第93話 しんじて、まつ
またコイツら引き離されてるよ
セラが謎の渦の中へと消えていってしまい、リーヴは動揺する。しかし、セラを心配している余裕も無い程に早く、どこからか魔物の群れが押し寄せてくる。
「リーヴさん、私達から離れないでください…!」
「う、うん……その…セラは…」
「セラさんなら大丈夫です。ですから…信じて待ちましょう、あの人が帰ってくるのを。万が一帰って来られなくても…まだ手はありますから」
やはり、クオンはこういう時に何かと安心させてくれる。その言葉でリーヴも落ち着きを取り戻し、いつも通りの守られる姿勢になった。
「…わかった。セラを信じて、待とう」
「それよりも先にこの魔物さん達ですよ!」
アルシェンは杖を地面に突き立てて、淡い虹色のバリアを周囲に展開する。そのバリアは、魔物達の爪や魔法からリーヴ達を守っていた。
「数が数なのでそこまで時間は稼げません…クオンちゃん、大丈夫ですか?」
「私は問題ありませんが…リーヴさんが私の攻撃に巻き込まれてしまうかもしれません」
「わたしだけ、走って離れた方がいい?」
「それが1番危ないですよリーちゃん!」
「むぅ…そっか」
その時、アルシェンのバリアに一筋のヒビが入った。
「もう長くは保たないです…!わたしがリーちゃんを抱えて、頑張って魔物の群れを飛び越えましょうか?」
「そんなこと、できるの?」
「やった事はありませんが…一応風魔法は使えるので、火事場の馬鹿力で…!」
アルシェンは細っそい腕で力こぶを作るが、それをクオンが止める。
「…いえ、ここは私が力加減をする事にしましょう。不確定な要素はなるべく無いようにしたいですから」
そして程なくしてバリアが割れた。それと同時にクオンは濃藤色の魔力を纏い、紫の美しい花で左目が隠された姿に変身して上空に飛び上がる。
「クオン、いきなり本気だ」
「アルシェンさん、もう一度バリアを!」
「は、はい!」
アルシェンは、言われた通りに再びバリアを貼る。今度は強度を重視したので、リーヴと自分の周りをギリギリ囲える程度の大きさだ。
「これで大丈夫なはずです!ある程度は加減しなくても良いですよ!」
「ありがとうございます…!」
少し安心したように微笑み、クオンは魔物の群れを豆腐のように容易く斬り倒していく。時折紫色の光が見えたり、クオンが起こしたであろう爆発音が聞こえるが、少し周囲が揺れる程度でアルシェンのバリアには特に損傷は見受けられない。
「クオンちゃん…話には聞いていましたが、本当にお強いですね…!」
「ふふん。そうだよ」
何であんたが誇らしげなんだ。
「ここはクオンちゃんに任せるとして…」
そう言うと、アルシェンはセラが先程まで居た場所を見つめ始めた。
「セラちゃん…無事だと良いんですけど」
「…きっと、大丈夫。わたし達にできるのは…セラが帰ってくるのを、信じて待つだけ、だよ」
その時にアルシェンがふと目を向けたリーヴの横顔は、いつもよりもずっと勇ましく見えたという。
「…そうですね」
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その頃、セラは見慣れない空間に居た。意識がぼんやりしていて、何かの映像が空間に絶え間無く映し出されている。
「……あれ…あたしは…」
足場の感覚が無いのに何故か立っていられる。誰から聞いたのかも覚えていないのに、ここが『自分の記憶から作られた空間』だと分かる。そんな疑問を抱えながら、セラは記憶空間を揺蕩っている。
「ここ…どうやって来たんだっけ。確か誰かが、突然目の前に出て来て…?」
セラは頭を抱えながら思い出そうとするが、脳にモヤがかかっているかのように思い出す事が出来ない。
「この映像は一体…?」
流れている映像は様々で、そのどれもが古い映写機で映しているかのような映像だった。右上の映像には幼い銀髪の子供が、眩い光に向かって歩いていく映像。左下の映像には双剣や槍を構えて何かと戦う少年少女が映っていた。
そして至る所で流れている映像は、何故かそれを見ているセラに頭痛を引き起こさせた。
「うっ…!」
(多分…これ、あたしの過去に関係あるんだ。だから頭痛が……)
「…なら、痛くても見なきゃ」
セラがそう決意した時、散らばっていた映像が一箇所に集まっていく。今、彼女の過去が明かされる。
今回出てきた技
アルシェン
・護印 彩虹の庇護
→バリア。ただそれだけ。範囲を広げると強度が落ち、範囲を狭めると強度が上がる。




