第11話 夏の終わり
ジリジリと鳴く蝉の声が、夏の終わりを告げていた。
短いようで長かった夏休みも今日で終わり。明日からはまた授業が始まる。
俺たちはいつも通り、文化祭に向けた部活の練習をしている。
ホールの蒸し暑さに加えて、セミの声まで響いてくるせいで、体感温度はさらに高い。
「たくみさんよぉ~。なんか今日ずっとニヤけてんだけど。さては、いいことあったな?」
「え、俺そんな顔してる?」
「してるしてる。幸せそうで仕方ないって顔」
思わず苦笑いを浮かべる。
今回の夏休みは、いろいろありすぎた。
陽菜とのデート。元カノとの再会。
そして陽菜に励まされて、不意に抱きしめられたあの瞬間。
思い出すだけで胸の奥がざわつき、同時に心臓が跳ねる。
「まあ、ちょっとな」
曖昧に返すと、海斗がにやにやしながら身を乗り出してきた。
「やっぱりな!この前のデートでなんかあったんだろ」
「な、なんで分かるんだよ」
「顔に書いてある。教えてくれよ!!」
実は‥
この前の陽菜のデートのことを伝える。
「お前、マジで羨ましすぎる」
「そ、そういうんじゃねえよ!あれは……慰めっていうか、支えてもらっただけで!」
必死に否定する俺を、海斗はからかうように見てくる。
「ふーん。けど、それもうカップルじゃねえ?」
「断じて違う!……俺も陽菜も。とにかく文化祭が終わるまでは、あっちの方のカタをつけないと」
最後の言葉を口にした瞬間、胸の奥に重さがのしかかった。
桐島紗菜。再会した元カノの存在が、今の俺の気持ちに影を落としているのは間違いない。
海斗は肩をすくめた。
「まあ、そこはお前次第だな。そういや今日、湊は?」
「彼女とデートらしいぞ」
「マジかよ」
「良くないわー…」と呟く俺に、海斗がすかさず突っ込む。
「いやいや、お前が言うなって!『抱きしめられマン』」
「だから違うって言ってんだろ!!」
くだらないやりとりに周囲からも笑いが起きる。
そして、海斗の顔が急に真面目になった。
「でさ。課題、終わった?」
「あ」
「おい」
「いや、まあ…一応は。ギリな」
「ギリって言ったな?」
痛いところを突かれて視線をそらす。
夏期講習も行った。けど、塾は決まらなかった。俺も、海斗も。
二人で何度も資料を見たり体験授業に行ったりしたけど、結局「ここだ」と思える場所は見つからなかった。
「まあ、夏期講習は行ったんだけど」
「結局二人して塾は決まらず」
「我ながら良くないよな」
「ほんとにな」
互いにため息をつき、笑うしかない。
けど同時に「ちゃんと考えなきゃな」という意識も胸に残った。
「まあ、それは置いといて。いよいよ文化祭だな」
「おう」
練習に戻りながら、俺はホールの天井を見上げた。
文化祭。楽しみで、怖くて、逃げられない。
紗菜との関係に決着をつけるための舞台にもなるはずだ。
けれど陽菜と一緒に過ごす時間が増えるのも事実。
そのことが、不安を押し返すように心を温めてくれる。
「ここからが本番だな」
小さくつぶやいた声は、ジリジリと鳴く蝉の声にかき消された。
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