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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第?話 光が消えた日

過去編はどうしてもナレーションが長くなるので、ちょくちょく改行してます

今から4()0()0()0()()()()の事。まだルミエイラに大勢の人が生活していた頃の話。

何の変哲も無い明光族の一家に、1人の銀髪の娘が生まれた。当然その娘にも名前が付けられたが、すぐにその名前は使われなくなった。

何故ならば、彼女が5歳の頃に、ルミエイラにおける最上の名誉とも言える『極光の戦士』に選ばれたからである。特に何かを成し遂げた訳ではない。ルミエイラを治める光の神『シェーム』が、彼女の戦士としての素質を見抜いただけだ。実際、5歳というのは歴代の極光の戦士の中でも異例の若さだった。

そして、昔から『極光の戦士に選ばれた者はシェームから新しい名前と、力を制御する為の指輪を授かる』というのが通例だった。その異例の天才少女は『セリュミエル』と名付けられた。ただ、いかんせん名前が長くて言いにくいので、家族や他の極光の戦士からは『セラ』と呼ばれていた。

セラは名前と共にシェームから授かった金色の指輪を大切にしていて、よく母親に見せては笑っていた。


「良かったわねぇセラ。これからは星の為、シェーム様の為に頑張るのよ?」


セラの母親は、セラの頭を優しく撫でながら言い聞かせる。当時のセラはこの台詞に違和感を抱く事は無く、言われた通りに星の為に戦う事を決めた。

では、極光の戦士とは具体的に何の為に生み出された存在なのか?結論から、かつ一言で言えば『戦闘』、あるいは『戦争』の為である。

ルミエイラは当時の宇宙の中では群を抜いて発展しており、当時は夢のまた夢とまで言われていた星間移動技術も、試用段階まで来ている程だった。そんな発展した文明が他星に狙われない訳も無く、好戦的な星が群を率いてルミエイラに侵攻してくる事が多々あった。極光の戦士の()()()()役目は、そんな外敵からルミエイラを守る事である。幸いと言うべきか、極光の戦士は『1人で1つの文明を容易く滅ぼせる』程の力を持っている為、他星との戦争で犠牲者が出る事はほとんど無かった。当のセラも、幼いながら双剣を手に奮闘し、着々と戦果を上げていった。この頃からセラは、敵の命を奪う事に僅かな抵抗があった。しかし、


(これが…あたしの役目なんだ。早く慣れなきゃ…)


そう思って、何とか戦場に立ち続けていた。

セラは任務が無い時は、散歩をして過ごしていた。戦場で僅かに痛んだ心を癒すにはこれが最適だった。

ある日のセラは、他の戦士の家を訪ねた。特段仲が良いという訳でも無かったが、戦場での色々な事を教えてくれた先輩だった。


(…あれ。あの人…居ない)


セラは一瞬迷子かとも考えたが、彼はもう20歳を超えている為、そんな事はあり得ない。セラはその近所の者に、彼の行方を聞いてみる事にした。


「あの、すみません。ここに住んでた戦士の人は…?」


「ん?ああ…彼なら亡くなったよ、一昨日あたりにね」


「え…」

「…そうか。君はまだ知らないのか」

「何を…ですか?」

「極光の戦士はシェーム様から力を授かる…これは知ってるだろう?」

「はい…」

「でもそれは神の力…つまり、ほとんどただの人間と変わらない僕達にとっては過ぎた代物なんだ。素質を見抜かれた人はその力を耐えられるように肉体を強化してもらえるらしいけど…それでも尚神の力ってのは強大だ。それに耐えられる者が居ないから、極光の戦士は短命なんだよ。確か最長寿の戦士は27歳だったかな?ま、その歳まで生きた人は歴史上に1人しかいないけど。平均的には皆20歳過ぎた辺りで死んじゃうらしいよ」


セラはこの辺りから、ルミエイラに漂う妙な異質さに気づき始めた。その証拠に、戦士の寿命を語る男の顔は一切変化していない。


「けど、それって最高の名誉じゃないか。シェーム様の為に、ルミエイラの為に戦って死ぬ……僕は君が羨ましいよ」


その男の顔はどこか恍惚としていた。色々思う事はあったが、その時のセラが考えていた事は1つだけだった。


(嘘…あたし……もう長くは生きられないの…?)


