第89話 新たな仲間は支援役?
久しぶりの平和回なので書き方を忘れています
平和回のリハビリも兼ねた話です
アルシェンが星間旅団に同行する事が決まった翌日。旅団はサンサーラと浮月の地に別れを告げて、別の星へやってきた。
少し遠くに街が見える荒野にて、4人になった旅団が雑談している。どうやら、新しく入ったアルシェンが改めて自己紹介をしているようだ。
「改めまして、アルシェンと申します!サンサーラ先生のところでは送魂に関する事の他に、医学や生物学などを学んでいました!不束者ですが、どうか…」
やたら堅苦しい挨拶をするアルシェンに、リーヴは微笑みながら言う。
「そんなにかしこまらなくていい、よ。わたし達だって、ただ気ままに旅をしてるだけだから」
「そうだよ。あたし達の旅には、大した目的も理念も無いからさ。旅のついでに出来たらいいなって事はあるけど…」
「流石はサンサーラの弟子ですね。とても良い子に育っています」
「あれ?エタナクス……さんは、先生と仲があまりよろしくないのでは…?」
「送魂士の方が皆良い人だという事です。サンサーラの影響を受ければ、まず他人に対して誠実に向き合う事などあり得ませんし」
「それは言い過ぎじゃ…」
セラは苦笑いである。
「それと…その……私の事も、『さん』付けで呼ばなくて結構ですよ?どうか、私の事はクオンとお呼びください」
「いいんですか?」
「はい」
「じゃあ…クオンちゃんって呼びますね!」
似たような事が出来るが故に波長も合うのか、2人は既に少し仲良くなっていた。
「あ、そうだ。旅をする上では戦う事もあるでしょうから、わたしが戦闘において何が出来るのかお見せした方が良いですよね?」
「確かに……けど、アルシェンって戦えるの?」
セラの言う通り、確かにアルシェンは一見すると戦えるようには見えない。
「杖もってたし、サンサーラみたいなおっきいアレ出したりする、の?」
「いえいえ、先生の天将のような眷属を使役するには、流石に魔力が足りな過ぎますよ」
アルシェンは苦笑いしながら手を横に振る。そして、人差し指をピンと立てながら説明を始める。
「わたしが出来るのは、戦う皆さんの支援です!」
「しえん?ってなに?」
「そうですね…例えば、皆さんの傷を癒したり、一時的な強化を施したり出来ます!」
「考えてみれば…旅団って攻撃役の人しか居ないよね」
「強化……ってことは、もしかしてわたしも戦えるようになったりする?」
「分かりませんが…実は少し気になってるんです。戦えないリーちゃんに強化を施したら、どこまで出来るようになるんだろうって」
「おー…たしかに気になる、ね」
「やってみようよ、時間は沢山あるし」
「では、何かサンドバッグになる物を探しましょうか」
こうして、アルシェンの興味からリーヴの身体能力の限界に挑戦する事になった。
「魔物……は、流石にかわいそうだよね」
今まで割とサンドバッグにしてたけどな。
「普通にその辺りの岩でいいんじゃないかな?」
「そうしよっか」
その後、旅団はサンドバッグに丁度良さそうな岩を見つけた。
「ではリーちゃん、思いっきりこれをパンチしてみてください」
アルシェンが軽く右拳を素振りする。
「うん、わかった……えいっ」
リーヴが持てる力を全てを用いて岩を殴りつけると、『ぺちっ』という弱々しい音が鳴った。
「…いたい」
リーヴは赤くなった拳をさすっている。
「大丈夫ですよ〜」
アルシェンが杖を取り出して回復魔法を放つと、虹色の光がリーヴの手を包んでいき、即座に赤みが引いていった。
「わ、いたくない。アルシェンすごい」
「これから怪我した時はわたしに言ってくださいね〜」
続いて、アルシェンが杖を掲げて強化魔法を発動させる。すると、今度は虹色の光がリーヴの全身を包み、リーヴの中に力が溢れてくる。
「どうですか?」
「おー…ちょっと力が強くなった……気がする」
リーヴは手を握ったり開いたりしながら、不思議そうに右手を見つめている。
「では、さっきと同じようにパンチしてみてください」
「うん……えいっ」
すると、岩から『バチッ』という音が鳴った。ちなみに、岩自体にはヒビ1つ入っていなかった。
「…?」
「…?」
「…?」
「…?」
4人とも、先程と何が違うのか分からなかったようだ。強いて言うなら音が違ったが、ここの全員はそれに気づける程の聴覚を持ち合わせてはいない。
「なにか…かわった?」
「いや……何も変わってない…よね?」
「そんな事があるのでしょうか…」
「あ、でも見てください!さっきよりパンチした手の赤みが薄いですよ!」
「それは誤差なんじゃ…」
「…ちょっと面白くなって来ましたね。リーちゃん!色々試させてもらっても良いですか?」
アルシェンもサンサーラの下で学問に励んでいた学徒だ。それ故か、一度好奇心に火が着いたら中々止まらなくなるのだ。
結局この後もリーヴはアルシェンの支援魔法の実験台となり、翌日は筋肉痛で動けなかったそうだ。
ちょっと長めの豆知識
実は神器や眷属を創る事「自体」は神じゃなくても出来ます。ただ、神がそれ以外の生物と決定的に違う点の1つに「魔力量」がありまして。それ故、実質的に神器や眷属を創れるのは神だけという事になるのです。裏を返せば、神に匹敵する魔力量があれば別に人間でも眷属を使役出来るのです。




