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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第83話 奈落にて

今回、何人か前作の子が出てきます

ちょっとこういう話を書きたかったんです1話くらい許してください

少し前の事。死んだ筈のリーヴは目を覚ますと、見慣れない空間に寝そべっていた。暗い空と大地が広がっていて、少し遠くには街のような物が見える。


「ここは…」


まだ意識がはっきりしないまま、リーヴは辺りを見回している。そして、徐々に自分の身に何があったのかを思い出し始めた。


「あ、そう…だ。わたしは…」


リーヴは自分の腹部をさすりながら思い出す。あの瞬間の痛みを、あの瞬間の絶望を、あの瞬間の悲しみを。


「……っ…」


そして、リーヴは理解した。もうセラには会えない。クオンにも会えない。それだけではない、今まで出会った全ての友達にも、もう2度と会えないのだと言う事を。


「何で…わたしなの……?さみしいよ…っ…セラ…クオン……会いたいよ…」


唐突に上位存在に目をつけられて殺害され、その上見知らぬ世界で1人ぼっちになってしまった。かつてのリーヴであれば、1人の状態など何とも思わなかっただろう。しかし、セラやクオンなどと関わったお陰でリーヴの感性は育っていった。皮肉にも、それが今のリーヴの悲しみを生み出している訳なのだが。


「うっ…ぐす…」


幼い子供のように泣きじゃくるリーヴは、その場で顔を伏せてしゃがみ込む。しかし、そんなリーヴの背後から忍び寄る魔物の影があった。


「…あ」


リーヴの腰程度までの高さの狼のような魔物で、涎を垂らして唸り声を漏らしながらリーヴに近づいてくる。


「に…げなきゃ」


リーヴは涙も碌に止めないまま、どうにか立ち上がって走り出す。だが、足元がふらついたせいで2歩と進まないうちに転んでしまった。


「うぁっ…」


リーヴが痛みに顔を歪めている間にも、魔物はゆっくりと距離を詰めてくる。当然だろう、目の前に今日の食事が居るのだから。


「だ…だれか…だれか、助けて…!」


リーヴは涙を含んだ声で叫ぶが、こんな場所で助けなど来るはずもない。


「…!!!!!」


魔物が勢いよくリーヴに飛びかかったその時…


「散れ!」


空気を裂くような音と共に、誰かが上空から狼の魔物に急降下してきた。その勢いは凄まじく、魔物は跡形も無く木っ端微塵になった。


「怪我はないか?」

「あ……う、ん」


土煙の中に立っていたのは、黒を基調とした和風な服装に身を包み、長い黒髪を後ろで1つに纏めている、黒い槍を持った凛とした雰囲気の人間だった。


「あ、ありがとう…えっと、あなたは?」

「私か…私は『セツ』。家が嵐で壊れたから今は奈落に住んでいて……いや、私の身の上話などどうでもいいか」


セツは槍を振り回して血を払い、黒い魔力と共に槍を消す。『ふぅ』と一息ついたセツは、リーヴの頬を伝う涙に気がついたようだ。


「…何故泣いている?」

「あ…えっと……ね」


リーヴが辿々しくも頑張って今までの出来事を話す。すると、セツは真月の名前を聞いた瞬間に舌打ちをした。


「チッ…奴め」

「知り合い、なの?」

「ああ…少しな。それより、お前も死者ならば奈落の統治者の下に向かった方が良いのではないか?」

「と…とうち、しゃ?」

「そうだ。場所は分からないだろうから、途中まで私が送っていこう」


こうして、リーヴはセツに連れられて奈落の統治者の下に向かう事になった。しばらくすると、リーヴの目の前には大きな屋敷が見えて来た。


「これ?」

「ああ。特に入るのに許可などは要らないから、さっさと行くぞ」


2人は門を潜り、大きな木製の扉を開けて中に入る。セツは真っ直ぐに廊下を進んでいくので、リーヴもそれに着いていく。途中で、様々な人物の姿を見かけた。黒いコートに身を包んだ道化師のような雰囲気の男や、やたら目つきの悪いボサボサ頭の少年などだ。


(色んな人がいる…)

