第92話 記憶の中へ
聖穢大戦は第1章においてそこそこ重要です
いや物語の根幹に関わる度合いで言ったら「そこそこ」レベルじゃないかもしれない
リーヴ達は、引き続きセラの過去に関する何かを求めて廃都と化したルミエイラの地を歩いている。
4人は、先程まで居た広場から少し遠くの方に見えた祭壇のような場所に向かっている。その道中、ふとアルシェンが口を開いた。
「そういえば、ここって何で滅びたんでしょうね」
「真月はなにかしら関係してるっぽかったけど、ね」
「真月……この前聞いた話によれば、突然リーちゃんを殺した悪い神様ですよね…」
「うん。すっごく強くて…こわい」
「あの…少し良いですか?」
控えめに手を挙げて声を上げたのはクオンだった。
「どうしたの?」
「この星が滅びた理由についてですが…真月はあまり関係ないかと思います」
「なんで?」
「皆さんも知っての通り、あの方の実力は凄まじいです。決して弱くはない筈のセラさんどころか、私やサンサーラでさえ足元にも及ばない程に…」
「うん…それは、よくしってるよ」
「だからこそ…細かい事情などは分かりませんが、真月が本気でこの星を滅ぼそうとしたのなら…このように建物の残骸や地面の原型が残されている事自体、まずあり得ないと思うのです」
「確かに…真月って敵に対しては全く容赦しないもんね。この星も真月の敵として見られてたのなら、今あたし達がここに居る事がおかしいって事か…」
セラはクオンの考察に感心しながら頷いている。
「じゃあ、尚更なんでルミエイラはこんな風になっちゃったんだろう」
「それは……後回しにしましょう。今はセラさんの件の方が大事ですから」
それから、一行は休憩も兼ねて近くの廃屋に入った。目的地は肉眼で見える場所ではあるが、思っていたより遠かったようだ。
「ふぅ…ルミエイラ、結構広い、ね」
「セラちゃん、どうですか?何か思い出せそうですか?」
「うーん…ごめん、まだ特には…」
「そうですか…まぁ、時間は沢山ありますし。ゆっくりで良いんですよ」
「ふふ。こういう時、わたし達の『旅の目的が無い』っていうのが、役に立つね」
人間組3人が和やかに話している時、クオンは室内の奥の方にあった本棚を漁っていた。それらしい歴史書のような物を手に取り、静かにページをめくっていく。
「皆さん、これを見てください」
数分ほど経った時、クオンはリーヴ達に声をかけた。何やら気になる記述を見つけたようだ。
「ここです、このページ…」
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第 章 極光の戦士
・ルミエイラには明光族の中から年に1〜3人程が選ばれ、その者達がシェーム様から直々に光の権能のコピーのような物を授かる儀式がある。これによって力を授かった者は『極光の戦士』と呼ばれ、これに選ばれる事は明光族の中でも1番の名誉とされた。
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「極光の戦士…わたしがさっき見つけたやつです。神の権能を身体に宿してるって事ですかね…?」
「なんか、つよそう」
「はい。私も会った事はありませんが…噂程度に聞いた事があります。極光の戦士達は個体差はあれど、1人で1つの文明を容易く滅ぼせる程の実力があった、と。この事を知っている者は多くありませんが、一部の学者などには伝説級の存在として扱われています」
「そんなひとが、年に数人生まれてたってこと…?」
驚いたような表情を浮かべるリーヴの横で、セラは少し深刻そうな顔をしている。
「…何の為に、そんな人間兵器みたいな物を生み出してたんだろう」
「わかんない、ね」
「というかクオンちゃん本当に物知りですね」
「うふふ。伊達に長生きしてませんから…」
新たな情報と疑問を手に入れたところで、4人は再び出発した。そこからは特に何も無く、20分ほど歩いてようやく祭壇の目の前にやってきた。階段の上には消えた篝火が幾つもあり、その更に奥には謎の壁画がある。
「やっと着いた、ね」
「さっきの極光の戦士の話から考えれば、もしかしたらここで権能の授与が行われていたのかもしれませんね」
