第86話 おしごと
アルシェンの身長は162cmくらいです
リーヴとセラは、『せっかく知り合ったのだから』というサンサーラの勧めもあって、アルシェンの送魂に着いて行く事にした。
相変わらずニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべているアルシェンは、2人の名前を聞くと何かを思いついたように提案する。
「そうだ!2人ともリーちゃんとセラちゃんって呼んで良いですか?」
「全然いいよ。えへへ…あたし、『ちゃん』って呼ばれるの初めてだから…嬉しいな」
「ふふ。かわいい響き、だね」
そんな他愛もない話や、自分達の旅の話などをしながら3人は竹林の奥へ歩を進めて行く。
10分ほど歩いた頃、先頭を歩くアルシェンが立ち止まって前方を指差した。しかし、リーヴとセラの表情は明るくない。
「着きましたよ!あそこが今日最後の仕事現場です!」
「えっと……本当に、ここで合ってるの…?」
「ふふ…ぼろぼろ、だね」
アルシェンが指差した先にあったのは、全体が黒く煤けた廃墟だった。霊関係の場所ならば普通こういう物だと思うが、逆にリーヴとセラはどういう場所を想像していたのだろうか。
「大丈夫ですよ、怖がらないでください。わたしが先頭を歩きますし、もしトラブルが起こったら先生を呼びますから!」
それを聞くと2人は少し安心したようだ。その時、リーヴはふと気になった事を聞いてみる。
「ね、アルシェン」
「はい?」
「なんで、アルシェンはサンサーラのことを『先生』って呼ぶの?」
「ああ、それですか。先生はわたしに、送魂に使う魔法などを教えてくれた方だからです。それだけではありません…身寄りの無かったわたしを拾って、ここまで育ててくれたのも先生なんです!」
「なるほど、恩人って事だね」
「はい!それでは、そろそろ行きましょう!」
3人は廃墟の中へと入っていった。入る寸前で一瞬だけセラが立ち止まったが、それに気づく者はいなかった。
「おお……暗い、ね」
廃墟の内部は『いかにも』と言った雰囲気が漂っており、迷魂や幽霊が出るなら正にここであろう。ところで、迷魂と幽霊って何が違うのだろうか。
「2階から迷魂の気配を感じます…この廊下の先にある階段から、2階に上がりましょう」
アルシェンは右を向いて、少し長めの廊下の奥を指差した。
「こ…ここ歩くの…?」
ご存知の通り、セラはホラー系の物が苦手だ。リーヴに着いてきたは良いものの、正直なところここまで怖そうな雰囲気の場所だとは思っていなかったのである。
「セラ、こわいの?」
「…うん」
「ふふ、かわいいね。わたしにくっついても、いいよ?」
「じゃあ……そうさせてもらうよ」
セラはリーヴの右半身にピッタリとくっつき、そのリーヴはアルシェンの後ろを歩いて行く。
少し歩いた時、背後から『バシャン!』と何かが割れるような音がした。
「わぁっ!」
セラは身体を跳ねさせながら驚き、小刻みに震えながらリーヴにしがみつく。
「…大丈夫、だよ。蛍光灯が、おちただけ」
「うぅ…ごめん…」
そして再び歩き始めて数分後、3人が進もうとしていた道に謎の板が倒れてきた。
「ひゃっ…!」
「…これは、横の部屋のドア、だよ」
「え……あ、本当だ」
「まぁ、こういう場所の雰囲気って怖いですよね…わたしはもう慣れちゃってますが」
「ごめんね…早く行こう、あたしの為にも…」
そうして3人は2階に上がった。すると、その瞬間アルシェンが言った。
「居ましたよ…!あの方です」
だが、アルシェンの指差した先には何も無く、1階とさほど変わらない廊下の風景が続いているだけである。
「…なにもいない、よ?」
「多分、魂だからあたし達には見えないんじゃないかな」
「正解です!これをどうぞ…!」
アルシェンが2人に手渡したのは、謎の模様が描かれたお札だった。
「ふふん。わたし、わかる。これを使えば、迷魂が見えるようになる、でしょ?」
「はい!ちなみに、どうやって使うかは分かりますか?」
「食べる」
「もう、そんな訳無いでしょ…」
セラは呆れたように笑っているが、アルシェンは目を輝かせながらリーヴに拍手し始める。
「すごいですよリーちゃん!正解です!」
「「えっ」」
リーヴも冗談のつもりで言ったのだろうか。
「大丈夫ですよ!食べられる素材で作っているので!」
それは果たして『お札』と呼べるだろうか。
2人は若干躊躇いながらお札(?)を食し、迷魂の姿を見えるようにした。すると、2人の目の前にはボロボロの衣服に身を包んだ髪の長い女性が立っていた。
「そういえば、送魂ってどうやるの?お話きいたりする?」
「いえ。わたしの役目は、あくまでも迷魂を奈落に送り届ける事なので。未練を晴らしたり、魂と対話したりするのはタナトス様のお仕事です」
「へぇ…って事は、何か儀式みたいな事をするの?」
「はい!別に襲われたりはしないので、そこで見ていてくださいね…」
アルシェンは迷魂に歩み寄っていき、水色の杖を取り出して何かを詠唱し始める。
「彩虹よ、迷える幽魂を導き給え…」
すると、迷魂の足元に虹色の魔法陣が現れ、七色の優しい光に包まれて迷魂の姿が消えていった。
「…はい、これで終わりです」
「なんか…思ったよりはやかった、ね」
「わたしも最初はそう思ってましたよ。ですが今となっては……うっ…」
その時、途中まで順調に喋り続けていたアルシェンが急に咳き込み始めた。
「アルシェン、大丈夫…?」
「くっ……げほっ…!」
咳は治まらず、アルシェンは遂に血を吐いてしまった。
「アルシェン…!」
小さな身体を更に小さくして咳き込み続けるアルシェンに、リーヴとセラは寄り添って心配する。
「すみません…最近、送魂を行うといつもこうで…」
「そうなんだ…アルシェンが楽になるまで、ここでやすもっか。セラには、ちょっと申し訳ないけど…」
「いいよ、アルシェンの体調の方が大事だから。それにしても…何で送魂をしたらこうなるんだろう」
「…分かりません」
アルシェンは一瞬躊躇ってから首を振った。まるで『本当は知っている』とでも言うように。
小話 〜送魂の仕組み〜
送魂士が奈落に迷魂を送る
↓
タナトスが頑張って迷魂の未練を晴らす
結局根本的な解決をしてるのはタナトスですが、送魂の為に現世に行く手間が省けるのでこれでも結構助かってるらしいです




