第91話 意外な名前
アルシェンに呼ばれて、リーヴは廃屋の書庫から出て仲間たちの下に向かった。セラ達は全員、瓦礫と化した住宅街の中の広場のような場所に集まっていた。
「みんな、なにかわかった?」
リーヴが司会者のように聞いた後、最初に手を挙げたのはクオンだった。
「では、私から…」
クオンは、先程リーヴが見ていた物と同じくらい古びた書物を手に持って前に出た。
「些細な事ではありますが、この書物によれば、『聖穢大戦』と言う戦い…これが、この星が滅びた要因に関わっているそうです」
「聖穢大戦?」
「何千年も前に起こった、神同士の古い戦争の事です。その規模は大きく、戦場となった星の周辺の星が幾つも消滅するに至ったそうです」
「あ、そっか。クオンは長生きだからその戦争の事も知ってるんだ」
「はい。ただ、私はそれに関わっていた訳ではないので、その程度しか知りませんが」
「なら、その本をよんだらもっと詳しく知れるかも、だね」
リーヴはクオンから書物を受け取り、有用な記載があるページを探して開いてみる。
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第 章 聖穢大戦
・聖穢大戦というのは、我らルミエイラの民が信仰する光の神シェーム様の主君であり『聖』の概念種でもある『アイオーン』様と、そのアイオーン様と対を成す存在である『穢れ』の概念種、真月との戦争の事で…(この先は掠れていて読めない)
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「「まっ……真月…!?」」
リーヴとセラは、思わず声を漏らしてしまった。
「真月って…そんなにすごい人だったんだ」
「…考えてみれば当然です。あの方から感じた死の気配は…他の何よりも濃く、そして澱んでいましたから」
「それにしても意外過ぎるよ……それに、ここに名前が出てきたって事は…あたしの故郷は真月に…」
セラは珍しく怒りを表した表情を浮かべる。当然だろう、ここ最近の彼女は何かと真月に迷惑をかけられている上、故郷の滅亡にまで関わっているかもしれないと来れば尚更だ。
「セラさん、まだそうとは決まってませんよ。関わっているのは確定ですが…」
「…うん。ごめん、話逸らしちゃって。他に何か分かった事はある?」
「あるよ。ちょっとだけど。この星はルミエイラって名前で、シェームっていう神を信仰してたんだって」
「シェーム…」
セラは聞き覚えがあるかのような素振りを見せる。
「…うん、ありがとう。アルシェンは?」
セラがアルシェンの方を向くと、アルシェンは少し申し訳無さそうに俯いた。
「すみません、まだほとんど何も分かってなくて……せいぜい、この星に『極光の戦士』と呼ばれる存在が居た事くらいで…」
「いいよいいよ。頑張ってはくれたんだもんね」
セラはアルシェンの頭を撫でながら、優しく声をかけている。その様子を見て、リーヴはクオンに耳打ちする。
「…クオン」
「はい」
「セラって…アルシェンのこと、妹かなにかだと思ってる、よね」
「まぁ……でも、確かにアルシェンさんって妹のようですよね。愛らしいですし」
「わかる。アルシェン、かわいいからね」
アルシェンをわしゃわしゃした後、セラは『自分の番』とでも言うようにリーヴ達の方を向いた。
「皆、見てほしい物があるの……これ、何か分かる?」
セラが取り出したのは、いつもセラが戦闘に用いている双剣だった。ただし、心なしかいつもより古ぼけているような気がする。
「わかるよ。セラの武器、でしょ」
「…」
セラはリーヴの言葉には応えず、代わりに亜空間からもう1つの双剣を取り出した。いつもセラの戦う姿を見ているリーヴやクオンには一目で分かった。これこそが、セラが愛用している双剣だと。
「セラの武器…2つあったの?」
「ううん。あたしの武器は1つだけ。これは…さっきの情報収集の時に、その辺に落ちてたの。それに…」
セラは『さっき拾った』双剣の柄頭の部分を向かい合わせ、それを繋げて双頭剣のようにする。最近は使っていなかったが、これがセラの武器の最大の特徴だ。
「あたしのと…同じ事が出来るんだよ。疑ってた訳じゃないけど…やっぱりここはあたしの故郷なんだ」
「でも…セラってあの星に来た時はまだ8歳くらいだったんでしょ?なんで武器と一緒に…」
「不思議ですね…それに、そのシェームという神はどこに行ってしまったんでしょうか…」
「…分からない事が多すぎますね」
一同は仲良く首を傾げて考え込んでいる。しかし、分からない事を考えたところで分からないという事が分かるだけだ。
「みなさん、あまり考え込んでいても仕方がありません。ここはとりあえず、この周辺を散策してみませんか?何か新しい事が分かるかもしれませんよ」
数分ほど唸ったところで、アルシェンが提案した。
「そうですね…行きましょうか」
「なら、あの奥に見えてる祭壇っぽいところまで行こうよ。いかにも何かありそうだし」
こうして、4人は再びルミエイラを散策しながら、セラの過去を探り始めた。