「そうじゃなくても、ここは何か重要そうな雰囲気を感じます…!セラちゃん、何か思い出せ……セラちゃん?」
アルシェンが振り返るも、そこにセラは居なかった。すぐさま前を向き直すと、そこにはいつの間にか祭壇の階段を登っていくセラの姿があった。
「…」
「セラ…?どうしたの?」
「……やっぱりそうだ…ここは……」
リーヴの声など聞こえていないかのように、セラは何かを呟きながら壁画や篝火を見回している。
その時だった。
「こんにちは。皆お揃いのようだね」
セラの横の空間に赤黒いグリッジが走り、その中から見知らぬ少年が現れた。両袖と背面に2本の赤い縦線の入った黒いパーカーと、左肩に赤黒い肩掛けを身につけており、赤いメッシュの入った黒髪を携えた少年だった。
「あの子…!」
リーヴは少し顔を顰めて、少年を警戒する。
「リーヴさん、あの少年と知り合いなのですか?」
「あ…うん」
(…やっぱり、あの子のこと覚えてないんだ。これだと、多分セラも…)
知り合いとはいえ、リーヴが警戒しているのを見てアルシェンもその少年の魂を見てみる。すると、奇妙な事が起こった。
「…?リーちゃん、クオンちゃん、変です!」
「なにが?」
「あの子、魂が無い…いや、見えないんです…!」
「見えない?そんなことあるの?」
「初めてですよ…!何かモヤがかかっているようで…とにかく、あの子の魂は見えないんです!」
リーヴは一瞬クオンを頼ろうとしたが、魂の専門家であるアルシェンがそう言うのだから、専門外であるクオンにはどうにも出来ないだろうと思ってやめた。
「…君は…?」
「名前なんて名乗らないよ。どうせ……いや、用件はそれじゃない」
少年は虚空に手を翳し、端に赤黒いグリッジの走る禍々しい色の渦を作り出した。そこからは魔力の風が噴き出ており、正面に立っているセラは少し後ろにのけ反る。
「これは…何…?」
「これは君の記憶から作られた亜空間…名称を付けるなら……いや、どうでもいいか。単刀直入に言えば、この先に向かえば君は記憶を取り戻せる」
「…!なら…」
セラは迷わずに足を一歩踏み出す。しかし、少年がセラの前に腕を突き出してそれを制止する。
「待ちなよ。あるのはリターンだけな訳無いだろ?」
「…じゃあ、何が危険なの?」
「ここに入れば最後…自力で戻って来られる保証は無い」
「特に原理とかは無いよ。ただそういう機構ってだけさ」
「「え…」」
その驚嘆の声は、奇しくもセラとリーヴが同時に発した物だった。
「あなたは…あなたは何が目的なの!セラをそんな危ない場所に…!」
「僕は協力しているだけだよ、この子の『記憶』の為にね。でも…リスクが無いのはつまらないし、僕にメリットが無い。だから楽しませてもらうのさ、この子の選択をね。せいぜい悩めばいいよ」
そう言うと、少年は指を『パチッ』と鳴らしてからグリッジの中に消えていった。セラは呆然と渦の前に立ち尽くしている。その時、突然アルシェンが叫んだ。
「…!遠くの方から魔物の魂が近づいてきています!それもかなりの量…皆さん警戒を!」
アルシェンとクオンはそれぞれの武器を構えて、襲い来る魔物を警戒する。一方、セラは依然として渦の前から動かなかった。
「セラ…!」
リーヴはクオン達に守られながら精一杯の声で叫ぶ。今度はその声が聞こえたのか、セラはリーヴの方を一瞬振り向いた。
「リーヴ…」
内心の話ではあるが、セラは葛藤していた。
(本当なら…あたしだってリーヴを守る為に、戻らなきゃいけない。でも今戻ったら…永遠にあたしの記憶は戻らないかもしれない。今のあたし達には、クオンとアルシェンが…頼れる仲間が居る。この時だけ、あたし1人居なくたって…)
そして、セラはまた渦の方を向き直り、小さく呟いた。
「…ごめん」
「まって、だめ…!セラ!」
その叫び声は届く事無く、セラの姿は禍々しい渦の中に消えていった。程なくして、その渦も消えた。
「リーヴさん、私から離れないでください…!」
何かを思う間も無しに、魔物の波が押し寄せてくる。
小話 〜ルミエイラ編の流れ〜
ルミエイラでちょくちょくと大事そうな設定の解説が入っているのは、今後のとある回があまりにも説明文になりすぎてしまうからです。基礎知識だけでもここで伝えておかないと設定資料を読ませる事になってしまいます




