第85話 送魂士
真月が謎の理由で退いた後、リーヴは負傷したセラを連れてサンサーラの家に戻った。すると、少し服がボロボロになったクオンとサンサーラが雑談しているのが見えて来た。
「おや…帰って来ましたね」
「クオン…サンサーラ……セラが、わたしを庇って怪我を…!」
焦った様子で訴えるリーヴとは対照的に、サンサーラは至極冷静な様子でセラの容体を診る。
「どれどれ……ふむ。この程度の怪我であれば、セラさんなら大丈夫でしょう。血が出てはいますが、奇跡的にどの内臓にも影響は無さそうですし」
「よかった……って、なんでわかるの?外から見ただけなのに」
「…そういえばこの人、ワタシの能力を知りませんでしたね」
サンサーラは簡潔に自分の能力を説明し、今セラの身体を診たのも自身の能力によって得た力である事を明かした。
「ふぅん…便利、だね」
「手当ては必要ですが、それさえすれば後遺症や療養も必要無いでしょう。無論、セラさんが丈夫なのもありますがね」
それから、サンサーラは荒屋の中でセラの手当てに取り掛かった。ちなみに『何をしでかすか分からない』との事でクオンが同伴していた。
しばらくして、腕や足のところどころに包帯を巻いたセラが荒屋から出て来た。
「…あ、セラ帰ってきた」
「ただいま、リーヴ。怪我は無い?」
「わたしは大丈夫。ありがとう、セラ…」
リーヴは少し涙目になりながら、セラの身体を『ぎゅっ』と抱きしめる。
「わっ……ぁ…ぅ、ん」
再会した時とは打って変わって、リーヴに抱きしめられたセラは顔を真っ赤にして言葉を詰まらせている。
「セラさん…どうしたのでしょうか?さっきは自分から抱きつきに行ってたというのに…」
「先程より冷静になったという点もあるのでしょうが…久しぶりに会ったので、リーヴさんのスキンシップに対する耐性がリセットされてしまったのでは?」
「アナタが横文字使ってるの違和感しか無いですね」
「今それですか?」
死神達のノリはいつでもこんな感じだ。
「……えっと…も、もう…いい?」
「なんで?嫌…だった?」
「そうじゃなくて…その……久しぶりだから。あたしが…」
「ふふ。溶けちゃいそうなんだ」
「……うん」
「セラが溶けるのは、困るからね」
リーヴはパッとセラを離すが、セラの頬の紅潮はまだ治らないようだ。
その時、遠くの方からやたら元気そうな少女の声が聞こえてきた。
「先生〜!」
リーヴ達がそちらに目を向けると、ピンク色のふわふわしたツインテールの少女が元気よく走って来ていた。背は低めで、声だけでも元気の良い性格なのが伝わってくる。
「サンサーラ先生!さっきこちらから大きな音がしましたが、大丈夫ですか?あ、こっちの人達はお客さんですかね?こんにちは!」
その少女は満面の笑みを浮かべて、リーヴ達と握手していく。無論、クオンは『触れたら死ぬから』といって断ったが。
「皆さん、紹介します。この子は『アルシェン』と言って、15代目の送魂士です」
「「送魂士?」」
声を揃えて疑問を口にするセラとリーヴに、サンサーラが説明を始める。
「はい。簡潔に言えば、未練を持ったまま死亡したせいで奈落に行く事が出来なかった魂…俗に言う『迷魂』を奈落に送る者の事です。これは元々タナトスの仕事なのですが、いかんせん彼は多忙を極めているので…そこで、『魂を知覚する』という異能を持った人間を探して、その方にその役目を手伝って貰っているのです。本来ならワタシがやるべきなのですが…生憎、死神が近づくと迷魂は怖がって逃げてしまうのです」
「魂を知覚する……って事は、アルシェンはクオンと同じような事が出来るって事?」
「いえ、私の専門は魂関連の事では無いので、アルシェンさんは私より沢山の情報を魂から得られると思います」
「ていうか…アルシェンは送魂士なら、サンサーラとかクオンの事もしってるの?」
「そうですよ〜!わたしは先生が死神だって事も、エタナクスさんの手の事も聞いてます!」
「ふふ…元気いっぱい、だね」
アルシェンは人懐っこい性格の為か、すぐにリーヴ達と打ち解けた。
「それでは、わたしはあと1件だけ送魂が残っているので、行ってきます!」
「そうだ、アルシェン。せっかく知り合いましたし、リーヴさんとセラさんも連れていってはどうですか?」
それを聞くと、アルシェンは手を『ぱむ』と叩いて顔を明るくする。
「いいですね!人間の方なら近づいても大丈夫ですし!あなた達さえ良ければぜひ行きましょう!」
「うん。いいよ」
「滅多に出来ない体験だろうしね。行こっか」
こうして、3人は迷魂を送る為に何処かへと歩いて行った。その後ろ姿を見送ったクオンとサンサーラは、少し深刻そうな面持ちで話し始めた。
「…あの事は伝えたのですか?」
「丁度…今日の送魂が終わったら伝えようと思っていました」
「…そうですか」
3人が歩いて行った竹林の奥を見つめる2人を、涼しい風が包んでいた。