「よし、ここだ。ちょっと待っていろ」


セツは他の部屋の物より一回り大きな扉の前に立ち、息を大きく吸う。そして扉を叩きながら…


「おいタナトス!客人だ!さっさと起きろ!」


その時、扉から『バキッ』という音がした。リーヴがセツに視線を向けると、セツが叩いた場所にぽっかりと穴が空いていた。


「えっ」

「またやってしまった……まぁいいか。どうせ奴だしな…」

「良い訳あるか馬鹿力。あと神名で呼ぶな」


セツが呟いていると、扉が勢いよく開かれて、長く美しい銀髪を携えた青年が顔を見せた。


「起きたか。新たな死者を見つけたから連れて来たぞ、何かしら手続きが要るのだろう?」

「それよりドア壊した事を謝ってくれないか」

「間一髪だったな。もしあと少しでも私の巡回が遅ければ…彼女はどうなっていたか分からなかった」

「それよりドア壊した事を謝ってくれないか」

「後は任せる。私はお前に任された巡回の仕事があるからな」

「ドア…」


タナトスの台詞になど耳も貸さず、セツは屋敷の外に飛び出して行った。


「ドア…」

「え…えっと……こ、こんにちは。わたし、リーヴっていって…」

「あ…ああ。私は『タナトス』。君もこの奈落に来た以上、ここの規則は守ってもらうぞ。まぁ規則と言っても、そこまで厳しい物では…」


『奈落に来た』という台詞を聞いて、リーヴは再び思い出す。自分が死んでしまったという事実を。


「えっ……な、何故泣くんだ…?私の外見がそこまで怖かっただろうか…?あっ、セツに何かされたか?」


リーヴは無言で首を振る。


「そ、そうか…とりあえず、君が落ち着くまで少し話をしよう。そうしたら仕事もサボれるしな…」


今タナトスの薄汚ぇ下心が見えた気がしたが、とにかく、タナトスがリーヴを気遣っているのは本当だった。

タナトスはリーヴを自室に招き、(たまたま視界に入った)紅茶を淹れてリーヴに出してやった。


「美味いか?」

「…うん。熱いけど…おいしい」

「それは何よりだ。気分も少し落ち着いただろうか?」

「うん。ありがとう…あれ、何で…天井に木の板が貼ってあるの?」

「それは……かつてこの屋敷で繰り広げられた戦いにおいて、当時敵だった者の1人が魔法で開けた穴がまだ塞がっていないんだ。修繕費が無くてな…懐かしいものだ、あれからもう1年か2年程経っているとはな」


タナトスも紅茶を一口飲み、少し真剣な表情になって話し始める。


「君の身にあった出来事は知っている…魂から記憶を見れば分かるからな。本当に…辛かったろう」

「…」

「そう気を落とす事もない。確かに短時間ではあるが、奈落の住人となってからも現世の友人に顔を見せに行く事くらいなら可能だ」

「…うん。でも…」

「何だ?」

「もっと。もっと…セラやクオンと…色んな場所に行きたかった…」

「…」


タナトスはこう見えても心を痛めていた。何故こんな善良な少女が悲惨な目に遭うのか。そんな世の理不尽さを、彼は嘆いていた。と、その時、タナトスはとある事に気がついた。


「……ん?クオン?」

「そう、クオン。知り合い?」

「いや確証はないが…そういえば確かに私の友人の神…フフッ、さしずめ友()と言ったところか。彼女が人間の世界でそう名乗っていた気がするが…」


その時、タナトスの中である1つの仮説が生まれた。


「…ちょっと待て。仮にリーヴ殿の言うクオンが私の知り合いだったとしたら……まさかリーヴ殿を蘇生させようとしてはいないだろうな…?何千年か前に彼女は『死者の蘇生はその者に対する冒涜』と言っていた気が…いや、それはあくまでも天寿を全うした者に対しての話だ。なら全然あり得るぞ…私以外の者は死者の蘇生が私にとってどれだけ面倒な事なのか知らないからな…」

「…どうか、した?」


超早口な独り言の内容がよく聞こえなかったリーヴが、少し身体を前に出して聞く。


「…すまない、少し出かける」


すると、タナトスは大鎌を取り出して空間を斬り裂き、どこかへと消えていった。


「どこいったんだろう」


リーヴが開きっぱなしの空間の裂け目を覗くと、タナトスと他の誰かの話し声が聞こえて来た。


「…本当に蘇生をしているのか?」

「そりゃ頼まれましたし…エタナクスはワタシより先輩の神ですから、逆らう訳にもいかなくてですね」

「いや違うな、絶対違うな。君は単に新たな死因を開拓したかっただけだろう」

「おや、バレましたか」

(エタナクス…ってことは、クオン…?まさか2人とも…わたしを生き返らせるために頑張ってくれたの…?)


一瞬にして、リーヴの顔に笑顔が戻っていく。


「はぁぁぁよかった、本当によかった。リーヴ殿の手続き始めなくてよかった…」

「まぁアナタの仕事量は変わらない訳ですが」

「労基に訴えるぞ」

「奈落の労基ってそれつまりアナタじゃないですか」

「そうだった…」


やがて、タナトスは裂け目の向こうから帰ってくる。先程とは違って微笑みを浮かべているリーヴを見て、タナトスは若干困惑する。


「…どうかしたか?」

「ふふ…何でもない」

「ああそうだそうだ。結論から言うと、君は今蘇生されている最中だ」

「ふふ。しってる」

「何故だ。まぁいいか…増えたと思った仕事が無くなったからな」


その瞬間、リーヴの身体が黄金の光に包まれ始める。


「わ…これ…なに?」

「もうそろそろお別れだな。短い間だったが、縁があればまた会おう」

「…うん、ばいばい」


とは言っても、もう少し時間がかかる事はお互い分かっていた。なので、タナトスは1つ話を始める。


「もう会う事が無いかもしれないから、私から1つ教訓を授けよう。今、幸福が手元にある事…今、大切な人間が側に居る事を、決して当たり前だと思わない事だ。私もセツも…それらを履き違えたが故に心に傷を負い、一時とはいえ道を踏み外した。君は…そうはなってくれるな」

「…」


リーヴは何も言いこそしなかったものの、その言葉を心に刻んだ。


「…うん。わたしも、学んだ。当たり前は、当たり前じゃないんだね」

「そういう事だ。さて、そろそろ本当にお別れだ。達者でな、リーヴ殿」


タナトスのその言葉を最後に、リーヴの視界は黄金の光に包まれた。

キャラクタープロフィール

【失望の彼岸帝】タナトス

種族 神

所属 奈落

好きなもの 金 駄洒落

嫌いなもの 仕事

異能 次元を移動する力

権能 生死を司る力

作者コメント(前作のネタバレが多少含まれます)

元人間の神で、人間時代の名前は「カロス」

異能と権能の両方を持っているのは元人間だから。あり得ないくらいの金欠で、部下数人に総額2000万円(こちら側の価値換算)の借金をしている。何だかんだ慕われてはいるが部下からの扱いは酷く、とある理由で10円ハゲが出来た時は部下全員からすれ違う度に「ようハゲ」「金返せハゲ」などと言われていた。かわいそう。かわいそうだがこれでも神なのでクオンと渡り合える程度には強い。

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