第75話 滞在許可
豆知識
サンサーラが閉眼している理由は盲目だからではなく、「その方が死にやすい」かららしいです
浮月に滞在する許可を貰いに行く為に、セラとクオンは竹林を抜けた先に位置する街に向かった。その道中、セラとクオンは普段通りに談笑している。クオンは内心、セラがリーヴの一件で心に深い傷を負ってしまうのではないかと心配していたが、セラの心は想像より強かったようだ。
「そういえば、サンサーラさんって戦えるの?」
「はい。彼も普通に戦いますよ」
「やっぱり…でもちょっと意外。どうやって戦うの?」
「それには少し長めの説明が必要なのですが…」
クオンは『こほん』と小さく咳払いをしてから、セラにちょっとした授業を始める。
「まず、全ての神や概念種は『神器』と呼ばれる特殊な武器か、『眷属』と呼ばれる存在を己の魔力を使って創り出す事が出来ます。例えるならば私の武器は神器に当たり、神器は基本的に破壊不可能な上、物によっては何か特別な能力が備わっている場合もあります」
「なるほど…じゃあ、サンサーラさんの錫杖はあの人の神器って事?」
「いえ、彼は眷属を選びました。ちなみにですが、神器と眷属を両方創るのは魔力の消費量などの関係上、ほとんど不可能です。無論、可能な方も居ますが」
「へぇ……なら、眷属って何?」
「眷属はその名の通り…自身に付き従い、場合によっては自身と似た能力を持つ事もある存在です。基本的に亜空間に待機しており、呼べばいつでも召喚出来ます」
「じゃあ、サンサーラさんにも何かの眷属が居るんだ……そうだ、もう1つ聞いていい?」
「どうぞ」
「サンサーラさんって…強い?」
その問いに、クオンは少し思案してから答える。
「…はい。強いですよ、彼は」
「クオンとだったら、どっちが?」
「本当に本気を出せば私が勝ちますが…そうでない限りは私でも苦戦はすると思います」
(あんなに変わってるのに…そこはしっかり神なんだなぁ)
そんなこんなで、2人は街に辿り着いた。あの竹林からは想像し難い近未来的な風景が広がっており、道端に並ぶ店も和洋様々な雰囲気を纏っている。街に入ってしばらくした時、クオンが控えめに呟いた。
「あの…少し、お腹が空きませんか?」
「確かに…近くのお店で軽食でも買おっか」
2人はぱっと目に入った団子屋に入る事にして、その入り口の暖簾を潜る。中には甘じょっぱいようなタレの良い香りが立ち込めており、そこそこの広さの店内には数名の客が居る。
「あたし…お団子は食べた事無いんだけど、どういうのがおいしいのかな」
「実は私も食べた事が無く…どうしましょう、帰るのも冷やかすようで悪いですし…」
2人がメニュー表を眺めて迷っていたその時、近くの席で3本の団子を食べていた青年がそっと近寄って来た。
「聞こえてしまったんだが…団子を食べた事が無いそうだな」
「あ…はい」
その青年は男にしては長めの黒髪や、片目が隠れる程度の長さの前髪、美しい緋色の目と腰に差した刀が特徴的な青年だった。
「当然、好みは人それぞれだが…俺が最も人に薦められると思っているのは、このみたらし団子だ。あとは3色団子や、餡子の団子も安牌だな」
2人は青年の薦めた3種類の団子を買って、店の中で食べてみた。
「おいしい…!」
「頬の端が痛くなりますね…」
「だろう?実は団子というのは、俺の故郷の星で生まれた食べ物なんだ」
「へぇ…教えてくれてありがとうございました。えっと…」
セラが暗に青年の名前を知りたがるような素振りを見せると、青年もそれに気づいて答える。
「俺の名か?俺の事は『流離』とでも呼んでくれ。俺自身の性格上、本名ではないが…今まで名乗った偽名の中で1番気に入っている名前だ」
「流離さんですか。美しい響きですね」
「クオン、あたし達もそろそろ行かなきゃ」
「あ…そうですね。では流離さん、私達はこれで」
「ああ。達者でな」
腹ごしらえを済ませた2人は、改めて滞在許可を貰う為に浮月の将軍の下へ向かった。将軍が公務を行う建物に入って目的を話すと、将軍は快く受け入れてくれた。
「なるほど、滞在許可を取りに…分かった。少し待っておれ」
2人は1時間ほどの手続きの後、無事に滞在許可を得る事が出来た。目的を果たしたので帰ろうと思い、入り口の方へ歩いて行くと、治安組織の者らしき兵士が入って来て叫んだ。
「将軍様!不法滞在者をお連れしました!」
「ああ…本当に居るんだ、不法滞在する人って」
「規則とはいえ、どうしても守れない方も居ますから…」
2人は特に気にしてもいなかったが、後から兵士に連れられて入って来た人物を見て思わず目を見開いた。
「どうしてこうなった…」
そこに居たのは、先程団子屋で出会った青年…流離だった。




