第2話 偽彼女ってアリなの?
昼下がりの部室。 窓から入り込む夏の日差しが、机の上の余ったポテトをじりじりと照らしていた。冷めているはずなのに、妙に油っぽい匂いが鼻につく。俺はスマホを机に置いたまま、ぼんやりと空を眺めていた。
「どうやったら、二度と来なくなるんだろうな」
ふと漏れた言葉に、向かいでコーラを飲んでいた海斗が眉を上げる。
「元カノのことか?」
「他に誰がいる」
「そんなん簡単じゃん。彼女作れば一発だろ」
海斗は当然のように言ってのける。あまりに軽すぎる口調に、思わず吹き出しそうになった。
「お前なぁ……そんな簡単に言うなよ。俺ら男子校だぞ? 出会いなんてどこに転がってんだよ」
「合コンとか街コンとか?」
「高校二年が行くもんじゃねえだろ」
「まぁな。でもよ、たしかにあったとしても…」
そう、俺たちのいる学校は中高一貫の男子校。
元カノがいたとしても、4年以上同性としか話しておらず、女性経験は少ない。
そして海斗はわざとらしく俺を見て、にやりと笑った。
「タクにはもう彼女できなさそうだし」
「は?」
「だってさ、一回裏切られた奴って、無意識に疑り深くなるもんだろ。次の彼女だって疲れるんじゃね?」
「おいおい、人を中古品みたいに言うな」
「いや、中古でも需要があれば、」
「殴るぞ」
カッとなって机のポテトを口の中に押し込んだ。海斗は避けもせず口で受け止め、もぐもぐと噛み砕いた。
「うめぇ」
「お前、わざとだろ」
「はは、まあな」
「というか海斗も彼女出来たこと無いだろ」
「そんな悲しいこと言うなって」
俺は深く息を吐いた。 たしかに、普通に新しい彼女を作るのは難しい。だが
「偽の彼女…」
ぽつりと呟いた俺の言葉に、海斗が目を瞬かせた。
「は? 偽彼女?」
「そう。あいつに『俺はもう幸せだ』って文化祭で見せつければ…吹っ切れて二度と寄ってこないかもしれないだろ?たとえそれが本物でも偽物でも」
「なるほどな。復讐だな」
「復讐って言うか、自衛だよ」
「でも、それって誰に頼むんだ? タクにそんな当てあんのか?」
当たり前の疑問に、俺は答えを返せず口を閉ざした。机の上の冷めたポテトをつまみ、無意味にかじる。
偽でもいい。俺の隣に立ってくれる人間がいれば。
そう思った瞬間、胸の奥が妙にざわついた。
海斗はしばらく俺をじっと見ていたが、やがて肩をすくめる。
「ま、考えるだけならタダだな。けど俺からすりゃ、普通に彼女作るより難易度高そうに思えるけどな」
「だよなぁ」
少し間が空いた。セミの声が窓の外から聞こえてくる。 その沈黙を破ったのは、海斗の何気ない一言だった。
「タク、つーかお前勉強してるのか?」
「ん?」
「俺たちもう高二だぞ? 受験だぞ?」
「うっ…」
思わずうめき声が出た。そういえば、ここ最近は元カノの件で頭がいっぱいで、勉強なんてまるで手につかなかった。
「お前はどうなんだよ」
「え? 俺?」
海斗はコーラの空き缶を机に置き、にやりと笑った。
「俺はもう夏期講習の体験、申し込んだ」
「……え」
「だって現役合格したいし? ほら、塾の資料もらった」
そう言ってカバンからパンフレットを取り出す。 表紙には大きく「志望校現役合格!」と書かれた文字。思わず目を細めた。
「意外と真面目だな、お前」
「意外ととはなんだ意外ととは」
「だって普段アホなことしか言わないし、成績俺より悪いし」
「俺の株低すぎね?事実だが」
海斗は笑いながらパンフを俺の方に突き出してくる。
「お前も来いよ。俺は知り合いが居ないと寂しいんだわ。夏休み暇してんなら、俺の勉強に付き合ってくれ」
「まぁ、考えとく」
受験。未来。復讐。 頭の中で、いくつものワードがぐるぐると回る。
本当に偽彼女なんてうまくいくのか。 だけど、もしそれができれば。
俺は机の上に置いたスマホをもう一度見下ろした。 画面にはまだ、既読をつけていないメッセージが残っている。
【会いたい。復縁したい】
胸の奥が再び苦しくなる。
だからこそ、 俺は、何か行動を起こさなきゃならない。
「なぁ海斗」
「ん?」
「もし偽彼女作るってなったら……お前、協力してくれるか?」
「は? 当たり前だろ。俺は親友を見捨てないぜ」
「親友だったの?」
「嘘だろタク、俺ら4年の付き合いだろ…親友以外のなんだって言うんだ…」
そう言って海斗は俺の背中を叩いた。少し痛かったけど、その痛みが妙に心地よかった。
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