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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第80話 人斬り

豆知識

クオンの過去編でサラッと触れられた「神の異形化」ですが、あれは要約すると強くなりすぎた権能を制御出来なくなった結果、ある種の暴走(もしくは力への適応)のような形で起こる現象です

ちなみに、異形化の可能性はどんな神にもありますので、クオンが異形化する未来も普通にあり得ます

時は少し遡り、セラ達が星喰を討伐して街に戻って来た頃。サンサーラはセラに頼まれた通りに、リーヴを蘇生する儀式の準備をしていた。


「……これでよしと。この調子では…数日はかかってしまいそうですね。まぁ、蘇生出来るだけ良しとしましょう」


実のところ、サンサーラはセラ達が出かけた直後から蘇生の準備に取り掛かっていた。元来サンサーラはあまり動き回る性格ではない為、一仕事終えた彼は大きく伸びをする。


「さてさて、ワタシは日課の自殺でも…」


サンサーラは小刀を持ち出し、嬉々としてそれを首に当てた。すると…


「…おや。お客さんですか」


サンサーラは至極残念そうに小刀を放り捨て、今にも崩れ落ちそうな荒屋の戸に手をかける。その瞬間、刃こぼれの酷いボロボロの切先がサンサーラの顔面目掛けて突き出てきた。


「しまった…反射的に避けてしまいました。食らっておけば、また新たな死因が開拓出来たかもしれないと言うのに…」


何だそのパワーワードは。


「さて、ヤンチャをする子は誰でしょう…かっ」


サンサーラは台詞を言い終わるのと同時に扉を蹴り飛ばした。扉諸共蹴り飛ばされた刀の持ち主は、ボサボサの黒髪を携え、赤い両目の下にクマのある女剣士だった。


「その顔…見覚えがあります。アナタ……最近話題になっている人斬りですね?」

「…ああ。アタシは『(とう)』…アンタは強そうだ、斬らせてもらう」


疼と名乗った人斬りは、迷いなく刀を構える。


「やれやれ……いつもならば適当にあしらって終わらせるところですが…今回はリーヴさんの事もありますし。ワタシも一肌脱ぐとしましょうか」


サンサーラも錫杖を取り出したが、その両目は依然として閉じられたままである。


「…行くぞ」


疼は短く声を発した後、凄まじい速度でサンサーラに接近して斬撃を浴びせる。その銀色の軌跡は何度も交差し、サンサーラの肉体を切り刻まんとする。しかし、その全てをサンサーラは受け流す事すらせずに躱していく。


「欠伸が出ますねぇ……アナタは何が目的ですか?何故ワタシの下に?」

「アタシはただ…強い奴と戦いたいだけだ」


その発言は側から聞いていれば特に変な箇所も無かった。が、サンサーラは何かに気づいたようである。


「…部分的に嘘ですね。アナタには何か隠しているもう1つの目的がある」

(何だコイツは…心を読む能力でも持っているのか?)

「…集中」


サンサーラは疼の隙を見逃さず、疼の顎に強烈な掌底を叩き込む。


「ぐぁっ…!」

「早く立て直しなさい、死にますよ」


サンサーラが錫杖を地面に叩きつけると、黄金に輝く幾つもの雷が疼を追撃する。


(魔法攻撃もお手のものか…!)


疼は何とか姿勢を立て直し、再び古ぼけた木製の鞘に収められた刀を構える。


「今度は…アタシの番だ」


疼がサンサーラの斜め上空に高速移動し、刀を振り下ろしながら落ちてくる。


「おお…」


サンサーラの胴体に斜め十字状の斬撃が走り、疼は勝利を確信した。が。


「この程度ですか……セラさんの光の方が良質でした」


ご存知の通りサンサーラは不死である。しかもありきたりな死に方に飽きて、自殺を趣味にする程度には死を経験している。つまり、この程度の負傷は彼にとって指の逆剥けと同じような物なのだ。


「アンタは…不死身なのか?」

「ええ、生憎ワタシを殺す事は不可能ですよ。どうです?ここいらで撤退してみては?」


サンサーラは余裕そうな表情で疼に提案するが、疼は笑みを浮かべて返答する。


「…いいや、アタシはアンタを殺せる」

「そうですかそうですか。お好きにどうぞ」


サンサーラは最早戦うつもりすら無いようだった。


「…舐めた真似を」


短い舌打ちの後に、疼は姿勢を低く構える。そして足に力を込め、一瞬にしてサンサーラの首元に刃を持っていく。そしてそのまま…


「な…」


サンサーラが何かを言い終わる前に、疼の刀がサンサーラの首を飛ばした。疼は刀の血を払いながら独り言を呟く。


「不死身の奴とは戦った経験がある…そういう奴らは皆、首を刎ねられれば死ぬ。不死である自分の力に慢心したな、修行僧」


疼は勝ち誇ったように刀を鞘に収め、荒屋の方に歩いて行く。

その時だった。


「…っ!?」


背後から落雷のような轟音が聞こえて、疼は思わず振り向く。見ると、そこには確かに首を落とした筈のサンサーラが立っていた。何なら、今も自分の首を持っている。


「…どういう事だ?」

「いやはや、実に滑稽でした。アナタが何から何まで勘違いしているのがあまりに面白く…ついふざけ過ぎてしまいまして」


サンサーラは首を繋げながらヘラヘラと笑っている。疼を心の底から馬鹿にしているようなサンサーラの口調に、疼は苛立ちを募らせる。


「特別にお教えしましょう。ワタシは輪廻の神、サンサーラ。確かにワタシは不死ですが、その不死を人間の異能程度と同じにしないでいただきたいですねぇ」

「神……ハッ、まさか本当に神と刃を交える事があるとはな」


疼は三度、刀を構える。まるで『第2ラウンド開始だ』とでも言うように。


「まだワタシの言葉は終わっていませんよ。お教えすると言ったでしょう…ワタシの権能をまだ説明していません」

「アンタの権能だと?」

「ええ…実際に見せた方が良いですかね」


その瞬間、サンサーラは先程までは使っていなかった水の魔法を発動させ、疼に向かって凄まじい濁流が押し寄せる。


「くっ…!これは…?」

「ああ、理解出来ませんでしたか。ワタシの権能は……『死ぬ度に新たな能力を授かって蘇る力』です。ちなみに、例え全身を粉々にしたところでワタシを殺す事は不可能です。さぁ、アナタのお望み通り…第2ラウンドと行きましょうか」

「…ふっ、面白い…!」


疼の眼は、高揚からか爛々と光っていた。

ボスキャラ解説

【闘飢の刀鬼】とう

種族 人間

所属 浮月

異能 なし

今回使用した技

逸刀いっとう

→ただの一閃

・双葬

→斜め十字状に斬撃

閃歩せんほ

→高速移動。ちなみに魔法ではなく純粋な身体能力

・彼岸送り

→シンプルな高速の居合。閃歩と合わせると初見ではまず躱せない

概要

ここ最近の浮月で噂になっている人斬り。ボロボロの刀を使うので戦いやすい相手かと思いきや、彼女の剣撃は刀の刃こぼれなど微塵も感じさせない程に鋭い切れ味を誇る。また、疼は魔力を扱う訓練などはしていない為、使用する技はシンプルな物がほとんど。

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