ワンタンスープの8月31日
味や香り、音からふいに始まる風景。
共感覚という光を、サンキャッチャーのように遊び、奏でます。
屋上からのぞけば緑と黄色とオレンジの共存が見えた。
押し付けがましくないスープのお節介を浮力に、卵たちは容器中を泳ぎ回る。
ネギは人参をプール板にして泳ぐ練習をし、一人前を目指していた。
泳げるようになったネギたちは集まると、ミラーボールよろしく旋回し、野菜の地球儀を表現していた。
変わり者の人参はビート板にもならず、ただただ容器を下から上へと移動する遊びにはまっているようだった。
ふくふくと育った黄身の塊は、慣れたものでコロリコロリと遊泳する。
白いレースをスープにたなびかせたプールベッドは、夏よろしく貝のかたちを模していた。
夏のひとときを各々が満喫しているさなかに、来訪者がやってきた。お中元をくれに来たわけではない。
白い陶磁器のレンゲが道場破りするかのごとく、着水する。プールの水温を調節するように、液体が何度もくるくると回され始めた。あっという間に洗濯機状態だ。
これには自由に泳げていた卵もなすがまま。泳ぐ力どころか、方向感覚さえ失っている。
それでも"楽天家な卵"たちは、流れるプールだと言い、水流に身を預けて喜んでいる。
しかし、ネギはたまったもんじゃなかった。
ただでさえ泳ぎ慣れてないプールの中だ。それなのに上下に激しく動くという。しかもワンタン近くにいると勝手に張り付いて、振り回される屈辱さに怒りを感じていた。
ニンジンに至っては、一番冷静であぁもうこの時間がやってきたのかとレンゲの先を見据えている。
ようやく自動洗濯機が終わったかと、レンゲの回転がとまった。
スープが落ち着くのもそこそこに陶磁器のコンダクターはUFOキャッチャーよろしくスープ内をひと掬いしだした。
ワンタンスープ夏休みの終わりがはじまったのだ。