第12話 文化祭準備
セミの声も遠くなり、夏の熱気がどことなく秋の空気に変わり始めていた。
夏休みが終わってすぐ、始業式直後から行われた二日連続のテストをなんとか乗り切り、やっと今日の午後から文化祭準備に取りかかる。
教室はざわざわとした熱気で満ちていた。夏休みの間ほとんど顔を合わせていなかったクラスメイトたちが集まって、机や椅子を端に寄せ、装飾の材料や衣装の箱を持ち込んでいる。
「やっと文化祭準備だな」
海斗が窓際の机に腰をかけながら、いつもの調子で声をかけてくる。
「ああ。テストで頭やられてたから、むしろ準備の方が気が楽だわ」
俺は深いため息をつきながら答えた。
「というかよ。コスプレ何にするか決めた?」
「んーまだ。コスプレって言われても、どういうのがいいのかよくわかんないんだよな」
俺たちのクラスは、いわゆるコンセプトカフェをやることになった。
ただ紅茶やお菓子を出すだけじゃなく、俺たち自身が席に座って、お客さんと話をしてもてなす。
もちろん裏の本音は、女子と仲良くなって連絡先を交換したいってやつばかりだ。男子校の文化祭なんて、女子がどれだけ来てくれるかが勝負だからな。
とはいえ、需要があるのかは正直謎だ。男子のコスプレカフェなんて、誰得なんだ。
「そういえば」
海斗が手を振って委員長を呼ぶ。
「委員長ー! コスプレの余り、何が残ってるか教えてくんない?」
「おお、海斗くんか。余り物か…少し待っててくれ。匠海くんの分も必要か?」
「お願いします!」
委員長は衣装の入った大きな袋をガサガサと漁りながら答える。
「えーっとな……ウィッグ付きメイド服が二着、チャイナドレスが一着……」
「え? ちょ、それしか余ってないの?」
海斗は吹き出しそうになる。
「タク、聞こえてる?」
「聞こえてるよ! 女装は嫌だよ! 委員長、他にいいのはないですか?」
「はっはっは。似合うと思うんだがなあ。だが少し待て。あ、黒服が二着だけ余っt…」
「黒服でお願いします」
即答した俺に、海斗が呆れたように笑った。
「返事早すぎだろ」
放課後、教室の一角で早速試着タイムになった。
制服のシャツを脱ぎ、黒服を羽織る。鏡代わりの窓に映る自分を見て、思わず苦笑いが漏れた。
「どう?」
隣で着替えている海斗に問いかける。
「タク…お前、似合いすぎだろ」
海斗は一瞬固まったあと、真顔でそう言った。
「は?」
「いや、マジで。なんか……人気No1のホストっぽい。イケメン風がすでに完成してる。」
「それって褒めてるのか?」
その声を聞きつけたクラスメイトたちが集まってきた。
「おー、匠海意外とアリじゃね?」
「顔悪くないもんな。スタイルもいいし」
「黒服似合ってる! マジで客つくわ」
一斉に言われて、俺は思わず耳まで熱くなる。
「ほんとかよ…」
「ほんとほんと! つかこれで陽菜ちゃん来たら喜ぶんじゃね?」
「おいバカ、名前出すな!」
慌てて否定するけど、頭の中には浮かんでしまう。
もし陽菜が、俺の姿を見たらどう思うだろう。
笑うか、からかうか、ちょっとくらいは…喜んでくれるのか。
(いやいや! 今考えることじゃない)
首を振って妄想を振り払う。
夕暮れ時、黒服を片付けて準備に戻る。
机を並べ替え、段ボールとベニヤ板で即席のパーテーションを作り、印刷したメニューを席に並べる。
紅茶やコーヒーの試飲をして、砂糖の量でまた揉める。男子校の文化祭準備なんて、基本はわちゃわちゃと騒がしい。
「なんか、形になってきたな」
海斗が汗を拭いながら笑う。
「そうだな」
俺も頷いた。
文化祭まであと数日。
クラス全体が盛り上がってきているのを肌で感じる。それと同時に、心もどんどん昂ってくる。
そして同時に、胸の奥には別のざわめきもある。
紗菜が「文化祭行くから」なんて言っていたこと。
本当に来るのか。もし来たら、どうすればいいのか。
「よし」
今はただ、文化祭を成功させるために頑張るだけだ。
クラス企画も、部活も、計画も、気持ちも。全部。
窓の外で、夏の終わりを告げる蝉の声が最後の力を振り絞って鳴いていた。
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