表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宙の彷徨者  作者: Isel


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/198

第94話 選択

何話か前でも言ってましたが、極光の戦士はガチで伝説級の存在です。仮にマッドサイエンティストとかに見つかれば、まず捕獲されて色々調べられるでしょうね

気がつくと、セラは真っ暗な空間の中に居た。とても長い時間が経ったようにも感じるし、思い返せば一瞬であったようにも思える。しかし今見た映像は全て事実であり、全てがセラの失った過去だった。


「あたしが…ルミエイラの兵器…?」


ただ、意外にもセラが動揺しているのはその点と寿命の話だけだった。正直彼女にとっても予想外だが、いざ過去を知ってみれば案外すんなり受け入れられるものだったのだろう。上記の2つ以外は。


「……」


セラの心を最も揺らしているのは、自分がルミエイラの極光の戦士(兵器)として沢山の命を奪って来た事だ。ご存知の通り、セラは争いを好まない温和な性格で、本来なら血を見る事すらあまり好きではない。そんな彼女が過去の話、それも生きる為とはいえ、大勢の命を手にかけて来たのだと知れば、当然何か思う事があるのだろう。


(…この事、リーヴ達が知ったら……何て言うかな。もしかしたら、これでお別れなんて事も……いや、考えすぎだよね…?)


その時、空間に赤黒いグリッジが走り、その中から見知らぬ少年が出て来た。両袖と背面に2本の赤い縦線の入った黒いパーカーと、左肩に赤黒い肩掛けを身につけており、赤いメッシュの入った黒髪を携えた少年だった。


「やぁ。記憶は取り戻せたかい?」

「うん……えっ?だ、誰…?」


セラが当たり前の疑問を投げかけると、彼は少しだけ悲しそうな表情になって呟いた。


「……だよね」

「え?今何て…」


セラの問いかけを無視して、少年は元の不敵な表情に戻って話を続ける。


「ここにはどうやって来たのか覚えてるかい?」

「うん…確か、誰かがここに…そうだ。あたしの記憶から作られた空間に通じる穴みたいなのを開けてくれて、でも…ここに入ったら、帰れる保証は無くて……あれ?あたし…それ誰から聞いたんだっけ…?」

「そんな事は気にしなくていいさ。それより、ほら。見てご覧」


少年は真っ黒い空間に穴を開け、元の次元の光景を映し出した。そこには、大量の魔物に囲まれて苦戦しているクオンと、リーヴを必死に守るアルシェンの姿が映っている。恐らくだが、クオンの技は何かと範囲攻撃が多い為、リーヴを巻き込まない為に手加減していた結果だろう。ともかく、クオン達が徐々にピンチに陥り始めているという事は伝わった。


「…!皆…!」


セラは1歩だけ足を踏み出し、そのまま足を止めた。


(そうだった…ここから帰る方法……無いんだった…)


セラは途方に暮れかけるが、今は丁度隣に何かを知ってそうな者が居る。セラは視界の端に居た少年の方を向き、少し早口で問う。


「ねぇ。元の場所に帰る方法、知らない?どういう力かは分からないけど、あそこの光景を映せたって事は出来る……んだよね?」


その問いかけに、少年は不敵な笑みを浮かべて答える。


「…出来るさ。ほら」


そう言いながら、少年は空間に()()のグリッジの模様が走る裂け目を開けた。


「…なんで2つ?」

「君に選択肢をあげるよ。まず1つ。右の方を通れば、君は元の場所に戻って彼女らを助けられる。そして2つ目。左の方を通れば、君は擬似的に過去に戻れる」

「過去に…?」

「勿論、時間を遡行する訳じゃない。今度は正真正銘、君の記憶から作られた世界だ。不都合な要素は全て排除した…君が戦士として生きていく世界だ。ただし、そこに行けば本当にもう元の世界には帰れないよ」

「…そんなの、決まってるよ!元の世界に…」


急いで右の裂け目に飛び込もうとするセラを、少年はまた手を出して制止する。

()()?またって何だ?少年に会うのはこれが初めての筈だが。


「待ちなって。よく考えてごらんよ。君はさっき葛藤していた筈だ…『仲間に兵器としての過去を知られたらどうなるんだろう』ってさ」

「そ、それは…」


セラは目を伏せて言葉を濁らせる。


「いいの?確かに君が行かなければあの子達は危ない…でも、行ったところで君の旅は終わりを迎えるかもしれない。なら、例え虚構だったとしても…波風立たない世界で生きていた方が良いとは思わないかい?」

「…」


黙り込んで考えるセラを面白がるように、少年はセラに声をかける。


「早く決めないと。あの子達の体力も無限じゃないよ?」


それでも尚、セラは焦りながらも悩んでいた。リーヴ達を助けたいのは本当だ。しかし、行けば過去を明かす事は避けられないだろう。それによって彼女らからの見る目が変わってしまうのが、セラは堪らなく嫌だった。


(あたし…あたしは……どっちを選べば…)


その時、セラはある事に思い至った。


(この子…何となくだけど、左の方に向かわせようとしてる……昔からそうだったな。星と神の為に戦う事も、自分だけ生き残る判断も…あたしの行動は全部誰かに決められて。あたしの意思で重要な決定をした事って、なかったな)

「…」


少年は時折欠伸をしながら、セラの決断を待っている。


「…もう嫌だ」

「答えは…決まったかい?」

「……誰かの思い通りに生きるのなんて…!あたしは…」

「…」

「…あたしがどうなっても、君の思惑になんか嵌まってあげない!」


そう叫んで、セラは右の裂け目に飛び込んだ。

元の場所に転移している最中、セラは今まで感じた事の無い感覚を味わっていた。


「何これ…記憶が戻ったから?身体中に…力が溢れてくる…!」


その時、セラの銀色の指輪は美しい金色に変わっていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方、あの空間に1人残された少年は、セラの速度に感心しながら呟いていた。


「…ハハッ、騙されなかったか。擬似的にとはいえ…もう1つの世界なんて、いくら僕にだって創れる訳がない。もしあの子が左を選んだら……」


その瞬間、左の裂け目から大量の赤黒い刃が飛び出してくる。


「…最悪の結末を迎えさせてあげられたのに」


少年は裂け目を消し去り、セラが飛び込んでいった方を向きながら独り言を呟き続ける。


「あの子は後々面倒になりそうだから、早めに芽を摘んでおきたかったんだけど…失敗か。結局記憶も力も戻っちゃったし……ん?ああ…()か」


そして、少年は突然()()()()を向いてこう言い放った。


「…見せ物じゃないんだよ」

うちのナレーターは時折自我を出します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