第8話 手がかり、さがすよ
リーヴの身長は170cmで、セラは164cmです
ちょっとだけリーヴの方が高いんですね
「やっぱり居るね…」
今、3人は物陰からセラ、リーヴ、パラノイアの順番で顔を覗かせている。身長が低い順だ。実験室の扉の前に、銃を持った3人の見張りが立っている。
「どうする。リーヴが戦えないのは知ってるが…相手は3人だ。どっちが2人やる?」
「あたしがやるよ。速さには自信があるから」
「そうか、なら俺は1番左の奴だ」
その声と同時に、パラノイアは物陰から飛び出す。
「で…出た!怪ぶ…」
見張りの男が引き金を引くより先に、パラノイアは左腕で男の顔面を掴んで壁に叩きつける。
「例の部外者も一緒だ!撃て!」
「当たらないよ!」
セラは一瞬だけ全身を光に変えて弾を避け、双剣の峰で残りの2人を気絶させた。
「片付いたな…ところで、お前は本当に人間か?」
「えっ?」
「見たところ、歳は16かそこらだろう。その年齢の者が辿り着ける実力では無いと思うんだが…」
「そうは言われても…あたし、特に何もしてないよ。小さい頃の記憶が曖昧だから、もしかしたらその時に何かあったのかもしれないけど…」
「…まぁ本人に分からないのなら、無理に話を続ける必要は無いな」
「ねぇ、なにか落ちてるよ」
リーヴは気絶している3人の側から、小さな袋を拾ってきた。
「なにこれ」
「袋…?小物入れかな?」
「これは…良い物を拾ったな」
「知ってるの?」
「ああ。これはここの奴らが愛用してる代物だ。原理はよく知らないが、中に入れた物を縮小させて持ち運びを便利にする物らしい。ちゃんと取り出す時は元の大きさに戻るしな」
要は四次元ポ◯ットである。
「どういう理屈なんだろう…」
「お前達に1つ教えてやろう。必ずしも何かの仕組みを理解する必要は無い。『そういうものだ』と理解すれば、自ずと疑問は消えていく」
「パラノイア…実はわかんないんじゃ」
リーヴの問いかけを遮るように、パラノイアが袋を差し出す。
「俺は要らないから、お前達が持っていろ。旅をする上で役に立つだろう」
「わかった。ありがと」
(やっぱりわかんないんだ)
2人はその袋をポケットにしまった。
「じゃあ、中に入ろっか」
と、その時。セラとパラノイアの背後から何かを咀嚼するような音が聞こえてきた。位置関係からしてリーヴだろうが、一体何を食べているのだろう。
「…」
リーヴは『もしゃもしゃ』と何かを食べ続けている。
「リーヴ?何食べてるの?」
「…おいしくない」
リーヴは口の中に入っていた物を『べっ』と吐き出す。
「…紙?」
「さっきの手帳の白紙のページ…おなか空いてて」
「腹壊すぞ…」
「…いい?リーヴ。これからは、何でもかんでも口に入れたらダメだよ?」
「おなか空いてても?」
「お腹空いてても」
「はぁい」
リーヴは気の抜けた返事と共に、右手を『へにゃあ』と上げる。
「…気を取り直して、フェイズの手掛かりを探すとしよう」
3人は先程の部屋と同じく、机の上を漁り始める。
「あ…これじゃない?」
今度はセラが手帳を見つけた。
「よし…中を見てみよう」
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No.114
明日から実験が始まる。自分自身の復習も兼ねて、実験の手順を振り返ろう
まず、今回の実験に使うのは『淵気』と呼ばれる特殊な魔力だ。これは『深淵』という未知の世界に漂う大気であり、その淵気を被験体に投与する。というのが、大まかな実験の内容だ
深淵については未だ不明な点が多い。分かっているのは、深淵には黒いインクのような化け物、『淵族』が大量に蠢いているという事。そして、深淵に行くには学会が完成させた『次元移動装置』に仮死状態で入らなければならない、という事
まぁ、こんな情報を記したところで明日の実験には関係ないが
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「深淵…そんな場所があるんだ」
「…ああ」
パラノイアは目を伏せて応答し、違うページを開く。
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No.115
少し問題が発生した
この星の王が『他星との戦争に役立つ物を寄越せ』などと催促してくるのだ
確かに王は好戦的な性格だが…私にそれを頼まれてもな。第一、深淵の力など戦争にどう活かすと言うんだ。よし、そう言って断ろう
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手記のページはまだまだ続く。
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No.117
予想外だ
淵気を体内に取り込ませた被験体が、尋常ではない程の苦しみを訴えている
あろう事か…その被験体は身体が変異し、魔物のように…いや、淵族のようになっている
しっかりしろ、気を落とすな
何かが駄目だっただけだ
それが分かった時点でこれはある種の成功だ
決して失敗などではない
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「淵気って…人間が取り込むと魔物になっちゃうの?」
「ああそうだ…全く、聖賢学会は腐っているな」
パラノイアは舌打ちをしながら、少し飛ばしてページを開く。
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No.137
最後だ
これが最後の被験体だ
今までの被験体は全て失敗に終わり、皆が淵族と成り果てた
最後の被験体の名は 。私の親友だ
彼を最後まで残していたのは…私に残った僅かな理性なのかもしれない
大丈夫だ。きっと
君を苦しませはしない
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文字が掠れていて、フェイズの親友の名前は分からなかった。3人は段々と何かの物語を読んでいるような気持ちになってきて、微かな高揚と共に次のページを開く。
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No.138
最悪だ
結局彼も淵族になってしまった
すまない
すまない
すまない
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3人は無言でページをめくる。その時のパラノイアは顔を顰めていた。
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No.175
このところは現実逃避の為に手記ばかり書いている
また王が『物を寄越せ』などと催促してくる
知るか
勝手にしてくれ
ここには研究の副産物か失敗作しか無いのだから
私にすら扱えなかった深淵の力が、あの王如きに扱いきれるものか
このまま王と星諸共、滅びてくれれば良いんだがな
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「フェイズの友だち…化け物になっちゃったんだ」
「…悲しいね」
3人はまたページをめくるが、あとのページには狂ったように懺悔の言葉が書かれているだけだった。
「これで…終わりなの?」
「いやそんな筈は無い…探せばもう一冊ある筈だ」
確信があるかのような言い方に、2人は恐らく同じ疑問を抱く。そして、セラがパラノイアの後ろ姿に呼びかける。
「ねぇ…もしかしてパラノイアって、ここの実験で生まれた淵族なの?」
「…そうだ。平たく言うとな。俺の話は長くなると言っただろう?手記探しに戻ろう」
3人は、また書類の山をひっくり返し始めた。
キャラクタープロフィール
【淵底の怪物】パラノイア
種族 淵族
所属 研究所
好きなもの 肉 考え事
嫌いなもの 植物 アルコール
異能 なし
作者コメント
割と結構謎な生き物。コイツの触手や左腕は異能ではなく身体の一部。ちなみに身体は再生可能である。