セラは意外な形で、決して長くはない自分の余命を知った。当時、彼女はまだ7歳だった。

しかし、それからもセラのやる事は変わらなかった。武器を握り、敵を斬り、返り血を浴びてまた敵を斬る…彼女の幼少期は、文字通り血に濡れていた。『役目だから』などと自己暗示をかけても、そう遠くない自分の死が頭から離れない。しかし、彼女が立っているのは戦場だ。


(退けば負ける…負ければ死ぬ。あたしは…今だけでも生きてみせる)


セラは一抹の絶望と決意を胸に、ルミエイラを守る極光として刃を振るい続けた。

そんな彼女に、ある種の転機とも言える出来事が起こった。

セラが8歳の頃、突然ルミエイラに現存する全ての極光の戦士がシェームの下に集められた。当然セラもその中に居た。


(何をするつもりだろう……また戦うの?嫌だなぁ…)


憂鬱さから、セラは俯いていた。やがて、眩い光の中から短めの金髪を携えた青年が現れた。彼こそが、セラに力を与えたルミエイラの実質的な王、シェームである。


「よく集まってくれた。我が兵達よ」


シェームは声高に叫ぶ。辺りを見回せば、100人は超えるであろう極光の戦士が集まっている。これから起こるのは十中八九戦いだろうが、1人で文明を滅ぼせる人間兵器をこんなに集めてまで戦う相手とは一体誰だろうか。


「汝らは今日の為に生み出されたと言っても過言ではない…何しろ、これから起こる戦いはあまりにも大きい。ルミエイラの総力を挙げても勝てるかどうか怪しいくらいだ」


話を展開させるのが遅いシェームに痺れを切らしたのか、1人の戦士がシェームに向かって質問する。


「シェーム様!これから起こる戦いとは、一体何でしょうか!」

「よくぞ聞いてくれた。いいか、これから我々が戦うのは忌まわしき穢れの概念種にして、私が敬愛する聖の概念種『アイオーン』様の宿敵!その名を真月!今から我々はアイオーン様ともう1人の同志と共に真月の下へ赴き、真月を討ち果たしに行くのだ!」


これが、後に聖穢大戦と呼ばれる戦争である。

その時、シェームの背後に白い羽根と共に青年が舞い降りて来た。男にしては少し長めの白髪で、穏やかそうな顔をしている。だが、それを遠目で見ているセラには本能のような物で分かる事があった。


(あの白髪の人、強い……多分あたしどころか、シェームでも勝てないくらい…)


白髪の青年が現れるや否や、シェームは目を輝かせて青年の方を向く。


「ああ、アイオーン様!お久しゅうございます!」


どうやら、シェームはアイオーンに心酔しているようだった。その態度にはもう慣れたのか、アイオーンは少しうんざりしたような表情で言う。


「…真月は別に宿敵ではないのだがね」


そして溜め息を吐いた後、極光の戦士達に向かって叫ぶ。


「皆の者、すまない。我々の取るに足らない諍いに巻き込んでしまって」


アイオーンは礼儀正しく腰を90度に折り曲げた。その態度が、セラは正直意外だった。先程もその片鱗が見えたように、シェームは少々高慢な性格だ。それ故に、セラは神と呼ばれる生物は皆こういう性格なのだと思っていた。


「それでは…さっさと済ませるとしよう。そして…皆で元の日常に戻るんだ」


アイオーンは物腰柔らかく宣言する。唐突に大きな戦いが始まると言われても困惑するだけかと思われたが、意外にもそれに困惑していたのはセラだけだった。


(…何で皆、こんな急な出来事に動じてないの…?)


