ったことはなかった。
思い返せば、いつも私の行きたい場所ばかりだった。
映画、ショッピング、甘いものが置いてないカフェ…
私の希望を優先させて、匠海は黙ってついてきてくれた。
それが当たり前みたいに思ってたけど、本当は違ったんだ。
私の「行きたい」と匠海の「行きたい」が重なることなんて、ほとんどなかった。
「お久しぶり……って言っても、昨日会ってますよね。紗菜さんで合ってますか?」
声をかけられて顔を上げた。
「あ、はい。私、桐島紗菜です」
「良かったー!私、星乃陽菜です!」
彼女は笑顔で手を差し出してきた。
思わず握り返すと、その手は温かくて、小さくて細い指なのに、しっかりと握ってくる。
長くて自然にカールしたまつ毛、整った小さな顔立ち、さらさらと光を反射する髪。
余計な飾り気なんてなくても、十分に人を惹きつける。
(ああ……これが匠海の隣にいる子なんだ)
どこか納得してしまう自分がいる。
「よろしく。早速なんだけど、話って……」
「まあまあ、それは後で!まずはカフェに入りましょ!!」
私は少し気圧されて頷いた。
カフェに入ると、陽菜さんは迷わず注文を決めた。
「ここ、ミルクレープが美味しいお店なんですよ!発祥もこの地域で!」
「そうなの……私、ケーキとか食べないから、そういうの疎くて」
「そうなんですね!でもきっと気にいると思いますよ。店員さーん、ミルクレープ2つください!」
彼女の声は店内に響いている。明るくて心使いが出来る子。
私にはない強さと、まっすぐさ。だから匠海は惹かれたんだろう。
ケーキが来る前に、陽菜さんが口を開いた。
「で、本題の、お話って?」
「私、紗菜さんに謝らないといけないことがあって……」
「そうなの?」
「ごめんなさい。実は私、匠海と付き合ってないんです。紗菜さんを騙してたんです。」
一瞬、頭が真っ白になった。
付き合ってない?どういうこと?
「匠海が紗菜さんに復讐したいから、協力してただけなんです。私の学校の文化祭が終われば、彼氏彼女の関係も終わりです。」
その瞬間、胸の奥が大きく揺れた。
安堵、信じられなさ、そして情けなさ。
私は深く息を吐いた。
「そうなの……良かった……」
思わず言葉が漏れた。
本当に良かったと思った。
だって、匠海の隣に本当に「別の女の子」がいることが苦しかったから。
「……やっぱり紗菜さん、まだたくみのこと好きなんですね。」
ドキリとした。
陽菜さんの瞳が、まっすぐに私を射抜いてくる。
逃げられない。
「たくみと何があったかはだいたい察しがつきます。たくみも自分の意思を大切にするタイプだから、多分すれ違ったんですよね」
「そうなの……遊んだり、そういうのに付き合ってくれないことが多くて。でも結局の原因は、私が浮気したことだし……」
言葉が重くて、最後は消え入りそうになった。
「それは、たくみに謝ったんですか?」
「あ、いや……」
「まだ謝ってないんですか?」
突きつけられると、胸が苦しい。
私は目を逸らした。
「うん……」
「なら来週の週末、空けておいてください。私の文化祭が終わった次の日、仲直りしてください。」
あまりに突然で、戸惑った。
「でも……」
「このままだと、たくみにも紗菜さんにも良くないと思うんです。」
彼女の声は優しいのに、強かった。
そうだ。
私はまだ匠海に謝ってない。
あれだけ酷いことをしたのに、きちんと謝らず、ただ自分の気持ちをぶつけていただけだった。
「復縁してよ」なんて言葉も、謝罪の前に口走ってしまった。
あの時の匠海の困惑した顔が脳裏に浮かぶ。
「わかった……」
自分でも驚くほど素直に答えていた。
「ならここの公園に来てください。たくみには私から声をかけておきますね!」
「ありがとう……陽菜さん……」
本当に、この子は優しい。
それが余計に苦しかった。
だって私は、匠海を傷つけてきたから。
「あと安心してください、その日には私と匠海はもうカップルではないので」
彼女は笑顔でそう言った。
でも、一瞬だけその笑みが曇ったように見えた。
きっと、この子だって匠海を想ってるんだろうな。
なのに、自分を抑えて私にチャンスをくれようとしている。
その事実と優しさが、痛いほど胸に刺さる。
「んー!やっぱりここのミルクレープ美味しい……フルーツいっぱい入ってて、生地も薄い……」
「ほんとだ……美味しい……」
「でしょ!」
2人でケーキを食べる時間。
ほんのひととき、心が穏やかになる。
だけど甘い味の奥で、胸の奥が苦しくてたまらなかった。
私は匠海に謝れるのだろうか。
それとも、また自分の感情をぶつけてしまうんだろうか。
涙を堪えながら、フォークでミルクレープを口に運んだ。
こんなに優しい子と比べられて、それでも私を選んでくれるわけがない。
頭ではわかっているのに、心はまだ匠海を求めてしまう。
だからせめて
謝らなきゃ。
謝って、それから考えよう。
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