第1話 復讐のきっかけ
「タク、お前復縁する気あんの?」
昼休みの部室。親友の守谷海斗の唐突な一言に、俺、上田匠海は昼飯のハンバーガーを喉に詰まらせかけた。
「な、なんの話だよ」
「いや、だってよ。お前のスマホ鳴ってるし、通知見えたし」
海斗が顎でしゃくる。机の上のスマホにインスタの通知が来ていた。
恐る恐る手に取ると、そこには
【会いたい。復縁したい】
胸の奥が、きゅっと縮む。数ヶ月振りに思い出す。嫌な感覚だ。よりによって、元カノからだった。
「最悪だ」
「おお、やっぱり元カノか。つーかさ、よく連絡できるよな。神経図太すぎんだろ」
「同感」
「ブロックしてなかったのか?」
「新しいアカウントでも作ったんでしょ」
返信を打とうとした瞬間、海斗は勝手に俺のポテトを手に取って食べ始めた。
「ちょっ、食うなよ」
「いいじゃん。どうせ食欲無いんだろ?」
「まあ、そうだけど」
俺には、あまり人に言いたくない過去がある。
高一の文化祭で知り合った、他校の女子。
不器用で、少し背伸びして。中高一貫男子校の俺にとっては、そんなこと初めてで、毎日が楽しくて仕方なかった。
クリスマスの日までは。
(思い出すと、また吐き気がする)
軽く咳き込んでしまう。海斗が少し心配そうに俺を見た。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫。夜更かししたから風邪引いたかもな」
「嘘くせぇな」
海斗には全てお見通しのようだ。
「で、復縁すんの?」
「するわけないだろ」
「だよなー。あんな裏切り女に戻るとか、頭イかれてるわ」
「言葉が悪いぞ」
「は? 事実だろ」
海斗は笑いながら肩をすくめた。その軽さがありがたくも、また羨ましくも思う。俺は苦笑して首を振った。
「なぁ、もう一つ言っていいか?」
「なんだよ」
「その元カノ、今年の文化祭に来るらしいぞ」
「は?」
声が裏返る。海斗は面白そうに目を細めた。
「昨日友達から聞いた。本人から聞いたんだとよ」
「信じたくないな」
「だろ? でも本当に来るらしいぜ。いやー、修羅場見れるかもな。俺は楽しみ」
「楽しむな」
「だけどよ、文化祭に来るってもうどうしようもなくねえか?クラスもバレちまってるし。」
頭を抱えたくなる。
復縁を迫ってくるだけでも厄介なのに、わざわざ俺の学校の文化祭にまで来るなんて。
どういうつもりなんだ?
そして俺の気持ちは…
「俺は、復讐したい」
気づけば、口から言葉が漏れていた。
海斗が目を丸くして俺を見る。
「おー、珍しく怖い顔してんな。青春ってやつか?」
「復讐が青春って嫌だろ」
「血の気の多いラブコメ、俺は嫌いじゃないぜ」
「俺は…俺はただ、もう二度と同じことを繰り返したくないだけだ」
「へぇ。なんかカッコつけてんな」
「カッコつけてない。本気でそう思ってる」
俺は顔をより強ばらせた。
海斗はニッと笑って、俺の背中を叩いた。
「いいね。タクのその顔結構イケメンだな。手伝えることがあるなら言ってくれ」
「ありがとう」
部室のざわめきの中、俺は小さく息を吐いた。
あの裏切りを、なかったことにはしない。
俺は、必ず見返してやる。
「少し気持ちも整って、腹減ってきたわ」
「ポテトなら全部食ったぞ」
「おい…」
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