第90話 故郷
もうそろそろ第1章も終盤です
アルシェンという新たな仲間を迎えたリーヴ達星間旅団は、例によって新しい星へとやってきた。
今度の星には人が居ないようで、あちこちに建物の残骸が転がっている。どうやら昔はかなりの数の人が住んでいたようだ。
「ここは…凶月教と交戦した星に雰囲気が似てますね」
「だね。ここにも誰か…変な人がいるの、かな」
「いえ、大丈夫だと思います。周囲に魂は感知出来ないので」
「よかった…今回は変なことに巻き込まれなさそうだよ、セラ……セラ?」
その時、リーヴはセラが数歩程後ろで立ち止まっている事に気がついた。
「セラちゃん、どうかしましたか?」
「…ここ、覚えてる」
「え?」
「まだよく思い出せないけど、多分ここ…あたしの故郷だよ」
「セラちゃんの…?」
「うん、そう。わたしがセラと出会った星は、セラが生まれた場所じゃなくて。セラはわたしを守るついでに、自分の過去を知る為に旅に出たんだよ」
「初耳ですね…それに、セラさんの故郷がこのような廃星だなんて…」
「…皆、申し訳ないんだけど…ちょっとあたしに付き合ってもらっていいかな。せっかく来れたから、あたしについて知れる事は知っておきたいの」
いつも通りの澄んだ声で、かつどこか決意を感じさせる口調でセラは言った。
「うん。いいよ」
「では、手分けしてこの辺りでこの星に関する手がかりを探しましょう」
クオンの提案の通り、4人は手分けして瓦礫や廃墟の中から何か有用な物が無いか探していた。
しばらくして、廃屋の書庫の中に居るリーヴは何かを見つけたようだ。
「あ、これ……分厚い本だ。題名は…『ルミエイラ』の…?だめだ、掠れててわかんない」
『中を見れば題名も大体分かるだろう』と考えたリーヴは、その分厚い本の表紙をめくってみる。
ーーーーーーーーーー
第1章 ルミエイラについて
この星の名は『ルミエイラ』と言い、光を司る神『シェーム』を信仰する星である。ルミエイラの民は俗に『明光族』と呼ばれており、全員光の魔力に対する高い適性がある事が特徴だ。それ以外は普通の人間と同じであり、寿命もあれば特に頑丈という訳でもない。しかし、1つだけ例外が存在する。それは…(この先は破れていて読めない)
ーーーーーーーーーー
「ふぅん…この星、ルミエイラって言うんだ」
リーヴは本を元あった場所に戻して、他の物を見つける為に後ろを向く。すると、そこには見知らぬ少年が立っていた。両袖と背面に2本の赤い縦線の入った黒いパーカーと、左肩に赤黒い肩掛けを身につけており、赤いメッシュの入った黒髪を携えた少年だった。
「あなたは…!」
リーヴはその少年に見覚えがあるらしかった。リーヴはその少年に対して、少し警戒したような表情を向けている。
「…まだ生きてたなんてね。余程悪運が強いようだ」
「わたしに…なんの用?」
「用なんて無い。少なくとも君には。ただ…強いて君に伝えるならば、あの銀髪の子の事だ」
「セラがどうかした?」
「あの子、もうすぐ過去を思い出すよ。僕は全てを知る者じゃないけど…それは分かる。何せ…ふふっ」
少年は何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる。
「過去を思い出すって…なにか悪いことなの?」
「必ずしもそうとは限らないさ。でもあの子にとっては……いや、黙っておくとするよ。『知ってる』ってのはつまらないからね」
そう言い残して、少年は全身にグリッジを走らせてどこかへと去ろうとする。リーヴはそれをただ見つめていたが、去り際に少年はこんな事を呟いた。
「…待て。何故君は…僕を覚えていられる?」
「え…?今なんて…」
リーヴはどういう訳か虚空に手を伸ばしたが、そこには当然何も無かった。
「……あの子、何なんだろう」
リーヴの言う『あの子』とは一体何だろうか。
その時、遠くの方からリーヴを呼ぶ声が聞こえてきた。
「リーちゃーん!どこですかー!一旦集まりましょー!」
相変わらず元気いっぱいな、アルシェンの声だ。
「…はぁい」
(あの子のことは後で考えよう、今はセラの過去の方が大事だから、ね)
リーヴは恐らくアルシェンには聞こえていないであろう声量で返事をして、廃屋から出て行った。




