表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/30

第13話 あと一日

放課後の教室には、ガムテープを剥がす音や、机を動かす軋みがまだ響いていた。夏休み明けから準備を続けてきた文化祭の教室装飾も、ようやく形になった。カーテンを模した布は窓際に掛けられ、机はカフェ風に配置され、黒服姿の男子たちが最後のリハーサルをしている。


「よし、これで全部だな」


委員長が腕を組みながら言うと、教室全体に安堵の空気が広がった。俺も思わず深く息を吐く。黒服の裾を軽く払って、椅子に腰を下ろした。


「ふぅ…やっと終わったな」


「だな。明日が本番か…」

隣で同じ黒服を羽織っていた海斗が、机に肘をつきながら笑った。その表情には緊張よりも楽しみが浮かんでいる。


「けどタク、お前……やっぱり似合うな、その黒服」


「またそれかよ」


苦笑いで返すけど、実際クラスメイトからも散々言われている。顔が悪くないだの、スタイルがいいだの。そんなこと言われても実感なんてない。




家に帰ると、疲れが一気に押し寄せた。夕飯を済ませ、風呂に入って、布団に潜り込む。


ベッドに横になったまま、半分眠りかけていたときだった。枕元のスマホが小さく震える。画面には「陽菜」の文字。心臓が一気に跳ね上がる。


急いで通話ボタンを押すと、耳に馴染んだ声が響いた。


『たくみの声が聞きたくなっちゃって』


「えっ?」


思わず間の抜けた声が出る。

夜の静けさに、その言葉だけがやけに大きく響いた。


『ふふっ、冗談だよ。本当は明日のことを聞こうと思って』


「な、なんだよ…びっくりした…」


照れ隠しに笑ってみせるけど、心臓の鼓動は落ち着かない。冗談だとわかっていても、ほんの一瞬だけ、本気にしてしまった自分が情けなくて、でも少し嬉しくて。


『それでさ、明日って何時くらいに行けばいいかな?』


「えっと…10時くらいにオーケストラの演奏があるんだ。それが終わってからクラス企画。俺たちが参加するのは昼くらいからだから、その時間からなら大丈夫」


『なるほど。じゃあ演奏のタイミングで行くね。たくみの晴れ舞台、ちゃんと見たいし』


「う、うん…了解」


そう答えながら、自分でもわかるくらい声が小さくなる。頭の中には、明日のことを考えると胸の奥に重いものがのしかかる。元カノの存在、文化祭の緊張、うまくやれる自信があるわけじゃない。


沈黙を見透かしたように、陽菜が柔らかく笑う声を聞かせてきた。


『ねぇ、たくみ。声小さくない?』


「そんなことない」


強がりのつもりだった。でも言葉に力はなかった。


『もし何かあっても、私が隣にいるから大丈夫。頼っていいんだよ』


その一言が胸に沁みる。強がりなんて全部無駄だった。俺はずっと、陽菜に支えられてばかりだ。


「ありがとう…ほんとに」


『どういたしまして!』


軽やかな声。けれどそこには、からかいじゃなくて確かな優しさがあった。

重い不安の影はまだあるのに、不思議と眠れそうな気がした。明日を迎える勇気をくれたのは、間違いなく彼女だった。





そして翌朝。

窓の外からは、まだ少し残る夏の蝉の声。制服に袖を通し、鏡で髪を整える。表情は引き締まっていた。心臓は高鳴っているが、不思議と恐怖はない。

学校に向かう道すがら、俺は胸の奥で小さく呟いた。


「やってやる」


最後までお読みいただきありがとうございます!


1章は今回までとなります。

明日より2章、文化祭編のスタートです!


毎日投稿していますので、よろしければブックマークしていただけると嬉しいです。

アドバイス・感想・評価もお待ちしています!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