その理由はただ1つ。ルミエイラの民もまた、シェームに心酔しているからだ。セラ以外の明光族は、例え『今死ね』と命令されても疑う事無く受け入れるだろう。


(この星って…やっぱりおかしいよ)


セラは内心その戦いに行きたくなかった。しかし、それを表に出してしまえば何を言われるか分かったものではない。

こうして、セラは渋々ながら試用段階の星間移動装置を使って亜空間に穴を開け、戦地へと赴いた。いつの間にか、白く美しい長髪を携えたルミエイラ人ではない少女も同行している。これがシェームの言っていた『同志』だろう。

戦地に降り立ったセラは、早速絶望を味わう事になった。


(え……ほ、本当に…あれと戦うの…?)


そこには、セラ達に背を向けて立っている黒髪の青年が居た。察するに、彼が真月という神だろう。その青年から発される魔力は泣き出したくなるほどに悍ましく、セラ以外の戦士達も少なからず慄いていた。


「あれが…相手だと…!?」

「無理だ…あれはこの世に存在していい物じゃない!」


出発前の威勢はどこへやら。セラの前から、背後から、真月に対する絶望の声が聞こえてくる。その声に気がついた真月はゆっくりと振り返った。


「ひっ…」


セラは思わず声を上げてしまった。何故なら、偶然合った真月の目があまりにも異様だったからだ。その目に光は欠片ほども無く、ただ夜空のような黒が広がっているだけだ。勿論白目はある。だから普通の人間とそう変わらない目をしている筈だ。だと言うのに、真月の目はこの世の物ではないような感じがしたのだ。


「アイオーン…それは、私への当てつけか?」

「…」


アイオーンは何も言わない。セラは勿論、アイオーン以外の誰にもその話の流れが分からない。


「…まぁいい」


真月が軽く指を鳴らすと、セラの周囲に赤黒く重々しい斬撃が飛び交った。真月の様子と反してその威力は絶大で、あれほど沢山居た極光の戦士はおろか、シェームと『同志』すら一撃で葬った程だ。セラは本当にたまたま生き残っただけに過ぎず、本人もそれを理解して戦意を喪失してしまった。


「ぁ…」


セラは微かな声を漏らし、武器を取り落として座り込む。すると、アイオーンがセラに向かって叫ぶ。


「君は戻れ!ここに居たところで無駄に命を落とすだけだ!」

「…っはい!」


セラは未だ現状を飲み込めないまま、元来た亜空間に飛び込んだ。


「…死ぬ前の善行のつもりか?」

「どう思われたっていいさ。早く始めよう」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

セラが動揺したままルミエイラに戻ると、家族を含めた大勢の人間がセラを出迎えてくれた。彼らはセラがたった1人で戻って来た事に疑問を抱き、セラを問い詰める。


「他の戦士はどうした?シェーム様は?」

「え…えっと…」


セラは恐れながらも戦況を伝えた。極光の戦士が皆死んだ事。シェームが連れて来た同志も瞬殺された事。セラを問い詰めた人々は、その1つ1つに驚いていた。中でも、彼らが最も反応を示したのはやはり『シェームの死』だった。


「そんな…シェーム様が…?」

「俺達はこれから…誰に着いて生きていけば…!」

「もう終わりだ…戦士も皆死んだんだろう…!ルミエイラは終わりだ!」


その時、セラはようやく自分が抱いていた違和感の正体に気がついた。ルミエイラの者達はシェームに従って生きる事しか知らないのだ。自分の意思など存在せず、ただ彼の示した道を進むだけの存在…シェームが付け上がる訳だ。

それからは早かった。生きる目的も、自分達を守り、導く者も失った明光族達は、錯乱のあまり同族間で争いを始めた。生き残った唯一の極光の戦士であるセラは、その実力を利用せんとする者に毎日のように狙われていた。次第に明光族の数は減っていき、1人、また1人と現実に絶望した者が自ら命を絶っていく。かつて宇宙一と呼ばれたほどに発展した星の姿は見る影も無く、そこに居たのはただ今日の飯を求めて石と木片で殴り合う蛮族だけだった。

幸いにもセラの両親は正気を保っていたが、毎日毎日8歳の娘に守られる自分達が情け無くなって、ある日セラにこんな相談を持ちかけた。


「セラ…お前だけでも、他の星に逃げなさい」

「え…なんで?お父さんとお母さんは、一緒に来てくれないの?」

「大勢が移動できる移動装置は…全て壊されてしまった。残っているのは1人用の試験機だけなんだ…」

「そんなの…やだよ。あたし、1人じゃ何も…」


セラが泣きそうな声で訴えると、母親がセラを抱きしめながら諭す。


「セラ。あなたがこの前教えてくれたのよ?誰かに頼ってるだけじゃダメだって。私達は気づくのが遅すぎたけれど…あなたはまだ間に合う。少し早いけど…独り立ちの時よ」

「……どうしても?」

「そうよ。私達だって本当は一緒に行きたいけれど…ここは、未来のある若者に譲るわ」


両親の目には確かに光が宿っていた。それが揺るがない決意を表す物だという事は、セラにもしっかり伝わっていた。


「……分かった。あたし…行くよ」

「それで良い。試作機はもう家の裏に持って来てある。早く乗って、お前だけでも生きるんだ」

「あら、準備がいいのね」

「娘の命がかかってるからな」

「そういえば、食料とかは大丈夫なの?」

「コールドスリープ機能付きだ。腐ってもルミエイラの技術だからな、数千年は大丈夫だろう」


セラは星間移動船の試作機に乗り込み、蓋を閉める。その蓋越しに、両親の少し籠った声が聞こえる。


「さようなら、セラ。愛しているわ」


それが、セラの聞いた最後の両親の言葉だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…お父さん、お母さん」


遠ざかっていく意識の中で、セラはポツリと呟いた。未だに全てが夢のように思える。アイオーンはどうなったのだろうか。両親は無事だろうか。そんな雑多な想いに耽っていると、突然警告音が船内に鳴り響いた。


「えっ…びっくりした。何?」


狭い船内に響く警告音は酷く煩く、セラは何とか止めようとする。しかし、顔の横辺りのモニターに表示されている文字はまだ難解で読む事が出来ない。


「もっと真面目に勉強してればよかった…」


そして、試作段階の星間移動船は何かのトラブルで停止し、セラは老いる事の無いまま船ごと宇宙を漂う事になった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして数千年程経った頃、とある砂に覆われた星に1つの小型船が落下した。


「何だい、大きい音がしたと思ったら…隕石?いや、中に人が…?」


たまたま近くに居た女性が船の扉を開けると、双剣と共に眠っている少女が出て来た。


「こ、子供…!?何で…」


分からない事は沢山あったが、見てしまった以上はこのまま置いていく訳にもいかないので、とりあえず家に連れて帰った。

それから、女性は目を覚ました少女に色々な話を聞いた。自分は違う星から来た事。それ以外の事はほとんど覚えていない事。そして自分が『セラ』という名前だという事。

それから更に9年ほど経ったある日。散歩に出ていたセラは、道端で灰色の髪をした彷徨者と出会った。

キャラクタープロフィール

【清明の源善】アイオーン

種族 概念種

所属 なし

権能 正の概念とそれを連想させる全てを司る力

好きなもの この世界の全て

嫌いなもの なし

作者コメント

コイツの事を語る余裕が無かったのでこの場を借りて語ります。ざっくり言うと真月と対を成す存在で、真月と一緒にこの宇宙が生まれた瞬間に誕生した最初の生命にして最初の神。これ以上は前作のネタバレになるので言えませんが、要望があれば語ります。とりあえず、「アイオーンと真月が戦ったんだな」って思ってもらえれば大丈夫です。


それとセラちんが喘息になった原因なんですが、あれは本人が記憶喪失になった影響で生まれつきだと思い込んでいただけで、実際は砂漠の星の環境が原因で気管支に色々起こしたせいです。

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