第77話 無為の流離人
セラって実は結構人見知りなんですよね
でもリーヴにもう一度会う為に1ミリも素性を知らん変態破戒僧に頼み事をしに行ったのです
「流離さん…どこに行ったのでしょうか」
「歩くの速いね」
2人は街の外の荒地に突如出現したという、漆黒の大蛇の姿をした魔物を討伐しに出かけた流離の後を追っていた。街の外が目的地なので、2人は流離も街の外側に向かって歩いているかと思っていた。のだが。
「…何で、街の中心部でこの人を見るんだろう」
「もしかしたら…何か必要な物を買い出しに来ているだけかもしれませんよ?」
結構長い時間探し回っても見つからなかったので、ダメ元で街の中心部まで歩いてみたところ、あっさり見つかった。2人が少し呆れたような視線を向けていると、流離もそれに気づいたようだ。
「お前達か。俺に何か用か?」
「えっと…あたし達はこの後やる事も無いし、よかったら手伝おうかな、って…」
「…メリットも無いのにか?」
「え…?は、はい」
セラが若干戸惑いながら答えると、流離は何かを懐かしむかのように軽く笑った。
「あの…何か?」
「いや……昔の知り合いを思い出してな。奴も…お前と同じように、何のメリットも無いというのに他者の助けになろうとする人間だった」
柔らかく笑う流離の顔は、正午を過ぎた太陽に照らされて微かに光っていた。
「ともあれ…星喰と交戦するにあたっては、戦力は多いに越した事はない。感謝する」
「星喰?」
「標的の大蛇の名前だ。様々な星を渡り歩き、行き着いた星のエネルギーを枯れ果てるまで吸い尽くしていく…俺は奴と過去に交戦し、痛み分けに終わっている」
「だから因縁がどうとか言っていたんですね…」
「ああ。それと…1つ頼みがある」
流離は些か真剣な面持ちになって、セラとクオンに告げる。
「俺と共に戦う以上…絶対に死ぬな」
「…?うん」
セラは流離の発言に深い意味は無いのだと判断し、返事は短く済ませた。しかし、次の瞬間には小さく呟くような流離の言葉が耳に入ってきた。
「…もう2度と。俺の目の前で死なないでくれ」
それはセラにもクオンにも聞こえていた為、2人は思わず顔を見合わせた。何か聞こうかとも考えたが、単純な話でも無さそうなので一旦後回しにした。
「じゃあ、行こっか」
こうして、3人は街の外を目指して歩いていった。
「あの…流離さん」
少し歩いた頃、セラが流離に話しかけた。
「敬語は不要だ。何だ?」
「分かった。じゃあ…流離は何で旅をしてるの?」
「俺の旅の目的か…」
流離は目を細めて、過去を思い出すかのように話し出す。
「…悪いが、言えないな」
「そっか……それは、どうして?」
「後ろめたい事がある訳じゃない。ただ…お前達が知るにはあまりにも残酷過ぎる。知らなくていい事も…この世には確かに存在しているんだ」
クオンは流離の心情を理解したのか、特にその話題について追求する事はなかった。しかし、セラはまだ少し気になっているようだ。それを汲み取った流離は、小さく溜め息を吐いてから口を開く。
「…例えばだ。もしこの世界の全てが……そう。苦難も、幸福も、人も魔物も理さえも全て、誰かに作られた物なんだとしたら…お前はどう思う?」
「それは…ちょっと嫌かも。あたしも最近すごく辛い事があったから…それも誰かに仕組まれた事なんだって知ったら……生きてるのが嫌になりそう」
「私も概ね同意見です。箱庭の中で、誰かの玩具として生きていくならば…私は死を選びたい。あくまでも、『ならば』の話ですが」
その答えを聞いた流離は静かに目を閉じて、小さく頷いた。
「…だろうな」
それ以降、流離がこの話題について話す事は無かった。またしばらく歩いた頃、思い出したようにクオンが提案する。
「そういえば…共に戦うのならば、お互いの戦法の確認をしておいた方が良いのではないでしょうか?」
「…それもそうだな。外に出たら、適当な魔物で行うとしよう」
やがてセラ達は街の外に出て、魔物を探し始めた。荒地とはいえ、ところどころに岩やら何やらがあって邪魔そうだ。
「あ、あそこの人型の魔物はどうかな」
「良いと思います。流離さん、始めま…」
2人は振り返って思わず絶句した。理由は2つで、1つは後ろに巨大な蛇が…つまり星喰が炯々とした目をセラ達に向けていたからである。もう1つの理由は単純、何故か流離が居ないのである。そして2人はその瞬間、流離が何故街の中心部に居たのかを理解した。
「「流離方向音痴だ…!」」
「!!!!!!!!!!!!!」
星喰は2人の焦燥など気にも留めず、開戦を告げるかのような咆哮を上げた。
やたらリーヴの復活周りの話が展開早かった気がするんですが、そもそも私はこの作品であんまり暗い話を書きたくなかったのでああなりました。短くスパッと心を抉ります




